労災認定を受けた場合の事業主の不利益
労災認定を受けると保険料が上がったり労働基準監督署の調査が入ったりすると困るからできる限り労働者にも労災申請をさせたくない、ということはよく聞きます。
しかし、労災認定をしない、させない方が後々問題が大きくなることがあります。
今回は、労災認定にまつわる質問・相談に答えていきます。
┃労災認定を受けると労働保険料が上がる?
労災保険料が上下する仕組みのことをメリット制といいます。メリット制によって上下するのは労災保険料だけです(雇用保険料は変動しない)。
自動車保険のように「労災認定を受ける(労災保険を使う)と保険料が上がる」と考えている方もいますが、そのように単純な仕組みではありません。
労災保険料のメリット制は、「継続事業のメリット制」と「有期事業のメリット制」の二種類あります。
とても複雑な制度ですが簡単にポイントだけお伝えすると、、、
- ・労災事故が起きやすい事業
- →事故を少なくすれば保険料が下がる
- →事故が多ければ保険料が上がる
- ・労働者数が多いと労災事故が起きやすい
- →事故が少なければ保険料が下がる
- →事故が多ければ保険料が上がる
このような書き方をするとやっぱり「労災事故が起きると保険料が上がる」と感じますが、元々、労災事故が起きにくい事業であれば、メリット制の影響はほとんどありません。
労災事故が多い事業とは、林業や漁業、鉱業、建設業、製造業等です。
それ以外の業種で、労働者数が100人未満であればそもそもメリット制の適用外となる業種が多いです。
メリット制の対象になるとしても
※小売業の場合(メリット制の対象:労働者数100人以上)
例)
労働者数:100人
平均年収:300万円
労働保険料:90万円
以上のような事業所の場合、年度中の労災保険給付として約51万円ほど、申請をしないと(労災認定を受けないと)労災保険料は上がらないことになります。
小さな労災事故が年に数件あった程度では、保険料には影響しないと言えます。
┃労災認定を受けると監督署の調査が来る?
労災認定を受けると監督署の調査が来るのは?ということを気にする事業主もいます。
死亡事故や大規模災害、障害が残るような重大な労災事故、過重労働や長時間労働が疑われる事故であれば監督調査の対象になる可能性もあります。
しかし、労働基準監督官も人手不足なので細かな事故について一つ一つを調査している余裕はないともいわれています。
それよりも監督指導等を恐れて労災申請をしなかったり隠そうとしたりする方が問題です。
┃労災認定を受けるとペナルティがある?
労災事故が事業主の安全配慮義務違反だったり法令違反が原因だったりすれば是正勧告等の行政指導の対象となるケースはあります。
起きてしまったことは仕方がないので、今後の労災事故防止と災害にあった労働者の保護(補償)が最優先です。
事業主として実施するべき安全管理対策を講じた上で起きてしまった事故であれば、厳しいペナルティが科されることは考えにくいと言えます。
┃労働災害と労災隠し
労災事故は起こさないことが一番大切ですが、起きてしまったときのためにあるのが労災保険でもあります。
- 保険料が上がるのでは?
- 労働基準監督署の調査が入るのでは?
- ペナルティがあるのでは?
このような誤解の元に労災事故を隠そうとしたり、労働者に労災申請をさせないようにしたりというケースは多いです。
このようなケースで後から労災事故として発覚した方が労働基準監督署からの追及が厳しくなると言えます。
今回は、労災認定にまつわるよくある質問・相談・誤解について解説してきました。
日々、労災事故が起こらないよう対策をしながら、万が一、労災事故が起こってしまった場合には、労働者のことを第一に考えて迅速に労災申請をしてあげることが最善だと思います。
間違っても「労災申請をしない」ように仕向けたり「健康保険を使う」ように指示したり、しないようにしてください。
*厚生労働省
・労災保険のメリット制について