• ”労務管理”マニュアル

訪問介護事業所が知っておきたい「労働基準法」トラブル事例&対処法

2021/5/3

2023/11/25

この記事の監修

社会保険労務士法人GOAL
代表 社会保険労務士

久保田 慎平(くぼたしんぺい)

1983年8月横浜生まれ、横浜育ち。2011年4月に都内の社会保険労務士事務所へ入職、4年間の実務経験後、2015年4月独立開業。その後、2018年9月に行政書士法人GOALと合流し、社会保険労務士法人GOALを設立。東京・神奈川の中小企業を中心に採用定着支援やテレワーク導入支援、労務トラブル防止、社内研修による人材育成に力を入れている。就業規則の実績200件以上、商工会議所等のセミナー講師実績多数。

朝に出社して会社で働き、夜には退勤する。

世間が考える「一般的な会社」の働き方はおそらくこういったスタイルでしょう。

しかしながら、登録型ヘルパー等を雇用する「訪問介護事業所」は、働き方がだいぶ違いますよね。

そのため、労働基準法で定められた労働時間・賃金などに関するルールを完璧に守るのは無理だ、と考えてしまうかもしれません。

労働基準法をしっかり守れる職場づくりをすれば、介護事業所の人材定着に繋がっていきますよ。

今回は行政の通達をもとに労働基準法の「コツ」をつかんでいきましょう

┃訪問介護労働者の法定労働条件の確保について

厚生労働省は、訪問介護事業所の労働基準法等の法令順守のために

「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について(通達:平成16年8月27日付け基発第0827001号)」

という通達を発出しています。

この通達では「法定労働条件の確保」をうたうとともに、労働基準法違反が起きやすい例を示しています。

それでは見出しごとに、通達に書かれている内容をくわしく見ていきましょう。

┃登録型ヘルパーは「個人事業主」ではなく「労働者」!

訪問介護員(登録型ヘルパー)の雇用形態に関しては「業務委託」「請負」などのように、個人事業主と同じ扱いにしている事業所があります。

個人事業主は労働基準法が適用されません。

労働基準法が適用されないということは、最低賃金や1日の労働時間の上限(法定労働時間)といったルールを守る必要もない、ということになります。

でも、登録型ヘルパーさんが自分の業務内容をすべて自分で好き勝手に決められるわけではありませんよね。

通常は事業所の指示に従って業務を進めているはずです。

したがって登録型ヘルパーも、基本的には使用者(事業所)の指揮監督下にあるため、労働者にあたり労働基準法が適用されます。

┃すべての職員に労働条件を明示しよう

職員を雇い入れる際には、その雇用形態を問わず、事業主からその職員に対して労働条件を明示しなくてはなりません。

〇労働条件を明示する方法

明示方法は書面で行うのが原則です。

2019(平成31)年4月から労働者の希望があったときに限り、

  • FAX
  • 電子メール
  • SNSのメッセージ機能

を使っての明示も可能になりました。

〇明示の義務がある労働条件とは?

以下の6項目は、必ず明示する義務があります。

①労働契約の期間
②有期労働契約の更新の基準
③就業場所・従事すべき業務
④始業・終業時刻、所定労働時間超えの労働の有無、休憩時間、休日、休暇、2交代制等に関する事項
⑤賃⾦の決定・計算・⽀払⽅法、賃⾦の締切・⽀払時期、昇給に関する事項
⑥退職(解雇を含む)に関する事項

特に①と③は職員と事業所で行き違いが生じやすい項目です。

労働契約更新の基準は明確に定め、勤務表を整備して就業場所や業務を具体的に示しましょう。

┃業務の時間じゃないのに給与が発生する?

次の中で、法律上は「労働時間」扱いで給与が発生する時間はどれでしょうか?

  • ご利用者様A宅からB宅への移動時間
  • 業務報告書等の作成時間
  • 業務の指示や電話応対に備えての待機時間
  • 研修に要する時間

実はすべての時間が、法律上は「労働時間」に当たり給与が発生する可能性があります。

┃利用者都合のキャンセル! 休業手当は支払うべき?

キャンセルにより就業ができないという事態になったとき、事業主の対応によっては「休業手当(労働基準法第26条)」を支払う必要があります。

例えば職員に働く意思があるのに代わりの仕事を割り振らず、そのまま帰してしまったという場合です。

休業手当は通常の賃金の6割以上を支払う必要があります。

ご利用者様都合のキャンセルだから職員には休んでもらえばいい、と簡単に考えていると、未払い賃金が発生してしまう危険性があります。

┃移動時間に関する賃金の算定

「移動時間」は原則として労働時間に含まれます。

ただし状況によっては「通勤時間」に当たり、賃金が発生しないケースもあります。

〇通勤時間:ご利用者様の居宅へ直行直帰するような場合

居宅での業務時間の前後の移動は「通勤時間」に当たると考えられ、労働時間にはなりません。

したがって賃金も発生しません。

〇移動時間:ご利用者様の居宅間を移動する場合

出勤 → ご利用者様A宅 → ご利用者様B宅 → 退勤

という場合、A宅からB宅への移動は「移動時間」として労働時間になる場合があります。

通勤時間と移動時間に関しては、より詳しく解説した記事もありますので、こちらもご覧ください。

*介護・障害福祉サービス運営LABO
・移動時間中の給与は発生する? 通勤時間と移動時間<訪問介護事業所・登録型ヘルパー等>

┃年次有給休暇を与える義務とその条件

年次有給休暇は、雇い入れ後6か月を経過したすべての労働者に付与されます(労働基準法第39条)。

正職員以外のパートタイマー、アルバイト等も同様です。

時々、「雇用期間を6か月未満にすれば有給休暇は発生しないのでは?」と誤解している方がいます。

このような場合でも、契約更新を繰り返した結果、働いている期間が通算で6か月を超えれば有給休暇は発生します。

┃就業規則の作成及び周知

就業規則は「常時10人以上の労働者」を雇用する場合には、労働基準監督署へ届け出る必要があります。

ここで言う「常時10人」は、正規職員だけではなく短時間の登録型ヘルパー等も含みますので、注意してください。

┃労働者名簿と賃金台帳は必ず整備しよう!

労働者名簿と賃金台帳は単なる社内のメモではなく、法律で保存が義務付けられている書類です。

これらは社会保険・労働保険の手続き時に行政から提出を求められることが多く、普段から整備がされていないと手続きができなくなってしまいます。

賃金台帳を正しく記録するには「出勤簿」の整備も必要となるでしょう。

最近はこれらを一元管理できる労務管理システムもあるので、管理にお悩みの事業主様は導入を検討されてはいかがでしょうか。

┃まとめ

介護業界は「特殊な業界だから」という認識が強く、労働基準法への意識が薄いところが残念ながらあるようです。

法令順守がなかなか進まない業界だからこそ、法令順守の姿勢を示していけば「人材の定着」や「従業員満足度の向上」につながっていくのではないでしょうか。

*厚生労働省
・労働基準法
・訪問介護労働者の法定労働条件の確保について
・労働契約締結時の労働条件の明示 ~労働基準法施行規則が改正されました~

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