先日、「従業員が横領したので処分をしたい」という相談を受けました。
一般的に「事業主都合の解雇は難しい」と言われていますが横領については、そうとも言い切れません。
業務上横領は、会社と従業員の間の信頼関係を失墜させるものであり、その金額の大小は関係ありません。
東京都公営企業管理者交通局長(免職処分取消等請求)事件
東京地裁で平成23年5月25日に判決が出された事件を紹介します。。
■事件の概要(原告:労働者、被告:事業主(東京都等))
○原告は、東京都交通局のバス運転手
○被告は、都営バスの運行を行っている東京都公営企業管理者交通局
○乗客からの目撃証言
原告が、都営バスに乗務中、運賃を乗客から直接手で受け取って袋に入れるといった不正を行っていた。
○事業主からの処分
運賃を不正に受け取ったこと、不正に受け取った運賃を横領していたこと、乗務中の所持を禁止されている私金を所持したことなどを理由に懲戒免職処分を実施した。
○原告側の主張
・懲戒免職処分は懲戒事由が存在しない。
・懲戒免職処分は、裁量権逸脱、濫用の違法がある。
→被告東京都に対し、同懲戒免職処分の取消、懲戒免職処分後の賃金の支払を請求した事件。
■裁判所の判断
事業主側の懲戒免職処分に関する調査は、平成18年12月14日、原告が運賃を不正に受け取り袋に入れているのを見たという一乗客の通報から始まっている。
○乗客の供述、証言
・原告との間で何ら利害関係を有しない乗客が原告を具体的に名指ししていること
・その内容が具体的であること
→原告が硬貨を握りながらギアチェンジをし、信号待ちで椅子の下の袋のような物に入れていた
→そのような手受けを3回ほど行っていた
→乗客が見ていることに感づき凄い目で3回ほど睨んだ
などというもので、極めて具体的かつ詳細なものであった
・証言の理由についても原告から睨まれたので今後遭遇するのが怖い
・バスの系統から外してもらいたい
という通報動機も納得のいくものであって、その時点において、格別疑いを容れる余地のないものであった。
○事業主側の調査
上記通報を受けて、C所長からの指示を受けたA次席は、原告が同日の乗務を終了してb分駐所に入庫した直後、原告が乗務していたバスに赴き、事実確認及び事情聴取を行った。
このとき、A次席は原告の回数券袋の中を確認し、原告に対し余剰金がある旨を述べている。
このことからすれば、この時点で実際に回数券袋の中に余剰金が存在していたことは明らかである。
よって、同日の事情聴取書記載のとおり、当時、原告の回数券袋の中に1100円の余剰金が存在していたものと認めることができる。
また、原告は、上記A次席の事情聴取においても、翌15日のC所長の事情聴取においても、手受けをしたこと自体は認めている。
これらのことからすると
・乗客からの通報がそれ自体信用できるものであること
・当日の回数券袋の中に1100円の余剰金が存在していたこと
・原告が不正に運賃を手で受け取ったこと
以上の事実を認めていることからすれば、原告が不正に領得する目的で手受けを行ったと推認するのが相当である。
○懲戒免職処分の有効性
・懲戒免職処分の処分理由とされた事実をいずれも認めることができる
・運賃1100円の不正領得という事実がバスの乗務員として極めて悪質な行為である
・運賃の不正は、職務上許されないものである
・その額の多寡にかかわらず、これが懲戒免職に値する行為であることは明らかである
したがって、本件において懲戒免職処分を選択したことは相当であり、裁量権の逸脱ないし濫用はないというべきである。
まとめ
裁判所は以上のように判断し、懲戒免職処分を有効と判断しました。
金額にすれば1,100円という大きくはない金額ではありますが、その金額の大小にかかわらず、バスの運転手という立場で運賃を横領したというのは、極めて悪質といえます。
業務上横領は、「横領をしやすい立場を使って」「実際に横領を行った」ということになれば、金額の大小に関係なく処分が認められる可能性があります。
事業主側としては、就業規則の規定に則り金額の大小にかかわらず毅然とした対応を取ることが重要です。