【就業規則作成のポイントや注意点】専門家に依頼するメリットを解説

就業規則というと「難しい」「校則のようなもの」というイメージを持たれがちですがそうではありません。

法律や校則のように会社や社員を押さえつけるようなものではなく、会社や経営者の考え方を共有し、会社発展の土台になるものです。

「まだうちの会社には必要ない」と考えている方も「そろそろ作った方がいいかも」と考えている方も、まずは、就業規則の基本的なところから見ていきましょう。

今回は、就業規則作成のポイントや注意点、専門家に依頼するメリットについて解説します。

目次

┃就業規則とは

スポーツにもルールがあるように就業規則とは、会社のルールブックです。就業規則には、大きく分けて次の2つの役割があります。

  • ・会社を問題社員などのリスクから守るため
  • ・社員が働きやすい環境を作るため

○ 会社を問題社員などのリスクから守るため

会社には、いろいろな考え方や価値観を持つ複数の社員が集まります。そうした人たちが会社の考えを共有し、会社運営を効率的に行う上での指針となるのが就業規則です。

また、稀に会社に紛れ込む問題社員対策としても就業規則が効果を発揮します。ほとんどの社員は、真面目に職務に専念して働いてくれていたとしても中には問題行動を起こす社員もいます。

就業規則が無いとそのような問題行動を起こす社員に対して、懲戒処分をしたり解雇したりという対処ができません。

就業規則は、こうした労使間の労務トラブルを未然に防ぐ、予防するためにも重要な役割を果たします。

○ 社員が働きやすい環境を作るため

会社のルールがあいまいだったり、経営者や上司によるその場しのぎの対応が多かったりすると社員はモチベーションを維持できません。

就業規則は、校則のように社員をルールで押さえつけたり、ルールでしばったりするためのものではなく、会社と社員がお互いにルールを守りながら 気持ちよく 働く(働いてもらう)ためのものです。

就業規則であらかじめルールを明確にすることで、ルールのあいまいさを無くし、判断で迷う時間を削減し、経営者も社員も仕事に専念することができます。

経営者や上司によるその場しのぎの対応を無くすことで、社員が感じる不公平感を無くし、不満を解消し、離職率を低下させ定着率を高める効果も期待できます。

○ 就業規則を作成しなければならない会社とは

常時10人以上の労働者を使用する事業主は、就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出をする義務があります。この作成と届け出義務に違反すると30万円以下の罰金が科せられます。

ここでいう「労働者」とは、正社員やパートタイマー、アルバイトなど、雇用形態や職種にかかわらず会社に使用される(雇用される)すべての人のことをさします。

一方で、労働基準法上では、常時10人未満の会社については就業規則の作成と届け出を義務付けていません。

しかし、会社のルールや考え方を明確にしたり、労務トラブルを防止したりするためにも社員を雇い入れるときには作成しておいた方がいいでしょう。

就業規則は会社と社員の約束ごと、契約書のような役割もあります。大切な取引先との取り引きに契約書がないことはあり得ません。

そのように考えると社員が一人でもいれば就業規則は作成しておいた方がいいと言えます。

○ 就業規則はなんのために作るのか

就業規則を作成するときにまず考えなければならないことは、就業規則を作成する目的です。

この「なんのために作るのか」という視点がない就業規則は、作成する意味がありません。

一番よくないと感じるのは「助成金を申請するのに必要だからひな型就業規則でとりあえず作ったことにする」というものです。

それで助成金の申請が通り、一時的にお金が入ってきたとしても会社の実態に合わない就業規則はやがて会社の首を絞めることになるでしょう。

インターネットからダウンロードしたひな型就業規則を使えば費用も時間もかけず、就業規則を作成することもできます。

しかし、無料でダウンロードしたひな型就業規則は、最近の働き方改革関連法などの労働関係法令の改正に対応できていないこともあります。

一般的なひな型就業規則では、業種や業界ごとの関係法令や最近の社会的な問題に対しても対応ができていないでしょう。

就業規則を作成することで会社のルールを明確にし、会社の成長につなげていきたいと考えるのであれば、労働関係法令を中心とした専門的な知識と就業規則作成に関する経験や多くのノウハウが必要です。

また、就業規則は一度作成したら終わりではなく、法律の変化や社会の変化に応じて常に見直しが必要です。

会社内に専門的な知識を持った人がいない場合には、外部の専門家と連携することも検討することをお勧めします。

┃就業規則がない場合のリスクとデメリット

会社に就業規則がない場合のリスクやデメリットはどのようなことが考えられるでしょうか。リスク面から考えていくと雇用する労働者数に関わらず整備することが大切なことがわかります。

