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「介護事業所における管理監督者」残業代の支払いや適用条件について解説

2025/1/31

2025/02/01

この記事の監修

社会保険労務士法人GOAL
代表 社会保険労務士

久保田 慎平(くぼたしんぺい)

1983年8月横浜生まれ、横浜育ち。2011年4月に都内の社会保険労務士事務所へ入職、4年間の実務経験後、2015年4月独立開業。その後、2018年9月に行政書士法人GOALと合流し、社会保険労務士法人GOALを設立。東京・神奈川の中小企業を中心に採用定着支援やテレワーク導入支援、労務トラブル防止、社内研修による人材育成に力を入れている。就業規則の実績200件以上、商工会議所等のセミナー講師実績多数。

介護事業所を運営する上で、労働基準法の順守を基本とした労務管理は避けて通れない重要な課題です。特に「管理監督者」と呼ばれる立場の従業員については、労働基準法により「残業代が不要」とされる場合があるため、企業側にとっても従業員にとっても誤解が生じやすいポイントの一つです。

介護事業所では、施設長や介護主任、リーダー職などが「管理監督者」として扱っているケースもありますが、単に役職名だけで判断してしまうと、法的なリスクを抱えることになりかねません。労働基準法が求める管理監督者の定義を正しく理解し、適正に運用することが、労使トラブルを未然に防ぐカギとなります。

本記事では、介護施設における管理監督者の定義や役割、残業代が不要とされる条件、配置時の注意点などを詳しく解説します。

介護事業所における管理監督者の考え方

労働基準法では、原則として労働者に対し、労働時間・休憩・休日に関する規定が適用されます。しかし、労働基準法第41条 では、「管理監督者」と認められる者については、これらの規定の適用が一部除外され、特に残業代(時間外手当)を支払う必要がないことが定められています。

ただし、管理監督者であるためには、単に役職名が「管理者」や「施設長」となっているだけでは不十分で、実態として経営者と一体的な立場で職務を遂行しているかどうか が重要な判断基準となります。裁判例などを踏まえると、管理監督者として認められるためには、主に以下の要件を満たす必要があります。

  • 経営者と一体的な立場にあること
  • 出退勤の自由度が高く、勤務時間に対する制約が少ない
  • 基本給や手当などの待遇が一般職員と明確に異なる
  • 残業代が出ない分、給与や役職手当が考慮されている

これらの要件を満たしていない場合、管理監督者とは認められない可能性があり、結果として未払い残業代の請求や労働基準監督署の是正指導を受けるリスクが生じます。

→管理監督者の条件についてさらにくわしくはこちら

介護施設における管理監督者の役割と責任

介護施設では、施設長、事務長、介護主任(ユニットリーダー)、看護部長 などが管理監督者として扱われることがあります。しかし、これらの役職者が労働基準法上の管理監督者に該当するかどうかは、実態によって判断されるため注意が必要です。

介護施設における管理監督者となる主な役割には以下のようなものが考えられます。

施設長や事務長などは、施設全体の経営方針を決定したり、運営方針を策定する役割を担います。例えば、介護報酬の請求管理や、利用者の受け入れ方針の決定、人件費の調整などが含まれます。

人事・労務管理を担当する者として管理監督者は、一般の介護職員の採用や配置、労働条件の決定、労働時間管理、シフト作成などに関与することが求められます。特に、人員不足が課題となる介護業界では、労務管理の適切な対応が重要です。

介護事業所では、職員のスキル向上や利用者対応の質を高めるための教育が不可欠です。管理監督者は、新人教育やスキルアップ研修の企画・実施を担当することが多いです。

介護事業所には、管理職(「管理監督者」と同義ではない)に当たるポジションとしてリーダー職 や 主任 などが存在しますが、彼らは必ずしも「管理監督者」に該当するわけではありません。

リーダー職や主任は、一定の管理業務を担うものの、経営への関与度合いが低く、労働時間管理の制約を受けるため、「管理監督者」として認められることは少ないです。

特に、リーダー職だからといって残業代を支払わなくてもよいという誤解が広がっている ため、介護施設では適正な労務管理が求められます。実際に裁判で「管理監督者と認められない」と判断された事例もあるため、慎重な対応が必要です。

介護事業所における管理監督者は、施設運営や人事・労務管理など、多岐にわたる役割と責任を担います。しかし、単に「管理職」という肩書があるだけでは、労働基準法上の管理監督者とは認められず、実態が重要視されます。

適切な要件を満たさないまま「管理監督者」として扱い、残業代を支払わないと、未払い賃金の請求リスクや労基署の指導対象になる可能性があるため、慎重な判断が求められます。

介護事業所の管理職が管理監督者と認められるためのポイント

労働基準法では、原則として労働者には労働時間・休憩・休日 に関する規定が適用され、時間外労働(残業)をした場合には割増賃金(残業代)を支払う義務があります。しかし、労働基準法第41条 では一部の労働者に対してこの規定を適用しないと定めています。その中の一つが「管理監督者」です。

