採用時、適正検査や実技試験、面接など選考方法をどんなに考えてもミスマッチは必ず起こります。
入社後間もなく、会社が求めるスキルに達していないことが発覚、社員本人もそれを自覚しており自らの意思で退職を申し出たケースがありました。
その際に「会社に迷惑をかけたから」と数日分の給与の受け取りを拒否している、ということでした。
会社として、「給与の受け取り拒否、受け取り辞退」にどのように対応するべきか考えていきます。
┃賃金支払い5原則
賃金(賃金債権)は、労働者が労働の対価として受け取るものとして強く保護されています。
労働基準法第24条では「賃金支払い5原則」を定めており、その中で
- 賃金は、
- ・通貨で
- ・直接労働者に
- ・その全額を
- ・毎月一回以上
- ・一定の期日に
- 支払わなければならないとされています。
このように賃金については、労働者の権利として強く保護されています。
そのため、労働者側から「給与の受け取りを辞退する」と申し出があっても実際に支払わないことによる会社の責任が問われる恐れがあります。
┃シンガーソーイングメシーン事件
賃金の受け取り拒否に関する事例として「シンガーソーイングメシーン事件」という裁判事例をご紹介します。
○事件の概要
ある事情によって退職金の受け取りを請求しない旨の意思表示をした社員が、後から「やっぱり退職金が欲しい」と請求をしてきた事例です。
この請求に対して会社側が「退職金の請求をしないといったのだから退職金は支給しない」と拒否しました。
この社員が行った「退職金を請求しない」という意思表示は有効か?
ということが争われた事案です。
○裁判所の判断
元社員が退職に際しみずから賃金に該当する本件退職金債権を放棄する旨の意思表示をした場合に、全額払いの原則が意思表示の効力を否定する趣旨のものであるとまで解することはできない。
以上のように裁判所は判断しました。
簡単に言うと「自ら退職金を受け取る権利を放棄したのであれば、その意思表示は有効」と判断したわけです。
┃社員の給与の受け取り拒否は有効か
このシンガーソーイングメシーン事件を参考にすると
「社員自らの意思で明確に賃金の支払いを拒否しているのであれば、会社側の責任は問われない可能性が高い」
と考えることができます。
- 気を付ける点としては、
- ・会社としては、決められた賃金について支払う意思表示をすること
- ・すでに働いた分について、支払う旨を伝えること
このようなことを伝えた上でそれでもなお、受け取り拒否(辞退)をするのであれば、その旨をしっかり記録に残しておけば問題ないと考えられます。