○ 就業規則は会社のルールブック

就業規則は会社のルールブックです。ルールを守る、言い換えれば秩序を守るために就業規則はとても重要です。

就業規則があれば、会社は社員に対して社内のルール・規則を公式に明示することができます。それは、会社という集団の秩序を維持することに繋がります。

社員の自主性を重視するような会社もありますが複数の人間が集まって組織として活動していく以上は、最低限のルールはあった方がいいです。

仮にルールがなく、経営者や一部の幹部の気分やその場の間隔でルールが決められたり、ルールが変わったりした場合、不公平感が広がり社員は不満を抱くでしょう。

○ 就業規則で会社をリスクから守る

採用活動の過程で何度面接をしても適性検査などに力を入れたとしても問題行動を起こす社員が入ってきてしまう可能性は0にはできません。

そのようなとき、適法に問題社員を会社から退場させるためには就業規則が必要不可欠です。

問題行動を起こす社員を辞めさせたり、ルール違反をした社員を処分したりすることを懲戒処分と言いますが、懲戒処分をするためには就業規則に懲戒事由などが明記されている必要があります。

就業規則を整備していないということは、会社にとって懲戒処分をする権利を放棄しているのと同じことです。

その他にも適法に転勤や配置転換等の業務命令を発するためには就業規則に規定されている必要があります。

○ 就業規則で会社の利益を守る

会社の利益というと金銭的な利益等が思い浮かぶと思いますが、守るべき利益は他にもあります。

一つは情報です。マイナンバーを始めとした個人情報を適切に取り扱うことは会社に求められた責任です。

個人情報保護規程などを整備して直接的に個人情報を保護する他に、就業規則の懲戒規定で情報漏えいが懲戒対象になることを明記しておくことで社員に対する抑止力になります。

不慮の事故による情報漏えいは仕方がない部分もありますが、転職や独立による顧客情報の持ち出しや秘密事項の漏えいは防ぐ必要があります。

情報漏えいを防ぎ、会社の利益を守り、万が一情報が持ち出された際に不正をした相手に対抗すためには、秘密情報の定義、情報漏えいに対する罰則などは就業規則に明記しておく必要があるでしょう。

次に社員です。社員の心身の健康を守るためにも就業規則が重要な役割を果たします。労働時間や休日休暇などについて長時間労働にならないようなにルールを定めておくことが重要です。

最近では、メンタルヘルスに関する問題も増えています。メンタルヘルス不調になってしまった社員に対して休職制度で離職を防止したり、メンタルヘルス不調を引き起こすようなハラスメントを防止したりするためにも就業規則の役割は大きいと言えます。

次に残業代未払いなどの労務リスクとそれに伴う訴訟リスクから会社を守るということです。

残業代未払いを確信犯的にやっているのであれば訴えられても仕方ありませんが中には、時間外労働や割増賃金計算のルールを知らないために未払い残業代が蓄積してしまうケースもあります。

就業規則を整備し、その過程で会社に正しいルールを根付かせることでそのような労働問題の発生を未然に防ぐことができます。

未払い残業代の請求時効は3年(将来的には5年)です。3年分の残業代を請求されると数百万円になる可能性があります。

しかも、それが複数の社員から訴えがあると会社の存続に関わることにもなりかねません。

○ 「就業規則がない=ブラック企業」と思われることも

最近では、労働者数10人未満の会社でも就業規則を作成することは珍しくありません。

社労士法人GOALでも労働者数3~5人ほどの会社から就業規則の作成をご依頼いただくこともあり「ちゃんとした会社を作るためには就業規則は最低条件」と考える経営者が増えているように感じます。

一方で、就業規則がないばかりではなく入社時に労働条件通知書(労働契約書)も渡さない会社もあります。そのような会社は離職率も高く、今後、人材の確保が難しくなっていくでしょう。

労働者側から見ると「就業規則がない=ブラック企業」というイメージが強くなっています。

○ 助成金の申請ができないこともある

雇用関係助成金の申請をするとき、労働者数10人未満であっても就業規則の作成が必須になっているケースがあります。

助成金の申請をしたいからと実態に合わないものを適当に作成してしまっては、会社にとってリスクでしかありません。

一方で助成金というインセンティブ獲得を目指して労働環境整備に取り組む会社もあります。

┃モデル就業規則・テンプレート使用時の注意点

就業規則の作成を自社で行う際に活用できるのがモデル就業規則や就業規則のテンプレートです。

就業規則関連の書籍を購入することでダウンロードできるテンプレートや厚生労働省から公開されているモデル就業規則があります。

○ モデル就業規則・テンプレートはそのまま使わない

最初にモデル就業規則やテンプレートが最新の法令に対応しているかどうかを確認しましょう。厚生労働省のモデル就業規則をダウンロードするときは、必ず日付を確認して最新版を使用するようにしてください。

