- “採用・定着”マニュアル
絶対に失敗する?! 訪問看護ステーションの作り方
2021/8/6
2023/11/25
訪問看護ステーションの開設件数は年々増加傾向にあります。
超高齢化社会に突き進む中、今後も必要とされるサービスであるのは間違いありません。
ところが開設件数が増加しているといっても、経営が順調な事業所ばかりではありません。
「一般社団法人 全国訪問看護事業協会」の調査によると、昨年度は800件近い事業所が廃止あるいは休止に陥っていることがわかりました。
訪問看護事業へのニーズは高まっているにも関わらず、いったいなぜ訪問看護ステーションの経営はうまくいかないのでしょうか。
その理由の一つに「人材」があります。
訪問看護ステーションは看護師、保健師などの国家資格者を一定数確保しておかないと、開業にさえ至らない業種です。
「何としてでも開業予定日までに有資格者を集めないと…」
そういう事業主の焦りが、後の経営難を招いてしまうのかもしれません。
┃1. 訪問看護ステーションとは
1-1 訪問看護の概要
訪問看護とは、病気や障害を持った人が住み慣れた地域で、自分の生活スタイルに合った療養生活を送れるように、医療系有資格者(看護師など)が利用者の居宅を訪問するサービスです。
在宅医療の一つに挙げられます。
利用できるのは高齢者にかぎられません。
赤ちゃんからお年寄りまで、訪問看護が必要な状態の人であればサービスを受けられます。
1-2 訪問看護で受けられるサービス
看護師等が医師と連携して、主に以下のサービスを行います。
・病状の観察:病気や障害の状態、血圧・体温・脈拍などをチェック
・在宅療養ケア:身体の清拭、洗髪、入浴の介助、食事や排泄等の介助・指導
・薬に関する相談や指導:薬の作用・副作用の説明、飲み方の指導、薬の管理など
・医療処置(医師の指示による):点滴、カテーテル管理、インシュリン注射など
・医療機器の管理:人工呼吸器などの管理
・床ずれ予防・処置
・認知症・精神疾患のケア:家族からの相談、対応方法のアドバイス
・介護予防:運動機能低下予防、健康管理
・ご家族等への介護支援・相談:家族会等、支援団体へつなぐお手伝い
・在宅でのリハビリテーション:嚥下機能訓練など
・ターミナルケア:がん末期や終末期の患者が自宅で過ごせるように支援
1-3 訪問するのはどんな人?
訪問看護を行うのは、次の医療系資格を持った人たちです。
・看護師
・准看護師
・保健師
・助産師
・理学療法士(PT:物理的手段で運動機能の維持・改善を図る)
・作業療法士(OT:元通りの生活が送れるよう作業を通じてサポートする)
・言語聴覚士(ST:言語障害、音声障害、嚥下障害の専門家)
1-4 訪問看護ステーションって、どんな施設?
訪問看護を行える施設は大きく分けて二つ。
一つは病院や診療所といった、健康保険法上の保険医療施設。
もう一つが、株式会社といった法人が運営し、行政から事業所指定を受けた「訪問看護ステーション」です。
どちらも訪問看護事業を行う点では同じですが、大きく異なる3つの点があります。
① 人員配置基準は「訪問看護ステーション」の方が厳しい
病院・診療所は「看護職員を適当数」であるのに対し、訪問看護ステーションは「看護職員を常勤換算で2.5以上」などの複雑な要件が科されています。
② 収入面は「訪問看護ステーション」の方が有利
訪問看護ステーションの報酬は、病院・診療所と比較して高く設定されています。
③ リハビリを訪問看護事業として行えるのは「訪問看護ステーション」だけ
病院・診療所では、訪問看護事業の一部としてリハビリテーションを行うことができません。
訪問看護ステーションならもっときめ細やかなサービスが提供可能、という考え方ができるかもしれません。
┃2. 訪問看護ステーションの開設と廃止に関する調査
2-1 訪問看護ステーションの件数は急増
訪問看護ステーションの数は近年、著しく増加しています。
「一般社団法人 全国訪問看護事業協会」の調査によると、2011年の開設件数は5731件だったのに対し、2021年では13003件。
およそ倍以上の件数となっています。
2-2 休止・廃止に追いやられる訪問看護ステーション
しかしながら、休止・廃止の件数も多いのが実情です。
同じ調査内で、2020年度の訪問看護ステーションの新規数、休止数、廃止数が明らかにされています。
令和2(2021)年度
新規数:1633
廃止数:541
休止数:240
新規数1633件に対し、休廃止件数はその約半数にあたる781件。
更に令和3(2021)年4月1日のデータを見てみると、456件の事業所が休止状態です。
┃3. なぜ訪問看護ステーションの経営はうまくいかないのか?
