事例紹介┃パワハラによる精神疾患と会社の対応

2020年6月、企業のパワハラ防止対策が義務化されました(中小企業は2022年4月から)。

企業としての義務を果たさずにパワハラが発生してしまうと被害者からの損害賠償請求はもちろん、イメージ低下や信用失墜等、大きな影響を受けることになります。

┃さいたま市(環境局職員)事件(東京高裁 平成29年10月26日 判決)

○事件の概要
・原告:労働者の遺族
被告である事業主に技能職員として採用され、小学校の業務主事として勤務していた。

・被告:事業主
さいたま市(環境局職員)。

うつ病で休職後、職場復帰した市職員Aが、職場の指導係からパワハラを受け、再度休職した後、自宅で自殺した事件です。

・Aの上司B
本件センターの職場関係者は、次のような認識及び評価をしていた。
自己主張が強く、協調性に乏しい、
言葉使いが乱暴で、ミスをした際には強く叱る、

また、同職場関係者の中には、Bの行動及び発言に苦労させられ、その結果、心療内科に通ったことがある者もいた。Eは、Bに上記のような問題があることを認識していた。

・Bによるパワハラ
Aは、「Bから暴力を受けていて、痣ができており、それを撮った写真もあること、業務のことでぶつかり、言葉の暴力等のパワハラを受けたこと」を別の上司Eに申し入れた。

Eは、Aに対し、Bを含めて3人で話し合うことを提案したところ、Aはこの提案を拒否した。

なお、Eは、Fに対し、上記内容を報告したが、Fは、特段の指示等をしなかった。

その後、Aの精神状態に悪化傾向が認められた。

・医師による診察
大宮クリニックのC医師は、Aから、ストレス緊張反応の再現が報告された。

自殺自傷危機から緊急入院の必要な激越な症状変動などが起こる可能性が高くなっていた。

放置すれば非常に危険な状態になり得ると判断し、休職を指示し、本件診断書を作成し、Aに交付した。

その診断書には、「平成23年12月15日より平成24年3月14日の90日間休職を要する」と記載されていた。

→実際には、平成23年12月15日から同月21日までの間、Aが出勤していたため、同月22日から休暇を要すると訂正した診断書を持参するよう求めた。

Aは、これを聞き、「もう嫌だ。」と叫んで、自宅の2階へ駆け上がった。

しばらくしてもAが戻ってこないことを心配し、2階へ上がると、テラスの縁にベルトを掛けて首を吊っているAを発見した。

Aの死亡後、原告である遺族らが市に対して安全配慮義務違反等による損害賠償請求をした。

○裁判所の判断
・安全配慮義務
事業主は、その任用する職員が生命、身体等の安全を確保しつつ業務をすることができるよう、必要な配慮をする義務を負う。

そして、上記の安全配慮義務には、精神疾患により休業した職員に対し、その特性を十分理解した上で次のような特段の配慮をすることが含まれる。
・病気休業中の配慮
・職場復帰の判断・職場復帰の支援
・職場復帰後のフォローアップ

・職場環境調整義務
安全配慮義務のひとつとして職場環境調整義務がある。

職場環境調整義務は、良好な職場環境を保持するため、職場におけるパワハラ、の訴えがあったときには、
・その事実関係を調査
・調査の結果に基づき、加害者に対する指導、配置換え等を行う
以上のような人事管理上の適切な措置を講じるべき義務を負うものというべきである。

・事業主の対応の不備
Aの上司であったEは、事実確認をせず、パワハラの訴えを放置し適切な対応をとらなかった。

医師からの診断書に基づいて休職をさせるという適切な措置を取らなかった。

このように、1審被告は、職場環境を調整する義務を怠ったものと評価されるものである。

┃まとめ

裁判所は以上のように判断し、雇い主である市の責任を認め原告一人に対して約1000万円の損害賠償を命じました。

事業主としてパワハラをした上司に対して指導をしたり、診断書に基づいて休職をさせたりする等の適切な措置を取らなかったことが問題であったと考えられます。

今後、企業のパワハラ防止対策が義務化されればこうした訴訟が増えることが予想されます。

就業規則等の変更はもちろんのこと、定期的な研修を実施する等、より一層、対策を強化していく必要があります。

義務を果たさず、対策もしていない事業主については、損害賠償金額等の責任度合いも大きくなる可能性があります。