特にインターネット上からテンプレートをダウンロードするときは、いつの時点の法改正に対応したものかを確認し、作成日以降、法改正があった場合には、修正をした上で周知・施行する必要があります。

また、厚生労働省のモデル就業規則は、個々の会社の実態に対応できるように労働時間などが一部空欄(穴埋め方式)になっています。まちがっても空欄のまま周知・施行することのないようにしましょう。

労働基準関係法令に反しない範囲であれば、モデル就業規則やテンプレートをどのようにカスタマイズするかは会社の自由ですが、絶対的必要記載事項や相対的必要記載事項に抜け漏れのないように注意してください。

会社独自のルールに直していいところと修正してはいけないところや削除してはいけない条文などもあるので注意が必要です。

○ モデル就業規則・テンプレートの確認ポイント

基本的にモデル就業規則は厚生労働省、インターネット上の就業規則テンプレートなども社会保険労務士や弁護士などの専門家が監修しているものであれば明らかな法令違反はないものと思われます。

法改正に対応していない古いものを使うことのないよう、モデル就業規則であれば厚生労働省のwebサイトから最新版をダウンロードするようにしましょう。

*厚生労働省:モデル就業規則について

労働時間や休日、休暇(特別休暇など)、服務規定、懲戒規定などは、会社ごとに異なるルールが定められていることが多いので、自社にあった加筆修正が必要です。

加筆修正をするときに年次有給休暇が法定の日数を下回ったり、法定労働時間を超える時間を就業規則に定めたりするようような、法令違反をしないように注意しましょう。

モデル就業規則や就業規則のテンプレートを活用する際にも労働基準関係法令に違反していないか、最新の法改正に対応できているか、こうしたことを一つ一つ確認する作業は必要不可欠です。

┃就業規則と優先順位「就業規則の最低基準効」

就業規則の最低基準効とは、就業規則が適用される社員にとって就業規則に規定されていることが労働条件の最低基準になる、という意味です。

○ 就業規則と労働契約

個別の労働契約で就業規則に定める労働条件よりも低い労働条件を定めた場合、その労働契約は無効となります。

無効になった労働条件は、自動的に就業規則で規定したものに置き換わります。

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労働契約法第12条(就業規則違反の労働契約)
就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。
==
労働基準法第93条(労働契約との関係)
労働契約と就業規則との関係については、労働契約法(平成十九年法律第百二十八号)第十二条の定めるところによる。
==========

○ 就業規則と法律・労働協約

個別の労働契約よりも優先される就業規則ですが、その就業規則が労働基準関係法令などの法令に反する場合は、法令が優先されます。

さらに就業規則が労働組合との間で締結される労働協約に違反する場合は、労働協約の内容が優先されます。

【就業規則と優先順位】

○ 医療法人稲門会事件

就業規則を作成し、労働基準監督署への届出をして社員に周知していた場合でもその規則の中身が法令などに反していれば、その部分については無効となってしまいます。

就業規則の作成や修正、変更の全部または一部を自社で行っている場合は、法令などに違反していないかよくチェックするようにしてください。

「医療法人稲門会事件」は、事業主が作成した就業規則(育児介護休業規程)が育児介護休業法に違反しているとして無効と判断された事例です。

*関連記事
就業規則と優先順位┃法令に反する規程の効力とは (医療法人稲門会事件)

┃就業規則の記載事項

就業規則に記載する内容としては、「絶対的必要記載事項」、「相対的必要記載事項」、そしてその他の記載事項として「任意的記載事項」があります。

なお、絶対的必要記載事項と相対的必要記載事項については、規定を作成するべき内容として労働基準法第89条に定めがあります。

【絶対的必要記載事項と相対的必要記載事項】

○ 絶対的必要記載事項とは

絶対的必要記載事項とは、労働時間や賃金の決定方法、計算方法、支払い方法(締め日や支払い時期)、賃金改定に関すること、退職に関すること(解雇事由を含む)を規定します。

特に解雇事由は、就業規則に規定のない事由での解雇は認められないので具体的に明記することが重要です。

○ 相対的必要記載事項とは

相対的必要記載事項には、臨時の賃金(賞与など)や退職金、職業訓練、表彰制度など福利厚生的なことを規定します。

特に制裁に関する事項は忘れずに規定しましょう。制裁とは、懲戒処分のことを指しますが解雇と同じく就業規則に規定のない事由での懲戒処分は認められません。

○ 任意的記載事項

最後に任意的記載事項です。任意的記載事項は、法令や労働協約に反しない範囲内で任意にルールを決めることができます。就業規則に経営理念などを明記するケースも見られます。

┃就業規則をめぐるトラブル事例

就業規則を巡るトラブル事例として代表的なものは、就業規則と実態が合っていなかったり個別の労働契約書と相違があったり、就業規則を変更するときに従来のものよりも労働条件が下がってしまったりするケースです。

