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【訪問介護事業所の開業手順】開業準備から指定申請までの流れを解説

2024/8/29

2024/08/29

この記事の監修

社会保険労務士法人GOAL
代表 社会保険労務士

久保田 慎平(くぼたしんぺい)

1983年8月横浜生まれ、横浜育ち。2011年4月に都内の社会保険労務士事務所へ入職、4年間の実務経験後、2015年4月独立開業。その後、2018年9月に行政書士法人GOALと合流し、社会保険労務士法人GOALを設立。東京・神奈川の中小企業を中心に採用定着支援やテレワーク導入支援、労務トラブル防止、社内研修による人材育成に力を入れている。就業規則の実績200件以上、商工会議所等のセミナー講師実績多数。

訪問介護事業とは、高齢者が住み慣れた自宅でできるだけ自立した生活を出来るようサポートすることを目的としています。高齢化の流れもあり訪問介護事業の立ち上げに関する相談も増えています。

介護事業所を開設する場合、地方自治体への指定申請が必要だったり、人員や設備の基準を満たさないといけなかったりと一般的な法人設立とは異なる手順があります。

今回は、これから訪問介護事業所の開設準備を始める人のための指定申請までの流れを解説します。

┃訪問介護事業とは

○訪問介護事業

訪問介護事業とは、介護を必要とする高齢者や障がい者の自宅を訪問し、日常生活のサポートを提供するサービスです。具体的には、身体介護(入浴、排泄、食事介助など)や生活援助(掃除、洗濯、買い物など)を行います。このサービスは、高齢者や障がい者が可能な限り自宅で自立した生活を送ることを支援することを目的としています。

2024年度の介護報酬改定により、訪問介護事業は新たな変更点に直面しています。例えば、介護報酬単価の減少や特定事業所加算の見直しが行われました。身体介護の報酬単価は、20分以上のサービス提供で減額されることとなり、サービス提供の効率化が求められています。また、特定事業所加算の区分が再編成され、一部が廃止されるなど、事業所の体制強化がより重要視されています。

さらに、新たなサービス形態として、デイサービスと訪問介護を組み合わせた「訪問+通所サービス」が導入される予定です。この新サービスは、介護人材の不足を補うために考案され、利用者に対してより包括的なケアを提供することを目指しています。このような制度改革により、訪問介護事業所はより柔軟で効率的な運営を求められることとなります。

今後、訪問介護事業所を開設し運営する際には、これらの最新の制度改定や加算要件をしっかりと理解し、適切な対策を講じることが必要です。

○訪問看護事業との違い

訪問介護と訪問看護は、いずれも自宅で生活する高齢者や障がい者をサポートするサービスですが、その提供内容や目的に明確な違いがあります。

訪問介護は、高齢者や障がい者に対して利用者の日常生活をサポートすることを目的としています。具体的なサービス内容には、身体介護と生活援助があります。身体介護では、入浴、排泄、食事介助など、利用者の日常動作の支援があります。生活援助では、掃除、洗濯、買い物など、利用者の生活環境を整える手助けを行います。

一方、訪問看護は、主に看護師が行う医療的なサービスで、医師の指示のもとで提供されます。訪問看護は、病状の観察や管理、医療処置(点滴、カテーテル管理、傷の手当など)、リハビリテーション、そして終末期ケアなどを含む、より専門的な医療支援を提供します。看護師等により利用者の病状や介護者の負担を軽減するための指導や相談も行われます。

┃訪問介護事業のサービス内容

○身体介護(入浴、排泄、食事介助など)

訪問介護における「身体介護」とは、基本的な身体的ケアを提供するサービスです。日常生活の中で介助が必要な高齢者や障がい者に対して、入浴、排泄、食事介助などの介護サービスを提供します。

入浴介助では、利用者が安全かつ快適に入浴できるよう、浴槽への移動補助や身体の洗浄、転倒防止のための見守り、利用者が自宅で安全に入浴できるように、適切な温度設定や浴槽内での姿勢保持などが行われます。

排泄介助は、利用者が排泄を安全に行えるようサポートするもので、トイレへの移動補助や排泄後の清拭、オムツ交換などが含まれます。また、利用者のプライバシーを尊重しつつ、排泄のリズムや習慣を維持するためのサポートも行います。

食事介助では、食事の準備から摂取までを支援します。自力で食べることが難しい利用者の場合には、食事を口元まで運ぶなどの直接的な介助を行います。また、誤嚥を防ぐための工夫や、利用者の嗜好に合わせた食事内容の調整も行われます。

○生活援助(掃除、洗濯、買い物など)

訪問介護事業における「生活援助」とは、掃除、洗濯、買い物など日常生活の維持に必要な家事や手続きを支援するサービスです。このサービスは、利用者が自宅で快適に生活を続けるために重要な役割を果たします。

掃除支援では、床の掃除やごみの処理、整理整頓などを通じて、住環境を整えることを目的とし、利用者の居住スペースを清潔に保つためのサポートを行います。

洗濯支援では、衣類や寝具の洗濯、乾燥、そして収納までを支援します。自分で洗濯することが難しい利用者の場合には、これらの作業を代行し清潔な衣類や寝具を提供することで、衛生的な生活環境を保つサポートを行います。

