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【訪問介護事業所の立ち上げ】開業時の基礎知識と失敗しないために知っておきたいこと

2023/11/25

2023/11/25

この記事の監修

社会保険労務士法人GOAL
代表 社会保険労務士

久保田 慎平(くぼたしんぺい)

1983年8月横浜生まれ、横浜育ち。2011年4月に都内の社会保険労務士事務所へ入職、4年間の実務経験後、2015年4月独立開業。その後、2018年9月に行政書士法人GOALと合流し、社会保険労務士法人GOALを設立。東京・神奈川の中小企業を中心に採用定着支援やテレワーク導入支援、労務トラブル防止、社内研修による人材育成に力を入れている。就業規則の実績200件以上、商工会議所等のセミナー講師実績多数。

日本の65歳以上人口は3,500万人を超え、高齢化率は約30%、国民の3人に1人は高齢者という高齢化社会を迎えています。

そのような状況の中、介護サービスへのニーズも高まっており、ニーズの高まりとともに新たに介護事業所を立ち上げ・開業しようとする人も増えています。その中でも比較的、初期費用を抑えて始められるのが訪問介護事業所(訪問介護ステーション)であるといえます。

今回は、訪問介護事業所(訪問介護ステーション)の立ち上げと方法と開業時の基礎知識、失敗しないために知っておきたいことをわかりやすく解説します。

■訪問介護とは

訪問介護とは、利用者である要介護者等 の自宅へ訪問して介護サービスを提供することをいいます。

介護サービスの種類としては、入浴や排せつ、食事などの介助を行う「身体介護」と調理や洗濯、掃除などの家事を行う「生活援助」の他、利用者の通院などを介助する「通院等の乗降介助」があります。

通院等の乗降介助は、訪問した介護職員が運転する自動車等で乗車や降車の介助やその前後の移動の介助、通院先での受診手続きの介助などを行います。通院等の乗降介助サービスを提供する場合には、介護事業所の指定に加えて、運輸局で一般乗用旅客自動車運送事業または、特定旅客自動車運送事業の許可を取る必要があります。

なお、要支援者に対して訪問介護サービスを提供する場合には、訪問介護事業所の指定申請とは別に市区町村へ総合事業としての開設手続きが必要です。

■訪問介護事業の開業・立ち上げの準備

○訪問介護事業を行う法人の設立

訪問介護事業を始めるためには株式会社やNPO法人、合同会社等の法人格が必要です。今までなにか事業を行っていた場合でも個人事業主のままでは、訪問介護事業を始めることはできません。

既に株式会社などの法人がある場合には、定款や登記簿の事業目的を変更する方法でも開業は可能です。

法人設立や定款、登記事項の変更などは、時間がかかることもあるため余裕をもって準備を始めるようにしましょう。

○事業所の基本ルールの策定

事業所の名称や営業時間、サービス提供時間、そして営業開始日を決めます。指定申請の手続きや人員の確保に時間がかかることが予想されるので、できるだけ余裕をもって準備を始めることをお勧めします。

○事業所の物件選びと備品の準備

訪問介護事業を開業するためには、拠点となる建物(物件)が必要です。物件はなんでもいいわけではなく、設備基準が定められているので基準にあった物件である必要があります。

設備基準は、事務スペースや相談(面談)スペース、手洗い場の確保が必要です。さらに相談スペースは、相談者のプライバシーが確保されている必要があることにも注意してください。

マンションの一室を事務所として使用することも考えられますが、賃貸借契約書で事務所利用として契約していることや契約者が法人であることもポイントです。

訪問介護事業は、利用者の自宅へ訪問するという性質上、自転車やバイク、自動車などを使用することも考えられるため、近隣の駐車・駐輪スペースの確保も必要です。

事業所の物件が決まったら事業を運営するための備品の確保も忘れないようにしましょう。パソコンやプリンター、電話機、FAX、鍵がかかるキャビネット、机、椅子などが挙げられます。

手洗い場や事業所の入口などに設置する消毒液やハンドソープなども忘れないようにしましょう。

○人員の確保

訪問介護事業所の物件探しと同じくらい、あるいは一番大変なのが人員の確保です。知り合いに声をかけてある程度の目途が立っているなら安心です。

そうではなくて、これから新たに募集をかけて採用活動を行う場合、相当な時間がかかることもあるので注意が必要です。「ハローワークで募集すればすぐに集まる」と安易に考えていると人員の確保がネックになり事業を開始できないことも考えられます。

