約20年ぶりに脳・心臓疾患の労災認定基準(過労死認定基準)が改正されました。
これまでよりも柔軟に脳・心臓疾患と労災との関連性を認定できるようになった印象です。
今回は、改正された脳・心臓疾患の労災認定基準について見ていきます。
┃脳・心臓疾患の労災認定基準とは
脳・心臓疾患は、通常は長い年月の中で自然経過により増悪していくものです。
しかし、長時間労働や過重業務、異常な出来事があると自然経過により悪化するスピードを超えて発症してしまうことがあります。
脳・心臓疾患の労災認定基準(過労死認定基準)では、長時間労働や過重労働等との関連性を客観的に把握して、労災認定の有無を判断するものです。
┃時間外労働と過労死ライン
長時間労働や過重労働と脳・心臓疾患が深く結びついており、労災認定の基準となるという考え方は以前と変わりません。
- 【改正前】
- ・発症前1か月におおむね100時間
- ・発症前2か月間から6か月間にわたって、1か月あたり80時間を超える時間外労働
以上が認められる場合について業務と発症との関係が強いと評価できるとしていましたが今回の改正では、以下のように判断基準が拡大しました。
【改正後】
上記の時間に至らなかった場合も、これに近い時間外労働を行った場合には、「労働時間以外の負荷要因」の状況も十分に考慮する
以上のように過労死ラインを超えたどうかに加えて、それ以外の原因も含めて判断することとされました。
┃長期間に及ぶ過重業務と過労死ライン
過重業務、過重労働というのは長時間労働だけに留まりません。
「労働時間以外の負荷要因」と次のようなことが挙げられています。
- ○不規則な勤務時間
- ・拘束時間が長い勤務
- ・休日のない連続勤務(改正)
- ・勤務間インターバルが短い勤務(改正)
- ・不規則な勤務、交替制勤務、深夜勤務
- ○事業場外における移動を伴う業務
- ・出張が多い
- ・その他事業場外における移動を伴う業務(改正)
- ○心理的負荷を伴う業務
- ○身体的負荷を伴う業務
- ○長期間の過重業務で付加的に加味されるもの
- ・温度環境(寒い/暑い/寒暖差が激しい)
- ・騒音にさらされている
┃短期間に及ぶ過重労働と過労死ライン
過重業務や長時間労働が短期間であっても次のようなことと重なると異常な出来事として、脳・心臓疾患発症との関連性が強いと判断されます。
- ○短期間の過重業務
- ・発症直前から前日までの間に特に過度の長時間労働が認められる
- ・発症前おおむね1週間継続して、深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行う
- ・発症前おおむね1週間継続して、過度の長時間労働が認められる
- ○異常な出来事
- ・業務に関連した重大な人身事故や重大事故に直接関与した
- ・事故の発生に伴って著しい身体的、精神的負荷のかかる救助活動や事故処理に携わった
- ・生命の危険を感じさせるような事故や対人トラブルを体験した
- ・著しい身体的負荷を伴う消火作業、人力での除雪作業、身体訓練、走行等を行った
- ・著しく暑熱な作業環境下で水分補給が阻害される状態
- ・著しく寒冷な作業環境下での作業、温度差のある場所への頻回な出入りを行った
┃さいごに
今回は、改正された脳・心臓疾患の労災認定基準について見てきました。
以上の他、新たな対象疾病として「重篤な心不全」が追加される改正が行われています。
これまで通り、直前1箇月でおおむね100時間、数箇月平均で80時間以上の時間外労働があると労災認定される可能性が高くなるのは変わりません。
最近では、月80時間を超えるような時間外労働をさせる事業所も減ってきていますが、一部の事業所ではまだ、長時間労働を行わせているところもあるようです。
従業員が心身ともに健康で働き続けられる環境を整備していくことも事業主としての務めです。
*厚生労働省
脳・心臓疾患の労災認定基準を改正しました