• ”労務管理”マニュアル

【訪問介護事業所の労務トラブル事例】トラブル防止のための労働基準法の基本について解説

2024/7/31

2024/08/01

この記事の監修

社会保険労務士法人GOAL
代表 社会保険労務士

久保田 慎平(くぼたしんぺい)

1983年8月横浜生まれ、横浜育ち。2011年4月に都内の社会保険労務士事務所へ入職、4年間の実務経験後、2015年4月独立開業。その後、2018年9月に行政書士法人GOALと合流し、社会保険労務士法人GOALを設立。東京・神奈川の中小企業を中心に採用定着支援やテレワーク導入支援、労務トラブル防止、社内研修による人材育成に力を入れている。就業規則の実績200件以上、商工会議所等のセミナー講師実績多数。

訪問介護事業所では、訪問介護職員(ホームヘルパー)が利用者宅へ直行直帰するケースが多くなります。そうすると朝に事業所へ出勤し夜になったら退勤するといった一般的な働き方とは異なる労務管理が必要になることがあります。

訪問介護事業を運営する事業主が一般的な労務管理と訪問介護事業所における労務管理の違い、その違いによる注意点などを適切に把握しておかないと労務トラブルの原因になってしまうことがあります。

今回は、訪問介護事業所の労務トラブル事例とトラブル防止のための労働基準法の基本について解説していきます。

┃訪問介護事業所と労働基準法

○訪問介護事業所も労働基準法を順守する

訪問介護事業所では、労働基準関係法令に対する事業主の理解不足等が原因で知らないうちに法令違反となってしまっていることも少なくありません。そこで厚生労働省は、訪問介護事業所の法令順守を促進するために「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について(通達:平成16年8月27日付け基発第0827001号)」を発出し注意を呼び掛けています。

また、通達をわかりやすく解説するためのパンフレットも公開されています。これらの資料を参考にして労働基準関係法令の順守をすることが求められています。

*厚生労働省「訪問介護労働者の法定労働条件の確保のために(平成20年09月)」

○労働契約と業務委託契約の違い

行政指導により最近では少なくなってきましたが訪問介護職員を業務委託契約(個人事業主)扱いで使用するケースも見られます。労働契約と業務委託契約の違いをよく理解しないまま、契約書の表題のみを業務委託契約としているケースもありますが非常に問題があります。

訪問介護事業所と訪問介護職員の関係性としては、業務委託契約は不適切であるケースが多いので万が一、そのような契約形態で運用している場合には早急に見直しをするべきでしょう。

→労働契約と業務委託契約の違いについて詳しくはこちら

┃訪問介護事業所の労務トラブル

○利用者宅間の移動時に賃金を支払っていなかったケース

訪問介護事業では、訪問介護職員が事業所に出勤するのではなく利用者宅に直接行き来をしたり、利用者宅間を移動したりするケースがあります。それが通勤に当たるのであれば通勤手当・通勤交通費だけで足りますが勤務時間内の移動なのであれば労働時間として取り扱う必要があり、そうすると賃金が発生します。

移動にかかる時間について交通費実費のみの支払いとしているケースがありますがその場合、未払い賃金が発生している恐れがあります。

移動時間に加えて次のような場合は、労働時間に当たると考えられます。

  • ・利用者宅間の移動時間
  • ・業務報告書等の作成時間
  • ・業務の指示や電話応対に備えての待機時間
  • ・研修に要する時間

→勤時間と移動時間は労働時間に含まれるのか?

○訪問キャンセル時に賃金を支払っていなかったケース

訪問介護事業では、利用者都合による介護サービスのキャンセルや日程変更が度々発生します。そのとき、職員は既に利用者宅へ移動を始めていたり、利用者宅へ到着した後にキャンセルを伝えられたりすることもあります。

こうした場合に介護サービスが発生していないからといって賃金を支払わないことは、労働基準法違反になる恐れがあるので注意が必要です。

→ャンセル発生時の給与支払い義務について

○訪問介護職員に年次有給休暇を付与していなかったケース

年次有給休暇は、雇い入れ後6箇月を経過したすべての労働者に付与されます。これは、正職員のみならず、パートタイマーとして働く訪問介護職員も同様です。パートタイマーあるいは非正規職員だから年次有給休暇を付与しないという取り扱いは、労働基準法に違反します。

┃労務トラブル防止のためにすぐにできる取り組み

○労働契約書は必ず作成する

労働契約書(労働条件通知書)を作成していない事業所では、労務トラブルが発生するケースが多いです。原則として労働契約書は作成が義務付けられておらず、事業主から労働条件通知書を交付すれば足りますが、後から「労働契約の内容を知らない、聞いていない」と言われないよう、相互に内容を確認して労働契約書として作成することをお勧めします。

労働契約書兼労働条件通知書として通知をすれば、労働条件を書面で明示する義務も同時に果たすことができます。なお、労働条件の明示は、書面で行う他、労働者の希望があれば電子メールやSNSのメッセージ機能を使用することも可能です。ただし、書面で出力できる方法に限られます。

*厚生労働省「令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます」

○労働者名簿・賃金台帳・出勤簿は必ず作成する

労働基準法では、「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」の3つを法定三帳簿と定め、事業主に作成を義務付けています。この法定三帳簿に加えて労働契約書(労働条件通知書)は確実に整備しましょう。最低限必要な書類を準備することは、適切な労務管理を行う第一歩となります。

┃介護事業所は特別ではないことを理解する

介護関係の事業者の中には「介護業界は特殊だから」と労働基準関係法令から目を背けている人が少なくありません。このような考え方が生まれる原因としては介護保険法の存在が影響していると考えられます。

介護事業者は、保険収入を得るために介護保険法の順守に意識を重くおきがちです。しかし、労働契約の根底にあるのは労働基準法を始めとした労働基準関係法令であることを忘れてはいけません。

労働基準関係法令を順守することが職員満足度向上につながり、介護業界の課題の一つでもある人材不足、人材確保にも影響していきます。

┃まとめ

今回は、訪問介護事業所の労務トラブル事例とトラブル防止のための労働基準法の基本について解説しました。

訪問介護事業所の労務トラブルを防止するための方法としては、労働基準関係法令の順守と法令で定められた書類を確実に準備するという意識を持っていれば防げるものも多いです。

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