始めに必要な人員は次のとおりです。

管理者 専らその職務に従事する常勤の者が1名。サービス提供責任者との兼務が可能。
サービス提供責任者 専ら訪問介護の職務に従事する者を利用者の数に応じて1人以上。

必要な資格・経験等→介護福祉士・介護職員実務者研修課程修了者・旧介護職員基礎研修課程修了者・旧訪問介護員養成研修1級程修了者・であって、常勤の訪問介護員等。なお、2018年改定により旧訪問介護員養成研修2級、初任者研修(旧ヘルパー2級)だけではサービス提供責任者になれなくなったので注意が必要。

訪問介護職員 常勤換算2.5人以上。サービス提供責任者が管理者と兼務でない場合、サービス提供責任者は、常勤換算の人数に含めることができる。

必要な資格・経験等→介護福祉士・介護職員実務者研修課程修了者・旧介護職員基礎研修課程修了者・旧訪問介護員養成研修1・2級課程修了者・介護職員初任者研修課程修了者

○指定申請書の作成と提出

訪問介護事業を始めるためには、開設を希望する都道府県 に対して指定申請書などを提出する必要があります。

作成・提出する書類は多く、また、自治体によって様式が異なるため必ず指定申請を行う都道府県の窓口やホームページで確認するようにしてください。

事前に新規指定申請者向けのセミナー受講が必要な市区町村もあるので注意が必要です。

なお、政令指定都市や中核市については、市への申請が必要になります。また、都道府県へ申請する場合でも市区町村との協議や市区町村が行う説明会への参加が必要なケースがあります。

■訪問介護事業所の開業・立ち上げにかかる費用

○訪問介護事業所の開業・立ち上げにかかる費用

訪問介護事業の開業・立ち上げにかかる費用について考えていきます。スポットで必要になる費用の他、ランニングコスト(運転資金)として常時必要な費用があります。

運転資金としては、家賃や人件費などについては概ね6箇月分程度は確保しておくと安心 です。指定申請の際、新設法人であれば法人名義の預金通帳の残高、新設法人以外であれば決算書により財産状況を確認されることも多いです。

○法人設立・登記

訪問介護事業を始めるためには法人格が必要になりますので、始めに「定款認証」や「設立登記」が必要になります。

株式会社や合同会社など法人の形態によっても費用は異なりますが、株式会社であれば30万円程度、合同会社であれば15万円程度が目安です。

専門家に依頼する場合、定款作成・定款認証は行政書士、設立登記は司法書士など取り扱うことができる分野が分かれているので注意が必要です。

司法書士であれば定款作成から設立登記までワンストップでできるケースもありますが、許認可や指定申請の場合、事業目的等の記載内容が重要になりますので、同種類または類似の事業の開設に関わったことがあるかどうかは、確認した方がよいでしょう。

福祉サービスの指定申請や許認可を専門としている行政書士と司法書士が連携していると安心です。

専門家に依頼してもしなくても登録免許税などの必ずかかる費用(法定費用)があるので注意してください。

○新規指定申請

指定申請は、自ら行うこともできますが専門家に依頼する方法もあります。専門家に依頼すれば多くの申請書類の作成を代行してもらったり要件の確認をしてもらったり指定申請手続きにかかる時間を短縮することができるでしょう。

介護事業の指定申請手続きは、介護保険法にかかわる分野ですので申請書類の代行などを行えるのは社会保険労務士のみです。

新規指定申請に係る費用は、13万円から15万円程度が目安です。 ただし、事業の種類や申請を行う市区町村等が増えるとその分、費用がかかります。

○労働・社会保険の加入

職員(=労働者)を雇用することになりますので労働保険(労災保険・雇用保険)と社会保険(厚生年金保険・健康保険)の手続きが必要になります。

労働条件や働く時間によって必要な保険が変わってきますので注意が必要です。

労働保険・社会保険の手続きも事業主自身で行うこともできますが、専門家に依頼する場合は、4万円から8万円程度が目安です。

労働保険・社会保険の手続きを代行できるのは、社会保険労務士のみです。

○事務所の物件にかかる費用

訪問介護事業の拠点となる事務所を賃貸する場合には、その家賃が発生します。事務室の広さは6畳程度、加えて相談スペースなどが確保できる物件であることが必要です。

マンションやアパートを借りて駐車・駐輪スペースを確保することを考えるとひと月あたり10万円程度はかかると思われます。

もちろん、物件や地域によっても異なります。

また、居住用ではなく事務所利用として賃貸契約をする場合、通常よりも多く敷金がかかることがあるので注意してください。

○職員の人件費

介護職員(ホームヘルパー)の1箇月あたりの人件費は、一人20万円前後です。最低でも3人の職員が必要なことを考えると1箇月60万円程度になります。

実際に介護サービスの対価としての介護報酬が事業に支払われるまでには最短でも2箇月程度かかります ので、最低でも3箇月分程度の人件費相当の運転資金は準備しておきたいところです。

