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【介護事業所の労働契約書の作り方】注意点と抑えるべきポイントを解説

2024/12/27

2024/12/27

この記事の監修

社会保険労務士法人GOAL
代表 社会保険労務士

久保田 慎平(くぼたしんぺい)

1983年8月横浜生まれ、横浜育ち。2011年4月に都内の社会保険労務士事務所へ入職、4年間の実務経験後、2015年4月独立開業。その後、2018年9月に行政書士法人GOALと合流し、社会保険労務士法人GOALを設立。東京・神奈川の中小企業を中心に採用定着支援やテレワーク導入支援、労務トラブル防止、社内研修による人材育成に力を入れている。就業規則の実績200件以上、商工会議所等のセミナー講師実績多数。

介護事業所を運営する上で、労働契約書を始めとした書面を適切に作成し、交付することは職員との信頼関係を築くための第一歩となります。適切に作成された労働契約書は、職員の雇用条件を明確にし、労使間での認識のズレを防ぐ役割を果たします。しかし、実際には契約書の不備が原因でトラブルが発生し、場合によっては指定申請に影響を及ぼすこともあります。

特に介護事業所では、夜勤やシフト勤務、処遇改善加算など、他業種に比べて独自の労働条件が存在します。適切な労働契約書の作成を怠ると、職員の不満や離職につながり、事業運営に深刻な影響を及ぼしかねません。また、行政監査での指摘や指定申請の際に問題視されるリスクも高まります。

本記事では、介護事業所が労働契約書を作成する際に注意すべきポイントや、トラブルを未然に防ぐための対策を解説します。

労働契約書の不備が指定申請に及ぼす影響

介護事業所を開設するためには、市区町村等の地方自治体に対して指定申請を行う必要があります。そのとき、労働契約書や就業規則の提示を求められることもあります。

労働条件が不明確なことによる指定申請への影響

介護事業所が指定申請を行う際、労働契約書の整備状況も重要な審査ポイントの一つです。職員との間で結ばれる労働契約書には、賃金や労働時間、休日、業務内容などの労働条件が明確に記載されている必要があります。

指定申請を行うときには添付書類の一つとして労働契約書の提出を求められるケースがあります。同時に人員配置についても書面で提示をするため書類上の整合性が取れていることが必要不可欠です。また、処遇改善加算における実地調査等でも労働契約書や就業規則(賃金規程)の規定が重要な審査ポイントになり得ます。これらの書類に整合性がなかったり、不備があったりする行政指導の対象となることもあるでしょう。

さらに、労働契約書やその内容に不備があり、労働基準監督署や指定権者へ職員から通報があると、指定申請プロセスやその後の運営に影響を及ぼしかねません。

実施指導等で指摘される主なポイント

指定申請が通った後も、介護事業所は定期的に実地指導等が行われます。この実地指導では、介護報酬に関する事項の他、労働契約書を含む労務管理の適正性についてチェックされるケースもあります。

労働基準監督署やハローワークが行う行政指導において特に問題視されるのは以下のポイントです。

労働契約書の未整備または不完全

職員の労働契約書が存在しない場合や、記載内容が法的に不十分である場合、労働基準法違反として指摘されます。特に、賃金や労働時間、休日に関する項目が明記されていない場合、是正勧告が出されることがあります。

法改正を反映していない契約書の使用

労働基準法やその他関連法規の改正に伴い、労働契約書も適宜更新する必要があります。例えば、時間外労働の上限規制や年次有給休暇の取得義務化など、法改正を反映していない労働契約書を使用している場合、是正勧告が出される可能性があります。

曖昧な勤務条件や不適切な表現

労働契約書の記載が曖昧であると、職員が労働条件に納得せず、トラブルの原因となります。たとえば、勤務時間や休日の記載が抽象的で具体性に欠ける場合、職員が労働環境を不満に感じる原因となります。この部分は、例え行政指導では問題にならなかったとしても職員の採用や定着に影響を及ぼすでしょう。

介護事業所が自社で労働契約書を作成する場合のリスク

介護事業所が自社で労働契約書を作成することは、コスト削減の観点から一見魅力的に見えるかもしれません。しかし、適切な知識や経験がないまま作成した労働契約書にはリスクが伴います。不備のある労働契約書は、職員とのトラブルや行政指導における是正勧告、さらには法的責任を問われる原因となる可能性があります。ここでは、具体的なリスクを3つの観点から解説します。

雇用条件の記載漏れや曖昧さ

労働契約書は、職員に対する雇用条件を明確にするための重要な書類です。しかし、自社で作成する場合、必要な項目が漏れていたり、内容が曖昧であったりすることが少なくありません。

