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【訪問介護事業と休業手当】キャンセル発生時の給与支払い義務について解説

2024/2/27

2024/02/28

この記事の監修

社会保険労務士法人GOAL
代表 社会保険労務士

久保田 慎平(くぼたしんぺい)

1983年8月横浜生まれ、横浜育ち。2011年4月に都内の社会保険労務士事務所へ入職、4年間の実務経験後、2015年4月独立開業。その後、2018年9月に行政書士法人GOALと合流し、社会保険労務士法人GOALを設立。東京・神奈川の中小企業を中心に採用定着支援やテレワーク導入支援、労務トラブル防止、社内研修による人材育成に力を入れている。就業規則の実績200件以上、商工会議所等のセミナー講師実績多数。

訪問介護事業では、利用者都合による介護サービスのキャンセルや日程変更が度々発生します。そのとき、職員は既に利用者宅へ移動を始めていたり、利用者宅へ到着した後にキャンセルを伝えられたりすることもあります。

事業所としては、介護サービスを提供しておらず介護報酬が発生しない以上、賃金は支払わないとしたいところですがそのような取り扱いが法律上問題となる場合があります。また、職員としても職務にあたるべく時間を確保したにも関わらず、キャンセルになってしまい時間を無駄にしてしまうことになります。

訪問介護事業でキャンセルが発生した場合について、賃金が発生しないことや時間が無駄になったことに対して事業所として適切な対応を行わないと法律違反となる可能性があるばかりではなく、職員の不満が募り離職に繋がってしまうこともあるでしょう。

今回は、訪問介護事業所におけるキャンセル発生時の給与支払い義務について解説していきます。

┃訪問介護事業におけるキャンセル発生時の事業主の責任

○訪問介護事業におけるキャンセル

訪問介護事業では、月間平均で約10%から20%程度はキャンセルが発生するといわれておりその場合の給与をどうするかが経営課題の一つです。訪問キャンセルが発生し、介護サービスを提供しないことになれば介護報酬は支払われず事業所に収入が入らないことになります。

その一方で、職員の時間を拘束することになるため拘束時間に対してなんの対策も講じないと法律違反となる可能性もある他、職員の不満が募り離職率悪化に繋がる懸念があります。

○利用者都合のキャンセルとキャンセル料の請求

訪問介護事業において利用者都合によりキャンセルが発生した場合には、キャンセル料を請求することができます。しかし、「実際に介護サービスを提供していないのに料金を請求することはできない」としてキャンセル料を請求しない事業所も少なくないようです。

利用者目線に立てばそのような取り扱いが望ましいとはいえ、職員目線で考えるとキャンセル発生に伴う不利益を被ることになるため不満が溜まる原因になり得ます。

→利用者宅間の移動時間は労働時間に含まれるのかについてはこちら

┃労働基準法の休業手当

○労働基準法の休業手当とは

労働基準法では、事業主の責任で職員を休業させた場合には、職員に対して平均賃金の60%以上の手当(休業手当)を支払うことを求めています。ここでいう「事業主の責任」は、一般的に考えるものよりも広くとらえられています。

(休業手当)
第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

→平均賃金の計算方法について詳しくはこちら

○休業手当の支払いが必要な使用者の責めに帰すべき事由

労働基準法でいう使用者の責めに帰すべき事由には、利用者都合のキャンセルによって職員を休業させた場合も含まれると考えられます。

事業所目線で考えるとキャンセルは利用者の都合であり事業所の責任ではないし、介護報酬が発生しない以上、給与を支払うことはできないと思うことは自然です。一方、職員目線で考えるとキャンセルで仕事がなくなり給与も発生しないとなると時間だけを浪費したことになってしまいます。

この場合、労働基準法ではキャンセル発生により仕事がなくなってしまった職員に対しては別の代替業務を指示するか、代替業務を用意できないのであれば休業手当を支払うことを事業主に求めています。

*出典:厚生労働省労働基準局「訪問介護労働者の法定労働条件の確保のために」

┃訪問介護のキャンセルと給与の支払い義務

○キャンセル発生時の給与の支払いが必要なケース

給与の支払いが必要なケースとしては、利用者宅へ既に移動を始めていて、キャンセルによりその日の代替業務がなくなってしまった場合が考えられます。代替業務が用意できないことでその日が無報酬となってしまう場合には、休業手当としてその日の賃金の一部を保障する必要があります。

一日で複数の利用者を訪問する場合でそのうちの一つにキャンセルが発生したときも場合によっては休業手当の支払いが必要になるケースがあるので注意が必要です。

○キャンセル発生時の給与の支払いが不要なケース

キャンセルが発生した場合に代替業務を与えたり事前にキャンセルが発生した日とその他の日を振り替えたりすることができれば給与(休業手当)の支払いは不要です。労働基準法においては、キャンセル発生時の不利益をすべて職員にだけ負わせることがないように規制をしているといえます。

○代替業務を与える場合の注意点

本来の業務以外の業務を指示する可能性があるのであれば、そのことを就業規則や労働契約書で明示しておく必要があります。出勤日と休日を振り替える場合も同様です。

労働契約書では「利用者宅への訪問介護」しか記載がないにも関わらず、それ以外の業務を指示されることに不満を持たれることも考えられるため、記載方法には十分に注意するとともに雇い入れ時の説明を丁寧に実施する必要があるでしょう。

*出典:厚生労働省労働基準局「訪問介護労働者の法定労働条件の確保のために」

┃まとめ

今回は、訪問介護事業所におけるキャンセル発生時の給与支払い義務について解説しました。

訪問介護事業にはキャンセルはつきもので事業所の努力だけではどうにもならないこともありますが、そのときの不利益を職員に負わせないと考えることが重要です。

とはいえ、介護報酬が発生しない時間帯についても通常の時間給を支払ってしまっては事業所の負担が増えるばかりです。そうならないよう、労働契約書や就業規則を整備して事前の対策をしておきましょう。

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