買い物支援では、買い物リストの作成や店舗への同行、または代理購入など利用者が必要な食料品や日用品を購入できるようにサポートします。特に、移動が困難な高齢者や障がい者にとって、このサービスは生活の質を維持するために不可欠です。

生活援助は、利用者が自立した生活を維持し、安心して暮らすために欠かせないサポートです。このサービスを通じて、利用者は家事に対する負担を軽減し、より良い生活環境を維持することができます

○その他のサービス

訪問介護事業所では、身体介護や生活援助の他にも利用者のニーズに応じて通院等乗降介助や認知症ケア、口腔ケア、介護予防サービス等が提供されることもあります。

┃訪問介護事業を開設するための準備

○訪問介護事業を開業するためには法人が必要

訪問介護事業を始めるためには株式会社やNPO法人、合同会社等の法人格が必要です。今までなにか事業を行っていた場合でも個人事業主のままでは、訪問介護事業を始めることはできません。

新たに法人設立をする、既存の法人で訪問介護事業を始める、いずれの場合でも登記簿や定款に必要な事業目的が記載されていることを確認してください。

○指定申請のための基準

訪問介護事業所において指定申請を行うためには、運営基準、設備基準、人員基準を満たす必要があります。特に人員基準に関しては、必要な資格を持っている人を新たに採用しなければなりません。採用活動がうまくいかないと指定申請の時季が遅れてしまうこともあるので余裕をもって早めに準備を始めることが重要です。

→指定申請のための基準について詳しくはこちら

┃訪問介護事業の開設手順

○スケジュールの確認

指定申請を行う地方自治体の受付スケジュールを確認します。自治体によって各月の申請締め切り日が違うこともあるので注意が必要です。

○基本事項の決定

訪問介護事業所を開設するための基本的な事項として事業所名称や営業(サービス提供)時間、営業開始日を決定します。ここで決めた営業開始日から逆算して指定申請や基準の整備、人材の採用をしていくようにします。

○法人設立または事業目的の変更

訪問介護事業所を開業するためには法人格が必要です。法人格は株式会社、NPO法人、合同会社と種類を問いませんが、設立完了までの期間や費用が異なるため、開設スケジュールをふまえて検討しましょう。既に法人を設立している場合は定款等の目的を変更し、訪問介護事業を行う旨を定めます。

○事務所物件の選定と契約

訪問介護事業所を開業するためには事務所が必要です。事務所物件を賃貸契約する場合には法人名で契約を締結し、事務所利用が可能であることを不動産オーナーと確認しておきます。

事務所を契約することができたら、設備基準を満たすための備品を揃えます。具体的には事務スペースと相談スペース、手洗い場を確保した上で、電話機・FAX、パソコン・プリンター、鍵がかかる書棚・書庫、机・椅子、手洗い用石けん・消毒液などを用意します。

○人材採用・人員確保

訪問介護事業所を開業するためには常勤換算で2.5人以上の訪問介護員を配置する必要があります。必要な資格は、介護福祉士、実務者研修修了者、初任者研修修了者、旧介護職員基礎研修過程修了者、旧ホームヘルパー1級課程修了者、旧ホームヘルパー2級課程修了者、
看護師・准看護師が挙げられます。

有資格者の経験は時間がかかるケースも珍しくないので、余裕をもって早めに動くようにします。

○指定申請書の作成・提出

事務所の契約や人員の確保にある程度の目途が立ったら指定申請書の作成を始めます。指定申請の様式は、各地方自治体のwebサイトからダウンロードができます。

すべての条件をそろえ、指定申請書の作成ができたら窓口へ申請を行います。自治体によって受付スケジュールが違うことがある他、事前予約が必要な場合もあるので注意しましょう。

指定申請書を窓口へ提出したとき、あるいはその後、各事業所の実態に応じて追加書類などが求められるケースが多いです。補正指示があった場合には、その指示に従い、指定された日までに補正を行わないと指定が遅れることもあるので注意が必要です。

→指定申請の方法や様式集はこちらから(神奈川県の場合)

┃訪問介護事業の指定申請の相談は社会保険労務士へ

最後に注意しないといけない点として、訪問介護事業所の指定申請を始めとした介護保険法に関する手続きを業務として代行することができるのは、社会保険労務士のみとされています。社会保険労務士ではないコンサルタントなどに手続き代行を依頼したり、指定申請書類の作成を依頼したりすると違法となるので注意が必要です。

┃まとめ

今回は、これから訪問介護事業所の開設準備を始める人のための指定申請までの流れを解説しました。

介護業界は高齢化社会の流れとともにニーズが高まる一方で、競争も激しく、事業の継続が難しくなってきている現実もあります。また、事業の継続が難しい要因として人材不足も課題として挙げられることも少なくありません。

これから訪問介護事業所の開業を考えている人は、専門家の助言のもと開業準備を進めることが重要になります。

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