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介護職員処遇改善加算とは?満たすべき要件や届出の流れを解説

2021/12/14

2023/11/25

この記事の監修

社会保険労務士法人GOAL
代表 社会保険労務士

久保田 慎平(くぼたしんぺい)

1983年8月横浜生まれ、横浜育ち。2011年4月に都内の社会保険労務士事務所へ入職、4年間の実務経験後、2015年4月独立開業。その後、2018年9月に行政書士法人GOALと合流し、社会保険労務士法人GOALを設立。東京・神奈川の中小企業を中心に採用定着支援やテレワーク導入支援、労務トラブル防止、社内研修による人材育成に力を入れている。就業規則の実績200件以上、商工会議所等のセミナー講師実績多数。

頑張っている介護職員の賃金をアップさせたい。働きやすい事業所を作りたい。

そう考えている介護事業所さまも多いでしょう。

厚生労働省は介護職員の処遇改善を実施する事業所のために「介護職員処遇改善加算」を用意しています。

どんな目的で使える加算なのか、加算を取得するにはどうすればいいのか、詳しく解説します。

 

介護職員処遇改善加算とは?

介護職員の平均賃金は、全産業の平均賃金と比べると低い傾向にあります。

加えて重労働が多く、職場環境の悪さを理由に離職する介護職員の多さも問題視されています。

これらの問題解決のために介護職員処遇改善加算が創設されました。

 

こんなときに役立つ!介護職員処遇改善加算

介護職員処遇改善加算を取得すれば、介護職員一人につき最大で月額37,000円相当の加算を受け取れます。

取得した加算は全て介護職員の賃金改善に充てられます。

毎月の賃金額を上げたり、賞与を支給したりといった形で賃金改善を実現できます。

介護職員処遇改善加算を取得するには、賃金以外の職場環境の改善も要件とされています。

取得のための取り組みを通じて、働きやすい介護事業所が作れるでしょう。

 

加算額はどのくらい?

「キャリアパス要件」「職場環境等要件」の取り組み状況によって加算区分が決まります。
介護職員1人につき以下の金額が加算されます。

  • 加算Ⅰ 月額37,000円相当
  • 加算Ⅱ 月額27,000円相当
  • 加算Ⅲ 月額15,000円相当
    (※Ⅳ, Ⅴは廃止が決定されています)

キャリアパス要件と職場環境要件に関しては、後ほど詳しく解説します。

 

介護職員処遇改善加算を取得するための要件

介護職員処遇改善加算を取得するには、「キャリアパス要件」や「職場環境等要件」を満たしている必要があります。

 

共通の要件

① 介護職員処遇改善加算の対象となるサービスを行っていること

代表的なサービスは「訪問介護」です。

訪問介護とは、要介護者の居宅を介護福祉士やホームヘルパーが訪問し、日常生活のサポートを行うサービスです。

訪問系サービスである点では似ていますが、「訪問看護」「訪問リハビリテーション」は介護職員処遇改善加算の対象外です。

 

② 処遇改善加算計画書の作成、周知、届出および実行

介護職員処遇改善加算を取得するには、まず「賃金改善等に関する計画(介護職員処遇改善加算計画書)」を作成します。

計画書は毎年度作成し、雇用する介護職員すべてに対して周知する必要があります。

その後、都道府県知事等に届出を行い(介護職員処遇改善加算届出書)、計画書に基づいて賃金改善を実施します。

 

③ 毎年度における実績報告書の提出

実際に行った処遇改善の内容を事業年度(毎年4月~翌年3月)ごとにまとめて「介護職員処遇改善加算実績報告書」を作成し、都道府県知事等に報告を行います。

 

④ 労働に関する諸法令の遵守と労働保険料の納付

介護職員処遇改善加算は、介護職員が働きやすい職場を作るための加算です。

当然、事業所は労働基準法に始まる労働関係法令を遵守していなければなりません。

もちろん労働保険料の滞納も厳禁です。

 

キャリアパス要件

主に介護職員の昇給やキャリアアップに関する要件です。Ⅰ, Ⅱ, Ⅲの3種類の要件があります。

  • Ⅰ…職位・職責・職務内容に応じた任用要件と賃金体系の整備をすること
  • Ⅱ…資質向上のための計画を策定して、研修の実施または研修の機会を設けること
  • Ⅲ…経験若しくは資格等に応じて昇給する仕組み又は一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けること。

職場環境等要件

賃金改善以外の処遇改善(職場環境の改善など)に関する要件です。
職場環境等要件については、具体的な改善方法が示されています。改善方法の一部を以下に示します。

入職促進に向けた取り組み
法人や事業所の経営理念やケア方針・人材育成方針、その実現のための施策・仕組みなどの明確化
資質の向上やキャリアアップに向けた支援
研修の受講やキャリア段位制度と人事考課との連動

両立支援・多様な働き方の推進
有給休暇が取得しやすい環境の整備

腰痛を含む心身の健康管理
事故・トラブルへの対応マニュアル等の作成等の体制の整備

生産性向上のための業務改善の取組
業務手順書の作成や、記録・報告様式の工夫等による情報共有や作業負担の軽減

やりがい・働きがいの醸成
ミーティング等による職場内コミュニケーションの円滑化による個々の介護職員の気づきを踏まえた勤務環境やケア内容の改善

 

キャリアパス要件・職場環境等要件を満たすには

介護職員処遇改善加算を取得するには、キャリアパス要件と職場環境等要件の両方を満たしている必要があります。

以前はどちらかの要件だけを満たしていれば加算Ⅳを、どちらも満たさない場合でも加算Ⅴを取得することが出来ました。
しかし、この二つの加算は廃止が決定されています。

満たしている要件が多いほど、より充実した加算を受けられます。要件を満たすには何を行えばよいのでしょうか。

 

① 人事考課制度の導入

人事考課制度とは、従業員の業務遂行能力や会社への貢献度などについて評価を行い、その結果を従業員の処遇に反映させる制度です。

キャリアパス要件で求められているのはまさにこの部分と言っても差し支えないでしょう。

「あの職員さんは長く勤めてくれているから」「あのヘルパーさんは勤務経験がまだ短いから」といったあいまいな理由だけで、介護職員の職位や賃金を決めてしまっていませんか?

