退職代行サービスから連絡が来たからと言って、必ず退職代行サービス・退職代行業者の言うことを聞かなければならないのかというとそんなことはありません。
今回は、退職代行業者から連絡が来た場合の対応を考えていきます。
┃退職代行業者・退職代行サービス
従業員が急に欠勤して出社しなくなり、しばらくしたら退職代行業者を名乗る会社から連絡が来た、という経験をしたことのある事業主さんもいるかと思います。
退職代行業者とは、(元)従業員に代わって退職の意思や退職時の要望を事業主に伝えることをサービスとして行っている事業者のことを言います。
退職代行業者には、大きく分けて2種類あり「弁護士が退職代行サービス」を行っている場合と「一般企業がサービスとして退職代行サービス」を行っている場合があります。
┃退職代行業者・退職代行サービスの問題点
弁護士や弁護士法人でない者が本人を代理したり、相手と交渉したりすると非弁行為となり弁護士法違反となります(弁護士法第77条)。
退職代行サービスは、この弁護士法違反になるかどうかの瀬戸際のサービスと言うことができ、弁護士以外が行っている場合は、グレーなケースも少なくありません。
退職代行サービスの場合、従業員本人から預かった退職届を会社へ送付するだけであれば非弁行為とならない可能性もあります。
しかし、退職日や引き継ぎ等の交渉が発生すると退職代行業者は、間に入ることができないと考えられます。
→間に入って交渉を代理すると非弁行為になる可能性がある
┃退職代行業者は、大きく分けて2種類
退職代行業者を名乗る者から連絡が来た場合、まずはどちらのパターンかを確認すると良いでしょう。
○弁護士が退職代行サービスを行っている
従業員本人の代理人として弁護士から連絡があったのであれば、その弁護士相手に交渉を進めれば良いでしょう。
○退職代行業者が退職代行サービスを行っている
送られてきた退職届等に「本件についての連絡は、○○株式会社へ連絡してください。」などと記載されていることがあります。
退職代行業者を通して連絡するよう依頼してくるケースですが、事業主としては特段従う義務はありません。
┃最後に元従業員と顔を合わせたいと考えることも
従業員が退職代行サービスを使うということは「辞めたい」「もう会社に行きたくない」「社長(上司)と顔を合わせたくない」と強く考えているということに間違いありません。
そのような労働環境を作ってしまったということを反省し、労働環境を見直すことも考える必要があるかもしれません。
一方で、事業主としては「最後くらい顔を合わせたい」と考える人もいるでしょう。
そんなときは、「最後の給与は手渡しするので会社まで取りに来るように」伝えてみることも考えられます。
┃賃金の直接払いの原則
労働基準法第24条第1項では「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」と規定されています。
○労働基準法の原則と例外
賃金の支払いについて労働基準法の原則と例外は、次のようになっています。
原則 | 例外 | |
①通貨払いの原則 | 現金(日本円)で支払う。 | 労働者本人の同意があった場合にのみ口座振込が可能。 |
②直接払いの原則 | 直接労働者本人に支払う。 | 使者に支払う。 |
③全額払いの原則 | 全額を支払う。 | 法定福利費や労使協定で定めたものを控除する。 |
④毎月1回以上払いの原則 | 賃金は、毎月1回以上支払う。 | 賞与等、不定期で支払われるもの。 |
⑤定期日払いの原則 | 「毎月○日」というように定期的に支払う。 | 「毎月末日」として支払い日が変動する。 支払い日と金融機関の休業日が重なり前倒しする。 |
○従業員の賃金は、弁護士(代理人)にも支払うことはできない
「②直接払いの原則」の例外に出てきた「使者」は、意思決定の能力(権限)を持たず、ただ単に受け取った賃金を本人の元へ運ぶ人である必要があります。
例えば、従業員本人が病気などで出社できない場合に配偶者等に支払うケースが考えられます。
労働者の親権者その他法定代理人、委任を受けた任意代理人に賃金を支払うことは労働基準法違反となるのです。
弁護士が代理人として賃金を受け取りに来ても支払う義務はありませんし、退職代行業者でも同様に支払う義務はありません。
むしろ、従業員本人以外に賃金を支払うと事業主が労働基準法違反になると考えても良いでしょう。
仮に弁護士や退職代行業者が「使者」として賃金を受け取りに来たとしても
「使者に対して賃金を支払うことは差し支えない」
とされているだけで
「使者に対して支払わなければならない」
という規定は存在しません。
(昭和63年3月14日付け基発第150号)
最後に元従業員と顔を合わせたいと考えるのであれば「最後の給与は手渡ししたいので会社まで来て欲しい」と伝えてみるのも一つの方法です。
それで給与の受け取りを拒否するようであれば、その旨を記録に残しておけば良いでしょう。
もちろん、退職代行業者が介入することなく気持ちよく次のステージに送り出せるような環境づくりや悩みを言い出せるような環境づくりが重要であることは言うまでもありません。
*厚生労働省
労働基準行政全般に関するQ&A