会社からの貸与品を従業員が紛失、または破損したときに従業員に対して弁償を求めるときがあります。
このとき、給与から弁償金額の控除をするにあたっては一定のルールがあり、事業主が一方的に行えるものではないので注意してください。
┃貸与品の紛失や破損について弁償させることはできるか
事業主からの貸与品を紛失や破損させた場合、その実費弁償額の範囲内で弁償させることは問題ありません。
ただし「■■を紛失または破損した場合は○○円を控除する」というようなことを就業規則等で定めたとしても無効になります。
*労働基準法16条(賠償予定の禁止)
┃給与から勝手に金銭を控除することはできない
貸与品の紛失や破損について従業員に責任があっても事業主は勝手に給与から弁償金額を天引きすることはできません。
給与から金銭を控除できるのは「法令に定めのある場合」と「労使協定を締結した場合」だけです。
○法令に定めのある場合
源泉所得税や社会保険料等の法定福利費を控除する場合には、特に手続きは必要ありません。
○労使協定を締結した場合
今回のテーマとなっている貸与品の弁償費用や2箇月以上前の給与の過不足清算、社員旅行の積立金等、事業主が任意に控除する場合には、労使協定の締結が必要です。
*労働基準法24条(賃金の支払)
┃全額弁償か、一部弁償か
従業員の責任の程度や紛失または破損したものの弁償金額にもよりますが全額弁償は、認められにくいと考えられます。
認められにくいというのは、例えば従業員から「全額弁償させられるのは違法」と訴えられたようなケースです。
最高裁判例では、「従業員の負担額は損害額の4分の1(25%)程度が妥当」とした事例もあり、残りの部分は事業主としての責任も負うべきと考えられています。
*茨城石炭商事事件(最高裁 1976年7月8日判決)

┃弁償か懲戒処分か
弁償と懲戒処分とは分けて考えるべきでしょう。
そもそも懲戒処分として行う減給制裁には「1回が1日分の平均賃金の半額以内、総額が1箇月の給与の10分の1以内」と決められています。
弁償は弁償で適切な金額を求めた上で必要に応じて懲戒処分を検討します。
┃就業規則と労使協定が必須
給与から金銭を控除するためには、労働基準法24条による労使協定を締結する必要があることは、先にお伝えした通りです。
さらに事業主が負った損害相当額の弁償を求めたり、懲戒処分を行ったりするためには就業規則の規定が必要不可欠です。