【賃金計算の端数処理】社員の賃金・給与に端数があったときはどうするか

給与計算を行っているとその計算の過程で1円未満の端数が発生することがあります。これらの端数処理をどのように行うかは、法律等によって決まっているものも特段の決まりがないものあり給与計算担当者を悩ませる原因になることもあります。

また、ルールを理解せずに端数を切り捨ててしまうと、法令違反になってしまうこともあるため注意が必要です。

今回は、給与計算(賃金計算)における端数処理について解説します。

目次

┃賃金計算における端数処理の基本的な考え方

○法律上の決まりがあるもの

時間外労働や法定休日、深夜労働に対する割増賃金の計算については、労働基準法上、その計算方法が決められており、端数処理についてもルールがあります。これらについては、賃金計算で端数が発生した場合でも、一律に端数を切り捨てることはできません。

一律に切り捨てを行うことは、労働基準法で規定されている「全額払いの原則(同法24条1項本文)」に違反すると考えることができます。一方で、賃金や労働時間を切り上げることは、社員有利な端数処理となるため問題ありません。

○法律上の決まりがないもの

月の途中入社退社に伴う日割り計算や遅刻早退欠勤時の賃金控除に関する計算方法や端数処理については明確な決まりはありません。そのため、社員にとって極端に不利益になるものでなければ基本的には就業規則(賃金規程)の定めによります。

○判断に迷ったら社員有利に処理

賃金の端数処理で判断に迷ったときは、社員にとって有利な方向で処理すれば間違いはないでしょう。例えば、支給するものは切り上げる、控除するものは切り捨てる、といった方法です。

┃賃金計算の端数処理

○遅刻早退欠勤控除により賃金に端数が発生する場合

月の途中入社退社に伴う日割り計算や遅刻早退欠勤時の賃金控除に関する計算方法や端数処理については明確な決まりはありません。しかし、計算過程において切り上げをしてしまうと本来の控除に対する金額よりも多く控除してしまうことになるため、基本的には切り捨てることになります。

○割増賃金計算における端数処理

例えば、1時間あたりの賃金が2250円の社員が1時間の時間外労働をした場合、割増賃金単価は、2250円×1.25=2812.5円となります。このケースでは、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げることは可能です。1箇月の時間外労働、休日労働、深夜業の各々の割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合も同様に50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げることができます。

実際の給与計算の場面では次の2通りの端数処理が発生します。

  • 1時間あたりの割増賃金を算出して端数処理を行う
  • 1か月あたりの割増賃金の合計額を算出して端数処理を行う

1時間あたりの賃金が2250円の社員が月に7時間の残業をした場合、それぞれの方法で端数処理を行うと、次のようになります。

・1時間あたりの割増賃金を算出して端数処理を行う方法

1時間あたりの割増賃金は、2250円×1.25=2812.5円となり、端数処理した2813円に残業時間を掛けた金額である2813円×7時間=19691円が1か月分の割増賃金となります。

・1か月あたりの割増賃金の合計額を算出して端数処理を行う方法

1か月あたりの割増賃金の合計額は、2250円×1.25×7時間=19687.5円となり、この額を端数処理した19688円が1か月分の割増賃金となります。

それぞれの方法で割増賃金の合計額が異なりますが、どちらの方法で計算しても問題はありません。

○1箇月分の賃金における端数処理

給与計算を行った結果に1箇月の賃金支払額に100円未満の端数が生じた場合は、50円未満を切捨て、50円以上を100円に切り上げることが認められます。また、1箇月の賃金支払額に1000円未満の端数が生じた場合は、1000円未満の端数を翌月の賃金支払日に繰り越すことが可能です。これらの端数処理は、一昔前の現金手渡しで給与支払いを行っていた時代には行われていたケースがあったかもしれませんが今ではほとんど見られません。

┃労働時間の端数処理

〇労働時間に端数が発生した場合

会社は、社員の労働時間を1分単位で正確に記録することが求められています。賃金や割増賃金についても1分単位の適切な労働時間管理により支払われるべきものですが賃金の支払い方法については一部、簡略化が認められています。

○1箇月の合計時間数の端数処理

1箇月の時間外労働、休日労働及び深夜業の合計時間数について、30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切上げることが認められています。

日々の労働時間を5分単位や10分単位、15分単位で行うことは原則として認められません。ただし、時間外労働等について1分を5分に、5分を10分に切り上げるように社員有利に端数処理をするのであれば問題にはならないでしょう。

労働時間の端数処理は、割増賃金の項目(時間外労働、休日労働、深夜労働)ごとに行うことができます。ただし、端数処理が許されるのは1か月分の労働時間であって、1日ごとに端数処理をすることは認められていません。

たとえば、1か月の時間外労働が7時間32分、休日労働が6時間20分、深夜労働が8時間14分の場合、端数処理を行うと、それぞれの労働時間は次のようになります。

  • 時間外労働 8時間
  • 休日労働  6時間
  • 深夜労働  8時間

1日ごとの端数処理は認められないので、1日の時間外労働が1時間10分の場合に端数処理で1時間とすることは許されません。

○労働時間の適切な把握は会社の義務

2019年4月施行の改正労働安全衛生法では、社員の労働時間の把握を会社の義務としています(同法66条の8の3)。社員の労働時間を記録する方法は、タイムカードやパソコンの使用時間などの客観的な方法を採用しなければなりません(労働安全衛生規則52条の7の3)。

┃まとめ

今回は、給与計算(賃金計算)における端数処理について解説しました。

あまり深く考えずに給与計算ソフトの初期設定のまま端数処理を行っているケースも少なくありませんが、日割り計算や遅刻早退欠勤控除、時間外労働割増賃金を手計算しなければならなくなったときに正しい方法がわからないということも多いです。

給与計算ソフトはあくまでも補助的なツールとして使うものです。万が一、給与計算ソフトの不具合があった場合に給与計算ができなくならないよう、準備をしておくべきだと考えます。

この記事を書いた人

社会保険労務士法人GOALの代表。中小企業を中心に人事労務管理・就業規則の作成・助成金の申請サポートに対応しています。

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