従業員の人数によって必要な手続きと労務管理

事業主が従業員を雇用する場合、その人数によってやらなければならないこと、法律で義務付けられていることがいろいろあります。

ここでは、その雇用する従業員数ごとに必要な手続き等をご案内します。

目次

┃従業員1人以上(労災保険の成立)

従業員(労働者)を一人でも雇用すると労働保険(労災保険)の成立手続きが必要です。

ここでいう従業員とは、正規雇用労働者だけではなくパートタイマーやアルバイト等の非正規雇用労働者も含まれます。

【労務リスク】
労災保険の成立手続きをしていれば、従業員が万が一怪我をしたり病気になったりしたときに労災保険から給付を受けることができます。

労働保険の成立手続きを怠っていた場合には、遡って保険料を徴収される他、追徴金を徴収されます。

┃従業員10人以上(就業規則の作成・届け出)

従業員を常時10人以上雇用する場合は、就業規則を作成し、労働基準監督署へ届け出をする義務が発生します。

ここでいう従業員とは、正規雇用労働者だけではなくパートタイマーやアルバイト等の非正規雇用労働者も含まれます。

また、就業規則は、すべての労働者に対して作成する必要がありますので、パートタイマーやアルバイト等の非正規雇用労働者に対しても作成する義務があります。。

【労務リスク】
就業規則の届け出をしていない場合、罰金があります。

また、問題社員の処分をする場合等は、就業規則に根拠条文が規定されている必要があり、規定がない状態での処分は無効です。

┃従業員10人以上(安全衛生推進者の選任)

常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業場では、安全衛生推進者を選任する義務があります。

安全衛生推進者(衛生推進者)は、労働者の安全や健康確保などに係わる業務を担当させなければなりません。

【労務リスク】
選任義務があるにもかかわらず、安全衛生推進者(衛生推進者)を選任していない場合、事業場内で事故が発生すると事業主の安全配慮義務違反を問われる可能性があります。

┃従業員43人以上(障害者雇用)

すべての事業主には、その雇用する従業員数に応じて、法定雇用率以上の割合で障害者を雇用する義務があります。

2020年までは45.5人につき1人以上、2021年以降は43.5人につき1人以上になる予定です。

なお、法定雇用率に満たない人数しか障害者雇用をしていない場合には、障害者雇用納付金が徴収される他、企業名が公表される場合があります。

┃従業員50人以上(安全管理者・衛生管理者の選任)

従業員が常時50人以上の事業場では、その業種に応じて安全管理者、または、衛生管理者を選任する義務が発生します。

○安全委員会・衛生委員会・安全衛生委員会の設置

従業員数が常時50人以上の事業場で、すべての業種で衛生委員会の設置、林業や建設業などの一定の業種の場合には安全委員会の設置が義務付けられています。

安全委員会と衛生委員会を合わせて安全衛生委員会を設置することも可能です。

【労務リスク】
選任義務があるにもかかわらず、安全管理者、または、衛生管理者を選任していない場合、事業場内で事故が発生すると事業主の安全配慮義務違反を問われる可能性があります。

法令に定められた安全衛生管理体制を整備していない場合、労働安全衛生法違反として罰則があります。

┃従業員50人以上(産業医の選任)

従業員が常時50人以上の事業場では、その人数に応じて産業医を選任する義務があります。

事業場で行われた健康診断の結果に基づいて産業医の指導を受けたり、メンタルヘルス不調者の処遇等についてアドバイスを求めたりすることが考えられます。

【労務リスク】
選任義務があるにもかかわらず、産業医を選任していない場合、事業主の安全配慮義務違反を問われる可能性があります。

特に従業員に心身の不調が見られる場合には、その処遇については、産業医等の診断に基づいて決定される必要があります。

法令に定められた安全衛生管理体制を整備していない場合、労働安全衛生法違反として罰則があります。

┃従業員50人以上(ストレスチェック)

2015年12月以降、従業員が常時50人以上の事業場では、ストレスチェックの導入が義務付けられています。

従業員が常時50人以上の事業場では、毎年1回、このストレスチェックを全ての労働者に対して実施する必要があります。

ただし、契約期間が1年未満の労働者や、労働時間が通常の労働者の所定労働時間の4分の3未満の短時間労働者は義務の対象外です。

【労務リスク】
ストレスチェックの実施義務があるにもかかわらず未実施だった場合、事業主の安全配慮義務違反を問われる可能性があります。

また、ストレスチェック未実施で労働基準監督署への報告を怠った場合、罰則があります。

┃従業員101人以上(一般事業主行動計画)

常時雇用する従業員が101人以上の事業主は、一般事業主行動計画を策定し都道府県労働局へ届け出を行う義務があります。

一般事業主行動計画とは、従業員の仕事と子育てに関して事業主としてどのような取り組みをするかを明示したものです。

┃従業員101人以上(女性活躍推進法)

常時雇用する従業員が301人以上の事業主は、女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画の策定が義務付けられています。

女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画は、女性従業員が働き続けることができる環境づくりについて、事業主の取り組みの計画を明示したものです。

┃事業場・企業の単位

労働基準法および労働安全衛生法については、企業全体ではなく支店や営業所等の場所単位で従業員数をカウントするのが基本です。

一方で、一般事業主行動計画に関する従業員数は、企業全体で考えることになります。

詳しくは、各法令や制度を確認してください。

┃従業員(労働者)の数え方

「常時雇用する労働者」とは、正社員やパートタイマー、アルバイト、契約社員等の区分にかかわらず原則として次の条件に当てはまる者です。

①期間の定めなく雇用されている者
②1年以上継続して雇用されている、または、その見込みがある者

詳しくは、各法令や制度を確認してください。

従業員数ごとに必要な手続きや義務をしっかりと理解し、漏れの無いように行うようにしてください。

手続き漏れによって罰則の対象になったり、損害賠償責任が重くなったり、企業名公表等の社会的責任を負わされたりすることが考えられます。

*厚生労働省(職場の安全サイト)
安全衛生キーワード(あ行)

※2021年11月2日内容更新しました

この記事を書いた人

社会保険労務士法人GOALの代表。中小企業を中心に人事労務管理・就業規則の作成・助成金の申請サポートに対応しています。

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