労働基準法第41条
この章(労働時間、休憩及び休日に関する規定)は、次の各号のいずれかに該当する労働者については適用しない。
一 事業の種類に関わらず監督若しくは管理の地位にある者

*出典:e-GOV法令検索「労働基準法」

この条文により、管理監督者と認められた場合は、労働時間の規制を受けず、残業代を支払う義務がない ことになります。ただし、これは 「すべての管理職が残業代不要」ではない という点に注意が必要です。管理監督者と認められるには、労働基準法や判例で示された明確な要件を満たしている必要があります。

残業代が不要とされる管理監督者の要件

管理監督者と認められるためには、主に以下の3つの要件を満たす必要があります。

経営者と一体的な立場にあること

介護事業所で言えば、施設長や事務長 などがこの条件を満たす可能性があります。一方で、介護主任やユニットリーダーなどは、人事権がない場合が多く、管理監督者に該当しない可能性が高いです。

労働時間の規制を受けない立場にあること

管理監督者は、自らの裁量で働くことが求められます。たとえば、施設長であれば「必要なときに自ら判断して働く」という立場ですが、介護主任のようにシフト管理の対象になっている場合は、労働時間の自由度が低く、管理監督者とは認められにくい です。

一定の待遇を受けていること

管理監督者は、一般職員とは異なり「高い給与と引き換えに残業代がない」という仕組みが前提です。そのため、待遇が一般職員と大差ない場合は管理監督者とは認められず、未払い残業代の請求リスクが生じることになります。

実際の運用における誤解とリスク

介護施設においては、管理監督者に関する誤解が多い ため、トラブルが発生しやすいのが実情です。特に以下の点に注意が必要です。

「管理職」=「管理監督者」ではない

「主任」「リーダー」「マネージャー」などの肩書があれば自動的に管理監督者になるわけではありません。実態として労働時間の自由度が低く、経営に関与していない場合は、労働基準監督署や裁判所が「管理監督者ではない」と判断する可能性があります。

実際にトラブルとなる例

介護主任やユニットリーダーが「管理監督者」として扱われ、残業代が支払われなかったため職員から賃金未払いで訴えられるケース。

施設長や事務長といった上位職でも、会社の指示に基づきシフト勤務をしている場合や、経営に関与していない場合は「管理監督者ではない」と判断される可能性がある ため注意が必要です。

施設長でも注意すべきケース

シフト勤務の一部として介護業務に従事していて、施設の経営判断をする権限がない(本社の指示に従うのみ)。

役職手当が低く、一般職員と大差ない待遇。一般職員が残業をした場合には賃金の逆転が乗じる。

このような場合、「管理監督者ではない」と判断され、未払い残業代を請求されるリスクがある ため、待遇や権限を明確に整理する必要があります。

未払い残業代請求のリスクが高まっている

近年、介護業界でも労働者の権利意識が高まっており、管理監督者の扱いについてトラブルが増加しています。特に、「管理監督者ではない」と判断されると、未払い残業代を5年分(当分の間は経過措置として3年)遡って請求されるケースがあるため、企業側のリスク管理が求められます。

介護施設では、施設長や事務長が管理監督者に該当するケースがある一方で、介護主任やユニットリーダーは労働時間の裁量がなく、管理監督者として認められる可能性は低いといえます。

介護施設での管理監督者の配置と適正な労務管理

介護事業所において管理監督者を配置する際には、労働基準法の要件を満たし、実態として適切な権限と責任を持たせることが重要 です。不適切な配置を行うと、後に未払い残業代の請求や労働基準監督署の指導対象になる可能性があります。

施設運営や人事管理に関与できるか

  • 施設長や事務長のように、経営方針や人事評価に関与できる立場か
  • シフト管理や人員配置など、労務管理に直接関わっているか
  • 労働時間の裁量があるか
  • 一般職員のように厳格なシフト勤務を求められていないか
  • 自らの判断で出退勤を調整できる立場か
  • 待遇面で一般職員と明確な違いがあるか
  • 基本給や手当が一般職員より明確に高いか
  • 残業代が支給されない分、給与面で適切な補填があるか

特に、介護主任やユニットリーダーなどが管理監督者に該当するかどうかは慎重に判断すべきです。これらの職種は「一般職員と変わらない業務をしている」と判断されやすいため、管理監督者として配置する場合は業務内容の整理が必要 です。

労働時間の管理と勤怠記録のポイント

管理監督者は労働時間の規制を受けない 立場ではありますが、「労働時間の管理が不要」というわけではありません。実際に労働基準監督署の調査では、管理監督者の勤務実態が問題視されるケースが多く、以下の点に注意が必要です。