特に「労働条件の不利益変更」については注意が必要です。労働条件の変更については、過去にも様々な労務トラブルがあり多くの裁判が行われています。

そうした裁判事例の積み重ねによって労働契約法に規定が定められ、原則的に事業主と労働者の合意が無いと労働条件の変更はできないことになっています。

*関連記事
労働条件の不利益変更と注意点

┃就業規則は誰が作るべきか

就業規則の作成を検討するとき「誰が作るのか(誰に依頼するのか)」も重要な検討課題の一つです。

自社でひな型などをベースに作成するケース、または、社会保険労務士や弁護士といった外部の専門家に依頼するケースに分かれます。

コスト重視で作成をしたいのか、会社の成長のベースになるような就業規則に投資をするのかなど、会社の考え方によっても変わってきます。

外部の専門家に依頼をするとき、社会保険労務士や弁護士であれば誰でもいいかというとそんなことはありません。

社会保険労務士や弁護士であっても得意分野や専門分野があるので、就業規則作成の経験がどれくらいあるか等、よく見極めて依頼をしないと結局、社内で作成するものと差がないものになってしまう可能性もあります。

○ 就業規則作成を自社で行う場合

できるだけコストを抑さえて費用をかけずに作成をしたいのであれば、自社で就業規則作成を行うこともできます。

労働関係法令の専門知識があり自社のことは自分たちが一番よくわかっているから、ということであればそれでもよいでしょう。

しかし、専門知識や就業規則作成の経験が足りない人事や総務などの担当者が行うことで労務トラブルのリスクヘッジが不十分になってしまうこともあります。

また、不慣れな人が就業規則作成にかかわることで膨大な時間がかかってしまい、外部に依頼するよりもコスト(人件費)がかかってしまうことも考えられます。

○ 就業規則作成を弁護士に依頼する

弁護士は法律全般の専門家ですから、顧問弁護士や知り合いの弁護士がいる場合には相談してみるとよいでしょう。

しかし、医者がすべての診療科について治療できるわけではないのと同じように弁護士にも専門分野があります。

弁護士に依頼をするときには、その弁護士が労働法分野に力を入れているか、企業法務を専門としているかも確認をするようにしてください。

また、弁護士の中でも企業側か労働者側かで専門性も異なってきますので、会社のリスクヘッジを考えるのであれば企業側で活動している弁護士がよいでしょう。

○ 就業規則作成を社会保険労務士に依頼する

中小企業であれば社会保険労務士(社労士)に依頼をするケースが一番多いのではないでしょうか。

就業規則作成のベースとなる労働関係法令を専門分野とする国家資格者として社労士が就業規則にかかわることは非常に多いです。

社労士も弁護士と同じく得意分野が分かれます。障害年金請求などの年金関係を専門にしている社労士よりも人事労務管理を専門にしている社労士を選ぶ方がよいでしょう。

また、就業規則作成は、社労士の中でもメジャーな業務なので独立開業したばかりの社労士も「就業規則専門」などと名刺やホームページに記載しているケースもあります。

就業規則作成を依頼する際には、経験や実績、業界への理解があるかなど、ホームページなどでチェックすることが大切です。

○ その他の選択肢

社労士や弁護士以外の無資格コンサルタントや他士業が就業規則作成を請け負っているケースがあるので注意が必要です。

就業規則作成は、社会保険労務士法で定められた社労士の独占業務とされており、社労士(または社労士登録もしている弁護士)しか作成や届け出を業務として行うことはできません。

会社のルールを明確化し、コンプライアンス順守を目指して整備をする就業規則自体が、法令違反の元で作成されていては本末転倒です。

稀に顧問税理士や行政書士、司法書士などが就業規則作成をするケースもあると聞きますが、労働関係法令は非常に複雑で法改正も多い分野です。

専門外の士業に依頼をして、それが原因で労務トラブルに発展したとしても専門外の専門家は守ってくれません。

┃まとめ

今回は、就業規則作成のポイントや注意点、専門家に依頼するメリットについて解説してきました。

就業規則の重要性や就業規則作成が適切に行われなかった場合の労務リスクやデメリットなど、ご理解いただけたと思います。

就業規則は会社のルールを定め、会社発展のベースとなる大切なものですから、就業規則作成の際は、適切な信頼できる専門家に相談するようにしてください。

社会保険労務士GOALでは、就業規則の無料相談や就業規則診断もお受けしております。就業規則作成をご検討の際には、ぜひ一度、お問い合わせください。

この記事を書いた人

社会保険労務士法人GOALの代表。中小企業を中心に人事労務管理・就業規則の作成・助成金の申請サポートに対応しています。

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