事例紹介┃パワハラ被害に対する損害賠償請求

2020年6月1日から、パワーハラスメント防止措置が事業主の義務になりました(中小企業は2022年4月から)。

労働局等に寄せられる総合労働相談においてもパワハラ等「いじめ・嫌がらせ」が最多になり、パワハラに対する意識も高まっているように感じます。

会社としての対応を怠ると社会的な非難を受けることにもなりかねません。

┃事件の概要

【事業主側(被告)】
京都福生市、羽村市及び瑞穂町で構成される地方公営企業法上の企業団であり、本件病院を設置、運営する主体

【労働者側(原告)】
被告が運営する本件病院の職員。本件病院の事務部医事課長の地位にあった。

【争いの内容】
・原告は、事務次長であったBからパワーハラスメントを受けた
・事業主がパワーハラスメント行為について適切な対応を採らなかった
→これらにより適応障害、睡眠障害等を発症したと主張

労働者は、事業主に対し役200万円の損害賠償等を求めた事件です。

┃裁判所の判断

以下の発言1~7について、パワーハラスメントがあったことを認め事業主に対して損害賠償の支払いを命じました。

【発言1】

  • ・原告が嘘つき、偉そう、むかつくなどと叱責ないし罵倒する
  • ・ペンで机を叩く
  • ・会議の最中に、14分間近くにわたって厳しい叱責や侮蔑的な発言

→業務上の必要性を超え不必要に原告の人格を非難するに至っているものと認められる。→職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて精神的、身体的苦痛を与える行為に当たるものと認められる。

【発言2】
・原告が作成した報告書を見て次のような発言があった
「何一つ出来もしない一番程度の低い人間が一番偉いって俺には聞こえるからむかつくんだよ」
「まともなこと一つもできもしねえ人間が」「何気取ってんの。だから無理だって言ってんだよ。だから、あなたが書いてくんのはすべて見て腹も立つ。全部嘘だもん俺から言わせりゃ」

・その後、報告とは無関係のことを持ち出し次のような発言があった
「おめーが馬鹿だからだべや。おめえの管理不足だからそんなってることを俺はいってんだよ。」
「一番恥なんだよ。人として。」
「お前みたいな嘘つきはいないよ。嘘つきと言い訳の塊の人間なんだよお前。」
「生きてる価値なんかないんだから。」

→これらの発言は、個別の行為や業務態度に対する具体的な注意という範疇を超えて、人格全体に対する攻撃、否定に及んでいる。
→B事務次長の叱責及び罵倒は、机を叩く威圧的な動作も交え、報告事項と無関係な事柄も引き合いに出しつつ、約40分間という長時間に及ぶものであった。

【発言3】
・B事務次長は、この日の会議において集計結果が出されなかったことにつき次のような発言があった。
「なめてるのお前。」
「何でおめーみていな馬鹿のため謝んなきゃいけねーんだよ。」
「責任とってないの。よくよく考えた方がいいんじゃねえか。」

→机を叩く動作を交えつつ、他の管理職の居合わせる会議の場で、約10分間にわたってなされた。
→合理的理由なくなされた罵倒で、態様としても明らかに社会的許容限度を超えていると評価すべき。
→業務の適正な範囲を超えて精神的苦痛を与えるものであるというのが相当である。

【発言4】
以下のような、業務上の能力や態度に対する注意としての限度を超え、人格否定にも及ぶ著しく侮辱的な発言があった。
「こんな馬鹿でもできることすらも。ていうか責任感ないよね」
「切っちゃうからいーけどさ。そーいうことは未来なくすからいいけど」
「最低だね。人としてね。で、一個は言い訳と嘘をつきっぱなしだよ」

→時間は約15分間と、2名のみのやり取りのうちでは比較的短時間であるが、他の管理職や、原告より下の地位の職員が多数在席する中であった。
→業務上叱責の必要性が認められないにもかかわらず、人格否定にも及ぶような言葉を含めて、管理職としての資質や姿勢を否定するような叱責をした。
→これは業務の適正な範囲を超えて、原告に精神的苦痛を与えるものに他ならないというべきである。

【発言5】
原告について「失格」、「失格者」と繰り返し、さらに次の発言をした。
「一体君は嘘つくのが8割うそつきなんだから、2割の本当は何なんだ」
「人として恥ずかしくねーかよ」
「精神障害者かなんかだよ」

→原告の人格を否定する言葉をあからさまに並べている。
→約50分間もの長時間にわたり、かつその大半において一方的に原告を責め続けるという態様のものであった。
→業務の適正な範囲を超えて精神的苦痛を与える行為であることは明らかである。

【発言6】
「お前は本当にひどい人間だね。俺こーんな最低な子と思わなかったよ。」
「お前の人間性って全然甘い」
「うそつきなんじゃないの。君は、いつも嘘をついてきてんじゃないの」
「言い訳と嘘の塊」

→管理職としての資質に関する注意という域を超え、性格や人間性といった、人格の否定に至る言葉であるというのが相当である。

【発言7】
「一回、精神科行ったらー」
「病気なんじゃねーの」
「人として信じられないんですけど。あなた自身が。その狂い。」
「わりいけど病気なんかもしれんけど、そういうのはできない子かもしれんけど、迷惑なんだよー。」

→これらが業務上必要な注意の域を超えた人格否定であることは明らかである。
→約1時間にわたって強い語調で、一方的に暴言を浴びせかけたものである。

裁判所は以上のような一連の言動などをパワハラと認め、約200万円の損害賠償の支払いを命じました。

┃まとめ

今回の事例で挙げたような言動がパワーハラスメントに当たるのは明らかであるように感じます。

経営者や管理職がこのような言動をしていたら言い訳のしようもありません。

しかし、中には経営者や管理職が見えないところで行われているケースもあり、それが会社にとってどのようなリスクになるのか、今一度、周知した方が良いでしょう。

*裁判所
福生病院企業団(旧福生病院組合)事件