管理監督者であっても、出勤・退勤の記録を残すことは必須です。これは、労働時間の裁量があるかどうかを客観的に示すための重要な証拠となります。

ICカード・タイムカード・勤怠管理システムを活用し在社時間を管理する必要があります。「管理監督者だから勤怠管理をしなくてよい」という考えは誤りで、適切な記録を残さないと後に残業代請求の際に不利な証拠となる可能性があります。

実態として「労働時間の自由(裁量)」があるかの確認も重要です。シフト勤務を強制されていないか、実際に自由裁量で勤務時間を調整できているかが主なチェックポイントになるでしょう。

施設長や事務長が「実態としてシフト勤務のように固定された時間で働いている」と判断されると、管理監督者として認められなくなるリスクがあります。

管理監督者の待遇と賃金設計の注意点

管理監督者に適切な給与を支払わないと、労働基準監督署の調査や裁判で「実態は管理監督者ではない」と判断されるリスクが高まります。

「管理監督者」という肩書を与えているにもかかわらず、給与が一般職員とほぼ変わらない場合は「名ばかり管理職」と判断される可能性が高いです。

管理監督者として適正な待遇を確保するポイント

  • 役職手当を明確に設定する(一般職員より明確に高額であること)
  • ボーナスや基本給に管理監督者としての責任を反映する
  • 福利厚生面での差別化を行う(例:特別休暇、住宅手当の優遇など)

管理監督者は労働時間規制の適用除外となるものの、深夜労働については割増賃金が発生するため、以下の点については注意しましょう。

  • ・22時~翌5時の深夜労働には割増賃金を支給

特に、介護施設では夜勤業務が発生することが多いため、深夜労働の管理は慎重に行う必要があります。管理監督者であっても、深夜帯の業務に対して適切な手当を支払わなければ、未払い賃金請求のリスクがあります。

介護施設で管理監督者を適切に配置するには、経営に関与できる立場か、労働時間の裁量があるか、一般職員より明確に高い待遇があるかを基準に判断することが重要です。

また、管理監督者だからといって勤怠管理をしなくてもよいわけではなく、出退勤記録を適切に残し、実態として労働時間の裁量があることを証明できるようにする必要があります。

さらに、給与設計においては「名ばかり管理職」とならないように注意し、役職手当の設定や深夜労働の割増賃金の支払いなど、適正な賃金制度を構築することが重要です。

管理監督者に関するトラブル事例と対応策

「実態は一般職員と変わらない」と判断されるケースでは、管理監督者として配置したつもりでも、実際の業務内容や勤務状況によっては「管理監督者とは認められない」と判断されるケースがあります。これが原因で、未払い残業代の請求や労働基準監督署の是正指導を受けることも少なくありません。

特に、以下のような場合には「実態は一般職員と変わらない」と判断されやすいため注意が必要です。

  • シフト勤務の対象となっている
  • 賃金が一般職員と大きく変わらない

役職手当がわずかで、基本給も一般職員と大差がない場合、「責任の重さに見合う待遇がされていない」と判断されることがあります。
人事や施設運営の決定権がない場合、施設長であっても、実際には本社や経営陣の指示に従うだけで、独自の判断ができない場合、管理監督者とは認められにくいといえます。

このような状況では、「管理監督者だから残業代は不要」という主張が通らず、未払い賃金の請求リスクが高まる ため、慎重な対応が求められます。

介護施設が適正に運用するための対策

介護事業所が管理監督者を適正に運用するためには、以下のポイントを押さえることが重要です。

  1. 役職と管理監督者の業務内容を明確にする
  2. 労働時間の自由度を確保し裁量があることを明確にする。
  3. 賃金・待遇を適正に設定する
  4. 就業規則や労働契約書で管理監督者の権限や待遇を明確にする

管理監督者の運用を誤ると、「実態は一般職員と変わらない」と判断され、未払い残業代の請求リスクが発生します。

こうしたトラブルを防ぐためには、管理監督者の業務と責任を明確にし、労働時間の裁量を確保し、待遇面で一般職員との差をつけることが重要 です。また、勤怠管理や雇用契約を適切に整備することで、法的リスクを低減することができます。

まとめ

介護施設における管理監督者の運用は、労働基準法の要件を満たしているか慎重に判断する必要があります。単に「管理職」の肩書があるだけでは管理監督者とは認められず、実態として「経営への関与」「労働時間の裁量」「一般職員より明確に高い待遇」の3つの要件を満たしているかが重要 です。

特に介護業界では、施設長や介護主任などが管理監督者とされるケースが多いものの、シフト勤務をしていたり、一般職員と同様の待遇であったり、管理監督者とは認められないようなケースも多いです。

トラブルを防ぐためには、管理監督者の業務と責任を明確にし、労働時間の裁量を確保し、給与や手当を適正に設定することが重要です。

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