事例紹介┃固定残業制を途中から導入する場合

2020年4月、民法改正により割増賃金の時効が5年(当分の間は3年)に延長されました。

労働者側からすると未払い残業代・未払い賃金として請求できる金額が単純計算で1.5倍になったと考えることができます。

特に固定残業制を導入している事業主は、適切に運用されているか注意が必要です。

┃神代学園ほか(残業代請求控訴等)事件

(東京高裁 平成17年3月30日 判決)

■事件の概要(原告:労働者、被告:事業主)
被告Mは、音楽家を養成する専門学校ミューズ音楽院(以下「ミューズ音楽院」という。)の学院長として、同音楽院を個人経営している者。

原告らは、ミューズ音楽院の従業員で、既に退職し、または部長等の職を解かれていた。

○事業主による賃金体系の変更
被告らは、平成13年4月27日、原告Gら3名の管理職に時間外手当を支給しないことを骨子とする本件体系変更を行った。

【変更前の賃金項目】
基本給、職務手当、役職手当、教務・事務手当、時間外手当、休日出勤手当及び交通費

【変更後の賃金項目】
基本給、役職手当、時間外手当、休日出勤手当及び交通費

○当事者の主張
【原告らの主張】
・時間外労働に伴う割増賃金を支払ってほしい。

【被告Mの主張】
・原告Gらは、管理監督者だから割増賃金は発生しない。
・役職手当は、固定残業手当として支払っていた。

以上のような労務トラブルにより争いがありました。

■裁判所の判断
まずは、事業主が主張する「管理監督者だから割増賃金は発生しない。」という点について、検討する必要があります。

○勤怠管理
・原告らは、それぞれ部長等に任命された後も出退勤時刻が記録されていた
 →タイムカードによる管理が行われていた
 →一般従業員と変わりない

○経営・人事に関する権限
・教務部の従業員の採用に際し面接を行う等していた
・人選についての意見を被告Mに対して述べてることができた
・上司として指揮をする立場にあった
・音楽講師の雇用に際しても、人選に当たっていた

以上のような権限があったと認められるものの、
「原告が、被告Mの指示や承諾を得ることなく、同原告の裁量で教務部にかかわる業務を行っていた」
との被告M主張の事実やそのような大きな権限が原告に付与されていた事実を認めるに足りる的確な証拠はない。

として、管理監督者として認められるほどの権限はなかったと裁判所は判断しました。

○経理処理に関する権限
・原告は、経理支出についても関与していた

しかし、「原告が、経理にかかわる権限を一手に掌握し、被告Mの指示や承諾を得ることなく、多額の出費を同原告の判断で行っていた」
との被告ら主張の事実やそのような大きな権限が原告Hに付与されていた事実を認めるに足りる的確な証拠はない。

として、経理処理に関してもそこまで大きな権限は有していなかったと裁判所は判断しました。

○固定残業制の導入
※定額残業制、みなし残業制・固定残業制ともいわれますが意味は同じです。

【被告Mの主張】
・賃金体系変更により、役職手当は固定残業手当として支払われていた

以上のように事業主は主張しましたが、役職手当が時間外割増賃金の定額払の趣旨で支給される賃金とされたものと認めるに足りる合理的な根拠があるとはいえない。

これは、割増賃金部分と他の部分が明確に区分されているものと認めることはできない。

裁判所は、以上のように固定残業制を認めませんでした。

┃まとめ

裁判所は以上のように判断し、被告M(事業主)に対して原告らへの未払い残業代の支払いを命じました。

さらに役職手当が固定残業手当であったという主張も認めませんでした。

本件の事業主は、固定残業制の導入に伴い、従業員への十分な説明もなく半ば一方的に固定残業制を導入してしまったことがトラブルの発端です。

固定残業制を導入する場合には、適切な手順と方法で導入することが重要です。

また、「管理監督者」の正しい理解も必要になります。

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