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【介護現場の職員を守る】利用者からのハラスメント問題と解決策について解説

2024/10/16

2024/10/16

この記事の監修

社会保険労務士法人GOAL
代表 社会保険労務士

久保田 慎平(くぼたしんぺい)

1983年8月横浜生まれ、横浜育ち。2011年4月に都内の社会保険労務士事務所へ入職、4年間の実務経験後、2015年4月独立開業。その後、2018年9月に行政書士法人GOALと合流し、社会保険労務士法人GOALを設立。東京・神奈川の中小企業を中心に採用定着支援やテレワーク導入支援、労務トラブル防止、社内研修による人材育成に力を入れている。就業規則の実績200件以上、商工会議所等のセミナー講師実績多数。

近年、介護現場では職員が利用者からのハラスメントに苦しむケースが増えています。介護職は、利用者の身体的ケアに加え、心理的サポートも求められるため、ストレスフルな環境にあります。

特に、利用者からの暴力的な行為や言葉の暴力は、職員のメンタルヘルスに大きな影響を及ぼし、最悪の場合には離職につながることもあるでしょう。この問題に対処するためには、職員個人の問題とせず事業所全体として適切な予防策を講じることが求められます。

今回は、介護現場の職員を守るために利用者からのハラスメント問題と解決策について解説していきます。

┃介護現場での利用者からのハラスメントの種類とその影響

○身体的ハラスメント、精神的ハラスメント、言葉による暴力

介護現場では、利用者から職員に対するハラスメントが深刻な問題となっており、その種類や影響は多岐にわたります。ここでは、具体的な事例を挙げながら、介護職員が直面する「身体的ハラスメント、精神的ハラスメント、言葉による暴力」の実態と、それがもたらすストレスや離職リスクについて詳しく解説します。

・身体的ハラスメント

身体的ハラスメントは、介護職員に対する暴力行為としてしばしば報告されています。たとえば、食事や入浴の介助中に、利用者が職員の体を叩いたり、殴ったりするケースです。特に認知症を抱えた利用者では、自分の意思がうまく伝わらずに苛立ちが募り、職員に対して暴力を振るうことがあります。ある事例では、夜勤中に職員が突然ベッドから起き上がった利用者に腕を強くつかまれ、怪我を負ったという報告もあります。身体的な危険を伴う現場では、職員が恐怖や不安を感じ、業務に支障をきたすことも少なくありません。

・精神的ハラスメント

精神的ハラスメントは、職員に対する精神的な圧力や心理的攻撃を指します。たとえば、利用者から「なんでこんなに遅いんだ!」と怒鳴られたり、「あなたは役に立たない」といった否定的な言葉を繰り返し浴びせられたりするケースが該当します。令和3年度 介護労働実態調査結果によれば、「暴言(直接的な言葉の暴力)を受けたことがある」と回答した職員は19.5%となっています。繰り返される精神的な攻撃は、職員の自己肯定感を損ない、業務意欲を低下させます。

*公益財団法人介護労働安定センター「令和3年度 介護労働実態調査結果」

・言葉による暴力

言葉による暴力もまた、介護現場で頻繁に発生します。暴言や侮辱的な発言が続くと、職員は精神的に追い詰められます。特に、介護職員が女性の場合、性別に基づく差別的な言葉を受けることもあり、セクシャルハラスメントとしての要素も含まれます。ある事業所では、高齢の男性利用者が女性職員に対し「お前は女のくせに何もできない」などの言葉を繰り返し投げかけ、職員が精神的に疲弊し、最終的に離職したケースが報告されています。このような言葉の暴力は職員にとって大きな負担となり、職場環境の悪化につながります。

→パワハラの定義や具体的事例、防止策について詳しくはこちら

○介護職員が受けるストレスや離職につながるリスク

介護職員が受けるハラスメントの影響は、心身の健康に深刻なダメージを与え、最終的に離職へとつながるリスクが高まります。ある調査によれば、介護職員の約50%が職場でのストレスを感じており、その原因の一つに利用者からのハラスメントが挙げられています。

・心身の疲労とストレス

身体的ハラスメントにより職員が負傷した場合、単なる肉体的な怪我にとどまらず、精神的なトラウマを伴うことが少なくありません。特に、繰り返し暴力行為を受けた職員は、恐怖感や不安感から業務に集中できなくなり、パフォーマンスが低下する可能性があります。さらに、精神的ハラスメントや言葉による暴力を受け続けると、職員は強いストレスを感じ、職場にいること自体が苦痛となります。このような状況が続くと、最終的にはうつ病や適応障害など、精神疾患を発症するリスクが高まります。

