• “手続き”マニュアル

【指定申請】雇用契約書の不備で指定が下りない?! 労働条件のトラブルも要注意!

2021/9/6

2023/11/25

この記事の監修

社会保険労務士法人GOAL
代表 社会保険労務士

久保田 慎平(くぼたしんぺい)

1983年8月横浜生まれ、横浜育ち。2011年4月に都内の社会保険労務士事務所へ入職、4年間の実務経験後、2015年4月独立開業。その後、2018年9月に行政書士法人GOALと合流し、社会保険労務士法人GOALを設立。東京・神奈川の中小企業を中心に採用定着支援やテレワーク導入支援、労務トラブル防止、社内研修による人材育成に力を入れている。就業規則の実績200件以上、商工会議所等のセミナー講師実績多数。

「雇用契約書」「労働条件通知書」、正しく作れていますか?

雇用契約書や労働条件通知書は、介護事業の指定申請に欠かせない書類の一つです。

「インターネット上で配布されているひな型を編集すればすぐ作れるよね」

と、簡単に考えている方もいます。

そのように「我流」で作成した場合、労働基準法に違反した内容になってしまうことが多いのです。

指定申請の結果に悪影響があるだけではなく、労働条件をめぐって職員とのトラブルに発展するかもしれません。

1.指定申請とは

指定申請とは、介護事業を開始するにあたって、都道府県や市区町村の指定を受ける手続きのことです。

人員基準、施設基準、運営基準を満たし、介護事業所としての適格を審査されます。

「営業許可を得るための手続き」とイメージするとわかりやすいでしょう。

指定申請では職員の雇用実態の確認のため、「労働条件通知書」や「雇用契約書」の提出が求められます。

2.労働条件通知書とは

労働契約は

  • 労働者(職員)が使用者(事業主)に使用されて労働すること
  • 使用者がこれに対して賃金を支払うこと

の2点について、労働者と使用者が合意することで成立します。

双方の同意が得られない限り労働契約は成立しません。

労働基準法では、労働契約を結ぶ際に、使用者が労働者に対して労働条件を明示することを義務付けています。

労働条件を明示した書面を「労働条件通知書」といい、雇用契約を結ぶ際は労働者に必ず交付しなければなりません。

3.労働条件通知書に書かなければいけないこと

労働条件通知書に書くべき内容は

『必ず明示しなくてはならない事項』

『制度がある場合には明示しなければならない事項』

大きくわけてこの2種類があります。

詳しい内容を見てみましょう。

必ず明示しなくてはならない事項

①契約期間に関すること

②期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関すること

③就業の場所、従事すべき業務

④始業・終業の時刻、休憩、休日などに関すること

⑤賃金の決定方法、支払時期などに関すること

⑥退職に関する事項(解雇の事由を含む)

⑦昇給に関すること

制度がある場合には明示しなければならない事項

①退職手当に関すること

②賞与などに関すること

③食費、作業用品などの負担に関すること

④安全衛生に関すること

⑤職業訓練に関すること

⑥災害補償などに関すること

⑦表彰や制裁に関すること

⑧休職に関すること

3.メール、LINEで労働条件を明示してもOK!

労働条件は原則として、書面を交付して明示することが必要です。

ただし、労働者が希望した場合は、FAXや電子メール、SNSのメッセージ機能(労働者が印刷して保管できるものに限る)で労働条件を明示することが認められています。

4.雇用契約書と労働条件通知書の違いは?

雇用契約書とは、雇用契約を取り交わす際の契約書です。

こちらは労働条件通知書と異なり、必ずしも交付が義務付けられているものではありません。

労働条件通知書と雇用契約書を分けて作ることもありますが、書かれている労働条件が双方で違う、といった間違いが起きやすいのがデメリットです。

こういった間違いを防ぐには、労働条件通知書と雇用条件通知書を兼用できる書式で作成するとよいでしょう。

5.実態が労働条件と違っていると、即契約解除もありうる!

実際に働いてみて、労働条件の実態が労働条件通知書と異なっていると感じた場合、労働者は労働条件を契約通りに変更するよう要求することができます。

それだけではなく、すぐに契約を解除することさえできるのです。

(労働条件の明示)
第十五条

② 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。

介護事業は、人員基準を下回れば直ちに営業不能になってしまう事業です。

労働条件の明示が不適切だったせいで、職員が即時退職に至るような事態は絶対に避けなければなりません。

6.介護事業所の労働条件通知書でミスが多い箇所

最後に、介護事業所の労働条件通知書でミスが起きやすい箇所を挙げます。

あなたの事業所で発行している労働条件通知書とよく見比べてくださいね。

①無期雇用なのか有期雇用なのかよくわからない…

無期雇用契約なのに「契約更新する場合があり得る」「更新はしない」など、有期雇用契約に関する内容を記載していませんか?

②就業場所が「本社」だけ?!

訪問看護や訪問介護事業を行うのに、就業場所が本社の住所のみになっていませんか?

ご利用者様の居宅に訪問するのだから、就業場所は本社だけとは限りませんよね。

こういう場合は「その他、会社が指示する場所」などと書き添えておきましょう。

③労働時間・休日が事業所の営業時間とかけ離れている!

労働条件通知書の労働時間や休日と、指定申請書に書いた営業時間が違っている、ということはありませんか?

また、常勤換算を満たさない労働時間を設定していませんか?

常勤換算についてはこちらの記事も参照してください。

*常勤換算がわかる! 訪問看護ステーションの人員基準(開業・指定申請)
https://goal4864.com/kaigo-labo/procedure-manual/petition/232/

④年次有給休暇の日数が法律を下回っている!

有給休暇の付与日数は労働基準法で決められています。

「パート社員だから有給休暇は無しで」などと、誤った認識をしていませんか?

有給休暇は雇用区分を問わず、一定の条件を満たしたすべての労働者に与える義務があります。

〇年次有給休暇が付与される条件

雇い入れ日から6か月継続勤務 + 全労働日の8割以上出勤

〇年次有給休暇の付与日数

勤務継続年数が0.5年(6か月)で10日間 ~ 6.5年以上で20日間

*社内の就業規則で、労働基準法を上回る日数の年次有給休暇を与えてもかまいません。

7.労働基準法を守れない事業所に指定は下りない

介護事業所として指定を受けるには、各種法令の規定を守れていることが大前提です。

指定基準を満たせているかだけではなく、関係法令すべてをチェックしておく必要があります。

もちろん労働基準法も例外ではありません。

言うまでもありませんが、労働基準法が守れていない事業所は、職員にとって働きにくい事業所です。

ひとまず指定申請が通ったとしても、その後職員たちが長く働き続けてくれるかどうかはわかりません。

労働条件通知書のひな型を編集して終わり…ではなく、長く働きたいと思える介護事業所づくりのために、今一度労働条件の意味を考えてみましょう。

*厚生労働省
・労働条件・職場環境に関するルール

*介護・障害福祉サービス運営LABO
・訪問介護事業所が知っておきたい「労働基準法」トラブル事例&対処法

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