- ”労務管理”マニュアル
訪問介護事業所・登録型ヘルパー等の就業規則と労務管理
2021/3/8
2023/11/25
朝に出社、夕方に退社するいわゆる「一般的な会社」と、登録型ヘルパー等を雇用する「訪問介護事業所」は、働き方が異なります。
そのため、訪問介護事業所の事業主の方は「介護業界は特殊だから、労働基準法を順守するのは現実的に無理」と考えている人が多いように感じます。
しかし、行政は「訪問介護事業所」だからといって特別扱いはしてくれません。
「訪問介護事業所であっても労働基準法は適用される」という原則のもと訪問介護事業所に対する指導や取り締まりを進めています。
訪問介護事業所の就業規則・労務管理のポイントとは
厚生労働省は、訪問介護事業所の労働基準法等の法令順守のために
「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について(通達:平成16年8月27日付け基発第0827001号) 」を発出しています。
この通達の冒頭では明確に「法定労働条件の確保」をうたっています。
内容を少し詳しく見ていきましょう。
1.定義
訪問介護員(登録型ヘルパー)は、労働基準法第9条の労働者に該当するものと考えられます。
したがって扱いは「一般的な会社」の社員と同じように、労働基準法が適用されます。
この通達の中では労働時間が短く、お客様から急な需要があったときだけ臨時に雇われる職員等(登録型ヘルパーなど)の取り扱いに対して、労働基準法上の問題点がみられることが指摘されています。
2.訪問介護労働者の法定労働条件の確保上の問題点及びこれに関連する法令の適用
(1)労働条件の明示
事業主は正規職員、パートタイマー、アルバイト等、働き方に関わらず、雇い入れの際には、書面で労働条件を明示する必要があります。
①労働契約の期間、②就業の場所及び従事する業務、についてはあいまいに決めてしまうとトラブルになりやすいので、特に留意する必要があります。
(2)労働時間及びその把握
「訪問介護事業所の働き方は特殊」と言われる理由として、次の4点が挙げられます。
- ①移動時間
- ②業務報告書等の作成時間
- ③待機時間
- ④研修に要する時間
これらの時間を「業務を行っている時間ではないから」と無給にしてしまっている事業所もあります。
しかし法律上は「労働時間」として扱うのが望ましく、給与の支払いが発生します。
(3)休業手当
いわゆる「キャンセル」が発生した場合の対応が問題になります。
キャンセルにより就業ができないという事態になったとき、事業主の対応によっては「休業手当(労働基準法第26条)」を支払う必要性が生じます。
休業手当は「平均賃金の60%」以上の支払いが義務付けられています。
支払わない場合、未払い賃金が発生するリスクがあります。
(4)移動時間に関する賃金の算定
「移動時間」は原則的には労働時間と考えられるので賃金の支払い義務が発生します。
しかし全ての移動時間が労働時間に当たるわけではありません。
2パターン例を挙げます。
○通勤時間
ご利用者様の居宅へ直行直帰するような場合、居宅での業務時間の前後の移動は「通勤時間」となりますから労働時間にはなりません。
○移動時間
出勤 → ご資料者様A宅 → ご利用者様B宅 → 退勤
という場合、A宅からB宅への移動は「移動時間」として労働時間になる場合があります。
(5)年次有給休暇の付与
年次有給休暇は、雇い入れ後6箇月を経過したすべての労働者に付与されます(労働基準法第39条)。
正社員だけでなく、パート・アルバイトにも有給休暇を与える義務があります。
「1箇月契約を更新して6箇月を経過した場合」や「3箇月契約を更新して6箇月を経過した場合」でも年次有給休暇は、付与されます。
1回ごとの契約期間に関係なく、実態としてその事業所で6か月以上働いていることが重要です。
(6)就業規則の作成及び周知
就業規則は「常時10人以上の労働者」を雇用する場合には、労働基準監督署へ届け出る必要があります。
ここで言う「常時10人」は、正規職員だけではなく短時間の登録型ヘルパー等も含むことに注意が必要です。
(7)労働者名簿及び賃金台帳の調整及び保存
すべての事業主は、労働者名簿及び賃金台帳を作成する義務があります。
特に賃金台帳は、労働基準監督署の監督指導や年金事務所の調査の際に提出を指示されるだけではなく、様々な手続きで必要になります。
ここで記載したことは訪問介護事業所の現実とは違うと感じるかもしれませんが、就業規則をしっかりと作成することにより、法令を逸脱しないように現実に近いルールを作ることもできます。
法令順守がなかなか進まない業界だからこそ、法令順守の姿勢を示していけば「人材の定着」や「従業員満足度の向上」につながっていくものと考えられます。
*訪問介護労働者の法定労働条件の確保について