美容院やサロン等の場合、事業主とスタッフとの間で「業務委託(請負)契約」を締結しているケースがあります。
しかし、業務委託(請負)の意味を正しく理解しないまま「スタッフを業務委託契約にする」ことは、トラブルの原因になる可能性が大きいと言えます。
「残業代を払わなくてもいい」「社会保険料を払わなくてもいい」という安易な考えで契約書のタイトルだけを<業務委託契約>としている場合は要注意です。
業務委託(請負)契約とは
業務委託とは、「労働の成果として仕事の完成を目的とする」と定義づけられます。
業務委託契約では、労働時間としての時間的な拘束や業務命令はできません。
美容院やサロンに当てはめてみると次のことに一つでも当てはまれば業務委託契約ではなく<雇用契約=労働者>とみなされる可能性が高まります。

反対に次の条件に当てはまれば業務委託と考えても良いかもしれません。

業務委託契約と認められなかった場合
業務委託契約として認められなかった場合、何が問題になるのかというと次のようなケースでトラブルが発生します。
●残業代などの未払い賃金を請求される
「業務委託契約という名目にすれば何時間働かせても残業代を支払わなくていい」という勘違いのもと定額で長時間労働をさせてしまうケース。
退職時に「自分は労働時間を拘束されていた」「業務委託契約ではなく労働者だった」と未払い残業代を請求されることも考えられます。
現在、未払い賃金の請求期間は過去2年までですが今後、5年に延長される見込みです。

●社会保険の遡り加入
「業務委託契約ではなく労働者だった」と訴えられた場合で、結果として労働者と認められたときには、社会保険(健康保険・厚生年金保険)に遡り加入になることも考えられます。
こちらも最大で2年まで遡りが必要です。

こうしたケースは、一人が訴え出ると2人3人と続く場合がありますが、万が一の時、以上のような負担に耐えられるかも考えておくと良いでしょう。
スタッフ側が困るケースも
しっかりとした説明が無いまま事業主都合で業務委託契約にしてしまうとスタッフ側が不利益を受けることが多いです。
退職の時に行政機関や弁護士を通じて事業主を訴える、というようにしてトラブルが表面化します。
●業務中や通勤途中にけがをした時
業務委託契約であれば労災保険は使えません。
業務中や通勤途中にけがをした場合、労災保険であれば自己負担なく治療を受けられますが労災保険が使えなければスタッフの自己負担となります。
●プライベートでけがをした時
会社の健康保険に加入していればプライベートのけがや病気で働けなくなったとしても最大で1年6箇月間は、給与の補償を受けることができますが、業務委託契約ではそのような補償はありません。
●将来の年金や給付(手当)に影響する
「将来の年金が減っている」といってもまったく無くなることは現時点では考えられません。
そうした将来受けるはずの金銭や近い未来に受け取るはずの手当も会社の健康保険よりも業務委託契約の方が大きく下がると考えられます。
多くのケースでは、業務委託が正しく理解されないまま都合よく契約書のタイトルだけで判断されているように感じます。
契約書のタイトルではなく実態を見て、判断をする必要があるでしょう。
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