・離職のリスク

ハラスメントが続く中で、職員が限界を感じて離職を決断するケースは少なくありません。実際、介護業界では離職率が高いことが問題視されています。令和5年度 介護労働実態調査結果によると、介護関係の仕事を辞めた理由として「職場の雰囲気の改善、利用者や家族からの圧力の防御など、職員をストレスから守る取り組みをしてくれなかった」と回答した人の割合は25.3%にもなることがわかりました。

ハラスメント問題に対応しない事業所では、職員が次々と辞め、慢性的な人手不足に陥るリスクが高まります。介護職員が安心して働ける環境を整えるためには、事業所がハラスメント問題を深刻に受け止め、適切な予防策や対応策を講じることが不可欠です。社会保険労務士の役割は、これらの対策をサポートし、職員の権利を守るための法的アドバイスを提供することです。

https://www.kaigo-center.or.jp/report/jittai/*公益財団法人介護労働安定センター「令和3年度 介護労働実態調査結果」

01ハラスメントの類型と種類

┃ハラスメントへの法的対応と事業主の責任

○労働基準法や労働安全衛生法の観点からの職場環境の整備

介護現場におけるハラスメントは、職員の心身の健康を脅かし、職場全体のパフォーマンスに悪影響を与える深刻な問題です。事業所は、法律やガイドライン等に基づき職員が安心して働ける環境を提供する責任を負っています。以下では、労働基準法や労働安全衛生法に基づく職場環境整備と、介護事業所が果たすべき具体的な義務について解説します。

まず、職場環境整備の根拠となる法律の一つが労働基準法です。この法律は、労働条件の最低基準を定め、職員が健全な環境で働けるようにするためのものです。ハラスメント問題に関しても、労働基準法第89条には「職場の規律に関する事項を就業規則に記載しなければならない」と明記されており、介護事業所はハラスメント防止のための規則を設ける義務があります。具体的には、ハラスメントが発生した場合の報告窓口について定めることが求められます。

また、労働安全衛生法も重要な役割を果たします。この法律は、労働者の安全と健康を確保することを目的としており、職場でのストレスや危険を防止する義務が事業所に課されています。2014年の法改正により、事業所は職場におけるメンタルヘルス対策を強化することが義務付けられました。これには、職員が定期的にストレスチェックを受けることが含まれ、職場での精神的ストレスの兆候を早期に発見し、適切な対応を取ることが目的です。

例えば、ある介護施設では、定期的なストレスチェックの結果、多くの職員が精神的な疲労や不安を感じていることが判明しました。これにより、事業所は迅速に対策を講じ、職員の相談窓口を強化し、研修プログラムを導入することで職場環境を改善しました。このように、労働基準法と労働安全衛生法に基づく職場環境の整備は、ハラスメント防止に不可欠な取り組みです。

○介護事業所が果たすべき義務と法的な対応策

介護事業所には、ハラスメントが発生した場合に職員を保護するための具体的な対応策を講じる義務があります。これには、法的に義務付けられた対応だけでなく、ガイドラインに基づく適切な措置も含まれます。

パワーハラスメント(パワハラ)については「労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)、セクシュアルハラスメント(セクハラ)やマタニティハラスメント(マタハラ)等については「男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法」等によりそれぞれハラスメントの防止措置が事業主に科せられています。

・ハラスメントの防止措置の策定

事業所は、ハラスメント防止のための規則を作成し、職員に周知徹底させることが義務付けられています。この規則には、ハラスメントの定義、具体的な例、発生時の対応手順、処分内容などが含まれるべきです。例えば、ある介護事業所では、ハラスメントに関する研修を定期的に実施し、全職員にハラスメント行為の禁止や報告義務を教育しています。

・相談体制の整備

事業所は、ハラスメントが発生した際に職員が安心して相談できる窓口を設ける義務があります。この窓口は、職員がハラスメント被害を報告しやすい環境を整え、被害者のプライバシーを保護しつつ、適切な対応を行うことが求められます。

・再発防止策の実施

ハラスメントが発生した場合、事業所は迅速に対処し、同じ問題が再発しないようにするための具体的な防止策を実施しなければなりません。これには、ハラスメント行為を行った利用者や職員に対する教育や、場合によっては法的措置の検討が含まれます。