たとえば、職員の労働時間や休憩時間の詳細が記載されていなかった場合、後に「聞いていた条件と違う」といったトラブルに発展することがあります。また、賃金に関する記載が不十分であると、残業代の計算方法や休日手当の支払い基準についての認識のズレが生じ、職員からクレームを受ける可能性もあります。特に介護事業所では、夜勤やシフト制の勤務が一般的であり、これらの条件を正確に明示しないと、不当な労働環境と見なされるリスクが高まります。

さらに、「業務内容が広範囲すぎる」「契約期間の更新について記載がない」といった曖昧さも問題です。このような不備は、労働基準法違反として行政からの指導対象となることがあります。

法改正を反映しない古い労働契約書の使用

介護事業所の運営は、常に法令改正の影響を受けます。たとえば、働き方改革関連法による時間外労働の上限規制や、年次有給休暇取得の義務化などが挙げられます。しかし、自社で作成した契約書では、こうした法改正を適時に反映するのが難しい場合があります。

特にインターネット上からひな型をダウンロードしたようなケースは要注意です。古いフォーマットの労働契約書をそのまま使用していると、労働基準法に違反する可能性が高まります。

一般的に介護事業所では、介護報酬に関わる法改正(介護保険法)には敏感でも労働基準関係法令の改正には対応が追い付いていないケースが多く、労務トラブルが内在していることも少なくありません。

自社で労務管理を行う潜在的な問題

労働契約書の作成を自社内で完結させる場合、専門知識が不足していることが最大のリスクです。多くの介護事業所では労務管理を内製化することは負担が大きくリスクが高いものになります。

例えば、「試用期間中の賃金が本採用時と異なる場合の注意点」や、「契約社員の無期転換ルール」など、細かな法律要件を知らずに労働契約書や就業規則を作成してしまうと、法的トラブルの原因となります。

労働契約書が不十分であると、職員は事業所の運営方針や労務管理に対して不信感を抱く可能性があります。信頼関係が崩れると、職員の離職率が上がり、事業所の運営に大きな影響を及ぼします。

自社で労働契約書を作成することは、短期的なコスト削減につながるように見えますが、不備が発覚した際のリスクや対応コストを考慮すると、むしろ非効率となる可能性が高いです。社会保険労務士などの専門家に依頼することで、法的に適正な契約書を作成し、職員との信頼関係を築きながら事業運営をスムーズに進めることができます。

トラブルを防ぐための作成・見直しのポイント

労働契約書は、職員との信頼関係を築き、トラブルを未然に防ぐための重要なツールです。特に、夜勤やシフト制勤務が一般的な介護業界では、契約書の内容が実態に即していないと、職員の不満や法的リスクにつながる可能性があります。ここでは、労働契約書作成・見直しにおいて押さえるべき具体的なポイントを解説します。

労働時間・勤務時間・勤務シフトに関すること

介護事業所では、夜勤や不規則なシフト勤務が避けられないため、これらの条件を適切に反映した労働契約書や就業規則の作成が必要です。

シフト制の場合、勤務スケジュールの通知タイミングや変更ルールを労働契約書や就業規則にできるだけわかりやすく明記するとよいでしょう。たとえば、「勤務シフトは前月末までに通知する」「急な変更は職員の同意を得る」といった条項を設けることで、スケジュール変更に関するトラブルを最小限に抑えることができます。

労働基準関係法令における記載事項

労働基準法では、職員と労働契約を締結するときに原則書面で明示しなければならない項目が定められています。労働契約書や労働条件通知書を作成するときは、その定められた項目を漏れなく規定しなければなりません。

具体的な記載項目としては、賃金、労働時間、休日、業務内容など、以下の内容です。それ以外は、口頭でもよいとされていますが、できる限り就業規則などので書面で明示した方が後から「聞いていない」「知らない」等と言われて、事業所が不利になることを避けることができます。

*兵庫労働局「労働契約等・労働条件の明示」

まとめ

介護事業所にとって労働契約書は、職員との信頼関係を築き、トラブルを未然に防ぐための重要なツールです。不備があると、職員との認識のズレが起きたり、行政指導の対象となったり、指定申請のスケジュールに影響を及ぼしたりするなど事業運営場のリスクを招きます。特に、夜勤やシフト制勤務、処遇改善加算などの業界特有の条件を適切に反映させることが重要です。

また、法改正に対応していない古い契約書の使用や、曖昧な記載は職員からの不満や法的トラブルの原因となります。これらの問題を防ぐためには、法律の知識を持つ社会保険労務士の助言を活用することが有効です。専門家の関与により、契約書の不備を解消し、職員が安心して働ける環境を整えることができます。

労働契約書を見直し、適切に整備することは、介護事業所の円滑な運営と職員の満足度向上につながる大きな一歩です。

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