○設備費・その他備品にかかる費用

訪問介護事務所では、訪問介護計画や介護保険請求のための入力業務、各介護職員との連絡調整などが行われますので、そのためのパソコンやプリンター、電話機、FAXなどが必要です。相談スペースとして部屋を確保できない場合には、パーテーションなども用意する必要があるでしょう。その他、机や椅子なども忘れないようにしてください。

さらに、トイレとは別に衛生管理のためのスペースが必要です。洗濯室や汚物処理室、お湯が出る手洗い場も確保するようにしてください。

設備基準については、市区町村によって独自基準が設けられているケースもあるので詳しくは、指定申請をする市区町村のホームページなどで確認します。

利用者の自宅を訪問するための自転車やバイク、自動車などは事業所が用意するのか、それとも職員のものを利用するのかもあらかじめ検討しておきましょう。

職員の私用車などを業務利用する場合、万が一の事故に備えて自動車保険の見直しや事業所内でのルール作りも忘れないようにしてください。

■自己資金が少ない場合の資金調達の方法

訪問介護事業の開設にあたって必要な費用を考えた結果、自己資金が足りなそうな場合には資金調達が必要になります。

資金調達方法としては、返済不要な補助金や助成金を活用したいと考える人も多いですが事業が立ち上がる前の段階では、活用できるものは無いと考えた方がよいでしょう。

新規事業立ち上げにあたっての資金調達方法としてまず活用したいのは融資です。創業関係の融資であれば比較的、融資が受けやすいといわれています。

例えば、日本政策金融公庫の「新規開業資金」貸付では、最大7200万円(うち運転資金は4800万円)まで融資を受けることができます。

■サテライト型訪問介護事業

サテライト型訪問介護事業にも簡単に触れておきたいと思います。サテライトは、主たる事業所に対して出張所や営業所のような役割を持ちます。

○サテライトを設置する理由

サテライト型訪問介護事業とは、主たる事業所の他に出張所や営業所のような役割の拠点を設置する訪問介護事業のことです。サテライトを設置する最大の目的は、訪問地域(サービス提供エリア)の拡大です。訪問地域を広げることで利用者を増やし、事業所の収益を拡大させることが期待できます。

さらに、点在する利用者宅を効率よく訪問できるような場所にサテライトを設置することで、業務の効率化や職員の負担軽減を図ることができます。

○サテライトを設置する基準

サテライトは、どこにでもいくつでも設置してよいわけではなく、主たる事業所との距離(移動時間)の制限や2箇所までとすることなど基準があります。

距離的な制限を満たしていても他の市区町村へのサテライトの設置は認めないなど市区町村ごとに設置基準が異なる部分があるので注意してください。

○サテライトを設置するメリットとデメリット

サテライトを設置するメリットは、始めにもお伝えしたとおり、収益の拡大と業務の効率化にあります。

デメリットとしては、サテライト事務所の家賃が発生することや複数拠点をまたぐ人員管理が必要になることが挙げられます。

■活用するべき社外の専門家

訪問介護事業の開業は、やろうと思えばすべて事業主自身で行うこともできます。

しかし、すべて自分でやろうとすると膨大な時間がかかり本来やるべきことができなくなってしまうリスクがあります。

開業前の大切な時間を経営者として本来取り組むべきことに注力するためにも積極的に専門家を活用することをお勧めします。

弁護士 契約書の作成等
行政書士 定款認証・定款作成
司法書士 設立登記
税理士 開業届等、税務関係の届出
社会保険労務士 労働保険・社会保険の手続き、指定申請、処遇改善加算の申請および申請に必要な規程類の整備等

■まとめ

今回は、訪問介護事業所(訪問介護ステーション)の立ち上げと方法と開業時の基礎知識、失敗しないために知っておきたいことをわかりやすく解説します。

これから訪問介護事業の開業準備をする方や準備を始めたばかりの方が次にするべきことや注意点を知るためのヒントになったのではないかと思います。

新規指定申請に伴うルールや基準については、いわゆるローカルルールともいわれますが自治体ごとに異なること部分があるため、手続きを進める前には必ず開設予定地域の自治体のホームページを確認することも忘れないようにしてください。

*神奈川県webサイト
・介護サービスの事業者として指定を受けるには

※2023年11月25日、内容を更新しました。

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