なぜ、訪問看護の需要は高まっているにも関わらず、頓挫してしまう訪問看護ステーションが多いのでしょうか。
その理由は、訪問看護ステーションが持つビジネスモデルの特殊さと、人材確保の問題です。
3-1 必ず人を採用しないと運営できないから
事業が軌道に乗るまでは「ひとり社長」で会社を経営し、業績が安定したら人を雇用するという中小企業は珍しくありません。
しかしながら、訪問看護ステーションではそのような経営方法は不可能です。
それは「人員基準」の問題があるからです。
先ほど少し触れましたが、訪問介護ステーションを開設するには「看護職員を常勤で2.5人以上」という、人員基準があります。
この人員基準がクリアできない限り、行政から許可が下りませんので、開業にすら至りません。
したがって、多くの訪問看護ステーションの事業主さんは、
「まずは何としてでも看護職員を確保しないと」
と、人材集めに奔走することになります。
3-2 開業させることだけが目標になり、人材選びを軽視してしまうから
医療系資格を持ち、かつ実務経験がある人材をピンポイントで探さなくてはなりません。
いくら人柄が良くても、資格が無ければ訪問看護ステーションの一員として迎えるのは難しいでしょう。
そして、開業させることが第一目標になってしまい、人間性を重視した人材選びができなくなってしまいます。
訪問看護ステーションの開業に繋がる人材は、残念ながら人間性や適性がある人材ではありません。
人員基準を満たす資格と経験を持った人材です。
結果、人員基準を満たす人材だけを最優先に探し、本当に適性がある人材か見極め出来ていないまま採用してしまい、事業所内でトラブルを起こして大量離職に発展……という最悪のシナリオが起きうるのです。
3-3 高額な人件費
訪問看護ステーションでは、保健師、看護師など、医療系有資格者を何人も雇用しなけれなりません。
その分、給与水準は一般企業より高めとなります。
期待した働きぶりではなかったとしても、人員基準や利用者様のことを考えると、雇用を続けざるを得ないという状況に陥ることもあります。
訪問看護ステーションの存続を考えると、能力に見合わない高額な給与を払ってでも有資格者を確保しておかなければいけないのかもしれません。
しかしながら、そういう事業所で質の高いサービスができるのでしょうか?
そもそも人員基準とは、質の高いサービスを安定して届けるために作られた基準です。
訪問看護ステーションの存続だけを考えて、人員基準の本来の趣旨を忘れてしまうと、頭数は揃っていても事業が成り立たなくなるでしょう。
3-4 仕事ぶりを知っている人を採用すればうまくいく?
過去に同じ職場で働いていた人なら、仕事ぶりを知っているしうまくいくだろう…と考える方もいるでしょう。
確かに、過去の仕事ぶりから適性がある程度わかるかもしれません。
しかしながらデメリットもあります。
それは気心の知れた相手な分、上司と部下の関係が崩れやすいことです。
トラブルがあってもつい「なあなあ」で済ませてしまい、他のスタッフの不満がたまってしまうことがあります。
更に、知り合い同士でスタッフを揃えてしまうことで、「芋づる式」に離職が発生するケースもあります。
気心の知れたスタッフを採用するのは、必ずしも最適解とはいえません。
3-5 二度あることは三度ある、人材選びの失敗
一度人材選びに失敗した事業所は、二度三度同じ失敗を繰り返すといわれます。
資格、経験年数など表面的な情報だけでは本当の適正を判断できません。
新しい事業所の場合、早く常勤換算をクリアして、指定申請に臨まなければという焦りも出てきます。
自分はいわば指定申請を通すための「駒」扱いだと感じ、事業所を信頼できなくなるスタッフもいるでしょう。
┃4. さいごに
業種によっては、開業からしばらくは「ひとり社長」、業務が増えてきたら採用活動という会社もあるでしょう。
しかし、訪問看護ステーションは指定基準をクリアするために、開業当初から人材を入れなければなりません。
収益の見通しが不明瞭な中、多額な人件費をかけての採用に不安も大きいはずです。
社会保険労務士法人GOALでは、訪問看護ステーションの開設だけではなく、求人活動や採用定着のお手伝いもしています。
自社での採用活動だけでは人が集まらない、適正ある人材選びがわからない……そんなお悩みがございましたらご相談ください。
*一般社団法人 全国訪問看護事業協会
・訪問看護ステーション基本情報