事例紹介┃賞与の支給日在籍要件の有効性

一般的に夏季賞与が支給される時季です。

こうした時に度々問題になるのが「賞与をもらってから辞める」問題です。

就業規則の中に「賞与は、支給日に実際に在籍している者を対象とする」といった支給日在籍要件を規定しているケースも少なくありません。

今回は、賞与の支給日在籍要件が争われた事例を紹介します。

┃須賀工業(賞与金請求)事件(東京地裁 平成12年2月14日 判決)

○事件の概要
・被告:事業主
空気調和、給排水衛生設備の設計施工などを業とする株式会社。

・原告:労働者
被告に雇用されていた労働者である。被告には須賀工業労働組合があり、原告らはいずれも労働組合の組合員であった。

・事件の内容
被告と労働組合は、賞与の支給日を平成一〇年九月三〇日とすることを合意し、従業員に対し本件賞与を支払った。

しかし、原告らに対しては本件賞与の支給日に在籍していないという理由で本件賞与を支払っていない(既に退職済みだった)。

・就業規則の内容
被告の従業員賃金規則には、次のような定めがある。
(一) 第二二条(支給時期及び対象者) 賞与の支給時期は原則として毎年6月及び12月の2回とし、別段の定めのある者を除き、支給時点の在籍者に対し支給する。

本件は、被告を退職した原告らが、被告に対し、それぞれ賞与の金額の金員等の支払を求めた事案である。

○裁判所の判断
争点:(賞与は「支給時点の在籍者に対し支給する」と定めている本件賃金規則二二条の効力)について

・就業規則
「賞与の支給時期は原則として毎年6月及び12月の2回とし、別段の定めのある者を除き、支給時点の在籍者に対し支給する。」と定めている。

本件賃金規則二二条を具体化した本件内規二条一項は、毎年六月中と毎年一二月中のいずれかに定めるとされた支給日を一二月一〇日と定めている。

「前項によりがたい場合は労使協議のうえ決定する」と定めている。そのため被告の一方的な判断だけで賞与の支給日を変更することは困難である。

・賞与の支給日
現実に賞与が支給される日が団体交渉の妥結の遅れや被告の資金繰りなどの諸般の事情により本件内規において支給日と定めた特定の日より後にずれ込むことも考えられる。

そのような場合に現実に賞与が支給される日をあらかじめ特定しておくことは事実上不可能である。

そのような場合についても、現実に賞与が支給された日に被告に在籍する従業員とすることは賞与請求権を取得した者の地位を著しく不安定し、不合理。

その上、現実に下期賞与、上期賞与が支給される日に在籍していないという理由で下期賞与、上期賞与の支給が受けられなかった件はこれまでに一度もなかったというのである。

┃まとめ

裁判所は以上のように「賞与支給日に実際に在籍していなかった労働者にも賞与を支払うべき」と判断しました。

事業主としては「辞める従業員には、賞与を支払いたくない」と考えるのも当然のことです。

ただし、賞与には「将来への期待」と「過去の労働への報奨金」という二つの性質があると考えられます。

そう考えると、意図的に賞与の支給日を変えるようなことは、労務トラブルの原因になると言えます。

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