02ハラスメントと法的責任

┃ハラスメントの防止策と事後対応

○ハラスメント防止のための事前教育や職員のサポート体制

介護事業所におけるハラスメント問題は、職員の働きやすさだけでなく、利用者へのサービスの質にも影響を与えます。そのため、ハラスメントを防ぐための事前の準備や、発生した際の適切な対応が不可欠です。ここでは、社会保険労務士法人GOALへ相談があった事例なども踏まえながら、事前教育やサポート体制の構築、実際にハラスメントが発生した際の対応手順について、具体的事例を交えながら解説します。

介護現場でハラスメントを未然に防ぐためには、職員と利用者の双方に対する教育が必要です。まず、職員への事前教育では、ハラスメントの定義や具体的な行為、被害に遭った際の対処法をしっかり理解させることが重要です。厚生労働省が公開しているwebサイト「あかるい職場応援団」では、研修等で使用できる資料も用意されているので参考にしてみるとよいでしょう。

例えば、ある介護施設では、毎年全職員に対してハラスメント防止の研修を実施しています。研修では、利用者からの暴力や言葉の暴力に対する具体的な対応方法を学び、職員が自分の安全を守るための意識を高めました。さらに、ハラスメントの早期発見と報告の重要性も強調し、職員が問題を放置せずに上司や相談窓口に速やかに報告できるよう促しています。

加えて、利用者への啓発も効果的です。事前に利用者やその家族に対して、適切なコミュニケーションや介護職員への尊重の重要性を説明することで、ハラスメントのリスクを低減できます。例えば、ある事業所では、新規利用者とその家族に対して、介護職員へのリスペクトを求めるパンフレットを配布し、トラブルの予防に努めています。

また、事業所内には職員のサポート体制を整えることが不可欠です。具体的には、相談窓口の設置や、ハラスメントに関する報告・相談を受け付ける体制を整えることが重要です。ある事業所では、職員が安心して悩みを相談できる専用の相談窓口を設置し、週に一度はカウンセリングを行う専門スタッフを配置しています。このようなサポート体制が整っていれば、職員は不安やストレスを抱えたまま働くことなく、早期に問題を解決できるでしょう。

*厚生労働省「あかるい職場応援団」

○実際にハラスメントが起きた際の対応手順と事業所のサポート方法

万が一、ハラスメントが発生した場合、事業所は迅速かつ適切に対応することが求められます。まず、初期対応として、ハラスメントを受けた職員の話を丁寧に聞き、心理的なケアを行うことが重要です。多くの場合、被害者は不安や恐怖感を抱えているため、職員の心理的な負担を軽減するためのサポートが必要です。

次に、事実確認のプロセスに移ります。ここで、ハラスメントの詳細な状況を調査し、必要に応じて第三者(労務士や専門の調査機関)を介入させ、公平かつ客観的に事実を把握します。

調査の結果、ハラスメントが事実と認められた場合は、適切な対応策を講じます。利用者がハラスメントを行った場合、事業所は利用者に対して注意喚起を行うとともに、必要に応じてサービスの制限や契約の見直しを行うことが検討されます。ある介護事業所では、暴力行為を繰り返す利用者に対して、家族と協議の上で一部のサービスを停止し、職員の安全を優先する対応を取りました。

さらに、事業所は被害を受けた職員に対してフォローアップを行う必要があります。ハラスメントが発生した後も、被害者が安心して働けるよう、メンタルヘルスのケアや業務環境の改善を進めることが重要です。例えば、ハラスメントを受けた職員に対して、定期的な面談やカウンセリングを実施し、精神的な回復を支援する事例もあります。また、必要に応じて職務内容の変更や勤務シフトの調整を行うことで、職員が安心して業務に復帰できる環境を整えます。

最後にハラスメント問題が再発しないよう、再発防止策を徹底します。これには、利用者や職員へのさらなる教育や、内部通報制度の強化が含まれます。社会保険労務士事務所や弁護士事務所と外部相談窓口として契約をしているケースもあります。

03ハラスメントの防止策と事後対応

┃まとめ

今回は、介護現場の職員を守るために利用者からのハラスメント問題と解決策について解説しました。

介護現場におけるハラスメント問題は、職員の心身の健康を損ない、離職や職場環境の悪化を引き起こす深刻な課題です。ハラスメントを防ぐためには、事前に職員と利用者双方への教育を徹底し、職員が安心して相談できるサポート体制を整えることが重要です。

また、実際にハラスメントが発生した場合には、被害者の心理的ケアや公平な事実確認を行い、適切な対策を講じることが求められます。さらに、再発防止策として、内部通報制度の整備や研修の強化も重要です。ハラスメントに迅速かつ適切に対応し、職員を守ることで、介護事業所はより良い職場環境を提供でき、サービスの質向上にもつながります。

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