- ”労務管理”マニュアル
利用者からの暴言、暴力…どう対処する? 介護現場のハラスメント対策
2021/6/7
2023/11/25
近年、利用者やその家族による介護職員へのハラスメントが問題となっています。
利用者・家族からのハラスメントは、職員の心と体を強く傷つけると同時に、円滑な介護サービス利用を妨げてしまいます。
介護現場のハラスメントの実態を知り、その上で対応策を考えていきましょう。
Contents
┃利用者・家族によるハラスメントの実態
2018年に行われた「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究実態調査」では、ハラスメントの実態をこのように示しています。
〇介護職員の多数がハラスメントを経験
利用者からのハラスメントを受けたことが「ある」と答えた職員は、4~7割にのぼります。
利用者の家族によるハラスメントを経験した職員は1~3割。
サービス種別によって割合は変わるものの、かなりの数の介護職員が被害を受けています。
〇精神的・身体的暴力に加え、セクハラ被害も
訪問介護、訪問看護、訪問リハビリテーション等では「精神的暴力」の被害が最も多く挙げられました。
<精神的暴力の例>
大声を発する
怒鳴る
利用者の夫が「自分の食事も一緒に作れ」と強要する
特定の訪問介護員に嫌がらせをする
(三菱総合研究所 「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」より)
「身体的暴力」の割合が多かったのは、特定施設入居者生活介護や介護老人福祉施設、認知症対応型通所介護です。
<身体的暴力の例>
コップを投げつけられる
蹴られる
唾を吐く
服を引きちぎられる
*職員が回避したため危害を免れたケースを含む
(三菱総合研究所 「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」より)
身体的暴力・精神的暴力より割合は低いものの、すべての施設において3~5割の職員がセクシュアルハラスメントを経験しています。
<セクシュアルハラスメントの例>
必要もなく手や腕を触る
卑猥な言動を繰り返す
入浴介助中、あからさまに性的な話をする
(三菱総合研究所 「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」より)
これらのハラスメントの結果、けがや病気になった職員は1~2割。
仕事を辞めたいと思った職員は2~4割となっています。
「ご利用者様相手に事を荒立てるのは…」と具体的な対策を打たないままでは、職員と事業所の将来を危なくしてしまいます。
┃介護職員がハラスメント被害に遭いやすい理由
介護職員へのハラスメントが発生する要因として、
- 職員に女性が多い
- 利用者の生活の質・健康に直結するため簡単にサービスを中止できない
- そもそも職員や施設側が被害と認識していない
などが挙げられます。
高齢の利用者は人生の多くを「男尊女卑」の時代で過ごしているせいか、女性職員を軽視した言動をしがちです。
また、暴力や暴言を受けた職員が
「自分さえ我慢すればいい」
「自分が未熟だからご利用者様を怒らせてしまうんだ」
と誰にも相談せず、被害が表面化しないという問題もあります。
その結果施設の方も被害を認識せず、ハラスメント対策を打てないという悪循環に陥ってしまうのです。
┃効果的なハラスメント対策とは
実際に起きてしまったハラスメント被害のフォローは非常に難しいです。
まずは職員を被害者にしないための対策から考えましょう。
対策①ハラスメントに対する基本方針の設定
「ハラスメントは組織として許さない」
「職員による虐待とハラスメントはどちらも許さない」
といった考え方を事業運営の基本方針として定め、事業所内で共有しましょう。
対策②利用者・家族への周知
利用者や家族に対し、ハラスメント対策について周知することも大切です。
例えば契約書や重要事項説明書に、
- どのような行為がハラスメントになるのか
- ハラスメントを行った場合の対応方法
- 契約解除になる場合もあること
などを記載しておくとよいでしょう。
契約書とは別に、施設からの「お願い」という風に柔らかい文章を配布し、利用者や家族に周知を行うのも効果的です。
対策③相談しやすい環境を作る
ハラスメント被害を受けても
「介護職員として未熟だと叱られるのではないか」
と不安になり、管理者に相談出来ない職員もいるようです。
職員が問題を抱え込まないように、相談窓口を設けることが望ましいでしょう。
対策④ハラスメント発生時のマニュアル策定
ハラスメントが発生したときは、職員の安全第一で対応することが重要です。
あらかじめ「初動マニュアル」を作っておくと、いざという時に冷静に対処できます。
早期に適切な対応を行い、状況を悪化させないよう努めましょう。
対策⑤行政や他職種・関係機関との連携
ハラスメントを繰り返す利用者・家族と接してしているうちに、施設全体が疲弊しサービスの質が低下してしまいます。
健康や金銭的なトラブルなど、利用者家族が抱える複合的な問題が「ハラスメント」となって表れている可能性もあります。
このような時は単独行動はせずに、行政や他職種・関係機関と協力して問題解決に当たりましょう。
*厚生労働省
・介護現場におけるハラスメント対策