人事考課制度の導入は介護職員処遇改善加算の取得だけではなく、介護職員の能力開発やモチベーションアップという面でも役立ちます。

 

② 就業規則の整備

職場環境の改善を図るために欠かせないのが、就業規則の整備です。

指定申請では就業規則の中身は精査されないため、「ひな型」を自己流で編集しただけの介護事業所が多いようです。

残念ながらそのような就業規則は、法令違反や規定の矛盾が多発していることがほとんどです。

最悪の場合、自己流で作った就業規則のせいで労使トラブルを起こしてしまう可能性もあります。

働きやすい職場づくりを実践し、職場環境等要件を達成するには、最新の法改正もふまえた就業規則を整備することが必要です。

 

他にも取得可能性がある加算・助成金

キャリアパス要件・職場環境等要件を満たす取り組みを行うことで、他にも取得できる加算や助成金があります。

 

① 介護職員等特定処遇改善加算

介護職員特定処遇改善加算は、事業所における「中核人材」の賃金改善を目的とした加算です。

たとえば勤続10年以上の介護福祉士などが対象になります。

最大の特徴としては、介護職員処遇改善加算の対象とならない「介護支援専門員(ケアマネジャー)」「運転手」「理学療法士(PT)」、「事務員」、「調理員」などの職員へも分配が可能なところです。

介護職員以外の中核人材の賃金改善にも取り組みたいのであれば、介護職員等特定処遇改善加算の取得を検討してみてはいかがでしょうか。

 

② 訪問介護における特定事業所加算

訪問介護における特定事業所加算とは、要介護度が高い利用者や支援が困難な場合でも、質の高いサービスを提供している事業所を評価する加算です。

そのため加算の算定要件は厳しく、一方で加算率は高いものとなっています。

加算区分は特定事業所加算ⅠからⅤの5区分。

特定事業所加算Ⅰを取得した場合、総売り上げの20%相当が国から支給されます。

なお訪問介護における特定事業所加算を取得すると、介護職員等特定処遇改善加算の取得要件(加算区分Ⅰ)を満たすこともできます。

 

③ キャリアアップ助成金

キャリアアップ助成金とは、アルバイト・パート等の非正規雇用労働者を、正社員に転換させた場合などに支給される助成金です。

転換の前後で賞与を除いた賃金を3%以上増額させていることが必要です。

キャリアアップ助成金は事業所に対して支払われ、その使い道は事業所が自由に決めることができます。

介護職員に還元してもよいですし、事業運営の資金に充てるのも可能です。

 

介護職員処遇改善加算の届出の流れ

加算の届出から取得、そして賃金改善までの流れは以下のとおりです。

 

(1) 加算の届出
介護事業者から都道府県へ対して届出を行います

 

(2)加算の請求
請求は、介護事業者から国民健康保険団体連合会(国保連)に対して行います。

 

(3) 加算の支払
請求後、国保連から介護事業者に対して加算が支払われます

 

(4) 介護職員の賃金改善を行う
加算額以上の賃金改善を行う必要があります。

 

介護職員処遇改善加算を上手に分配するには

介護職員処遇改善加算の分配にはいくつかルールがあります。

「どのくらい」の金額を「誰に」支給するのかが上手な分配のポイントです。

 

① 加算額を超える賃金改善を行う

取得した加算額より「1円でも高く」介護職員の賃金改善を行う必要があります。

賃金改善額が取得した加算額に満たない場合、不正請求の責任を問われる可能性があります。

 

② 介護職員に対して支給する

介護職員処遇改善加算は介護職員を対象とした加算です。

訪問介護であれば「訪問介護員(ホームヘルパー)」が対象になります。

雇用形態は問われません。

パートタイマーなどの非正規雇用職員も介護職員処遇改善加算の対象職員に含まれます。

 

分配方法は柔軟に決められる

介護職員処遇改善加算の分配方法は柔軟に決められます。

すべての介護職員に均等に分配する必要はありません。

例えば人事考課制度の結果から、特に事業所への貢献度が高いと認められた介護職員に絞って分配してもよいでしょう。

基本給を昇給させる形でも、賞与として支払ってもかまいません。

ただし、分配方法は「処遇改善加算計画書」で介護職員へ周知しなければなりません。

あえて不均衡な分配方法にする場合は、介護職員にきちんと納得してもらえるのかどうか、十分に検討を重ねることが重要です。

 

まとめ

今回は「介護職員処遇改善加算」について解説しました。

介護職員の賃金改善を考えるなら必ず取得しておきたい加算です。

介護職員処遇改善加算を取得するための取り組みを行うことで、職場環境全体の改善を行うことも可能です。

「介護職員処遇改善加算を取得したい」「働きやすい訪問介護事業所を作りたい」などのご相談は、お気軽にお問い合わせください。

 

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