【こんな固定残業代制度はやばい?!】違法と言われないための5つのルール
固定残業代制度を導入している会社はブラック企業、固定残業代制度はやばい、違法、などと言われあまり良いイメージを持たれていないのが現実です。
実際に正しく固定残業代制度を運用できていない会社が多いのも事実ですがすべての会社がブラック企業というわけではありません。
今回は、固定残業代制度を適切に運用していくための方法について解説していきます。
※「みなし残業制・定額残業制」と呼ばれることもありますが、ここでは「 固定残業代制度 」として表記します。
┃固定残業代の金額と固定残業時間の決め方
○固定残業代制度を導入する場合の手当の金額
固定残業代制度を導入するときにまず検討することとしては、固定残業代の金額や固定残業時間として見込む時間に関することです。
新たに取引が始まった会社の賃金台帳や給与明細を見ると「固定残業手当○○円」と表示されていることがあります。ここで「この固定残業手当は何時間分の残業代として支給されていますか?」と聞くと答えられない、よく考えていないケースは少なくありません。
「とりあえず(なんとなく)固定残業手当を付けた」、「知り合いの経営者から固定残業代制度にしておけば残業代を支払わなくていいと言われた」、という会社は最悪です。
そのようによく考えずに導入、運用されている固定残業代制度は無効と判断される可能性が高いです。
固定残業代の金額は適当、そうするともちろん何時間分の残業代として見込んでいるかも適当になるでしょう。ひどいケースだと「固定残業手当2万円で50時間分です」等、何の根拠もなく決めてしまっているケースもあります。
○固定残業手当の考え方
例えば、「年間休日日数120日(土日祝日休み)」、「一日の所定労働時間8時間」とすると、1箇月あたりの平均的な労働時間は約163時間になります。
この場合、月給30万円の社員であれば50時間分の残業代は約115,000円、そうすると月に約95,000円程度の未払い残業代が発生していることになるのです。
これが、固定残業代の金額・固定残業時間をテキトーに決めていた場合のリスクです。
しかも、残業代は最大で3年間(将来的には5年間)遡って請求することができますから、抱えているリスクの大きさを実感できるのではないでしょうか。
固定残業代制度だから実際に何時間の残業があったかは関係ないのでは?と質問されることもありますがそうではありません。
固定残業代は、労働基準法で定める原則通りの計算方法で計算した金額を下回らないようにする必要があるのです。
┃固定残業代制度を導入するときの労働契約書と就業規則
○無効と判断される可能性がある固定残業代制度
固定残業代制度が有効と判断されるためには、「対価性」と「明確区分性」という二つの要件を満たす必要があります。
固定残業代制度における対価性とは、その手当が残業代(時間外・休日・深夜労働などの対価)として支払われているかどうか、ということです。
その手当が残業代として支払われることを社員に誤解なく、間違いなく伝えるためにもわかりやすい名称にして、手当の定義を就業規則(賃金規程)に明記して、雇い入れ時には、労働契約書でしっかりと説明して同意を得るようにしましょう。
出張手当・・・
出張手当は、遠方に出向いて業務を行う際に支払う手当である。ただし、この手当は、時間外労働割増賃金の一部として支払う。
このように別の業務の対価として支払うような意味合いになっていながらも残業代として支払うような定義付けをしている会社もありますが、こうした方法は無効となる可能性があります。
○有効と判断される可能性が高い固定残業代制度
固定残業代として見込むのが何時間なのか、その見込み時間を超えたらどうするのか(差額精算)、そして、手当の名称も固定残業手当として支払われることがわかるようにすると有効と判断される可能性が高まります。
固定残業手当・・・
固定残業手当は、10時間分の時間外勤務手当に応じた対価として支給する。なお、固定残業手当が支給されている社員は、固定残業手当の支給額を越えた時間外勤務があった場合に超えた分に関して、別途時間外勤務手当を支給する。
┃固定残業代制度を導入するときの賃金体系設計方法
○固定残業代制度の導入方法①:手当型
固定残業代制度において対価性と合わせて重要な要件になるのが明確区分性です。固定残業代制度の明確区分性とは、基本給などのいわゆる基準内賃金と残業代として支払われる基準外賃金・残業代相当部分がはっきりと、明確に分かれているいるかどうか、ということです。
手当型の場合、その手当の金額が適正かどうかは別として残業代相当部分が基本給などとは別で支給されていますから、明確区分性においては問題になりにくいと言えます。
○固定残業代制度の導入方法②:組込型
一方で、組込型については、基本給などの基準内賃金と基準外賃金が明確に分かれていないケースがあります。そうすると固定残業代として支払われているのがいくらで、何時間分の残業代相当分なのかがわかりにくくなります。
労働契約書や就業規則(賃金規程)で「基本給には、●時間分の時間外割増賃金を含むものとする」といった規定があれば良いですが「●時間分」といった記載がなかったり、雇い入れ時に口頭で説明したりすると後々、言った言わないで未払い残業代請求などのトラブルに発展することがあります。
給与明細や労働契約書では「基本給」の表記しかなく雇い入れ時に「うちは毎日1時間くらいの残業があるから基本給もそれを加味しての金額になっているから」などと説明したとしても、その程度の曖昧な説明では後々、労務トラブルに発展する可能性が高いと言えます。
┃固定残業時間を超えたらどうするか
○固定残業時間を超えた残業があった場合
固定残業代制度が有効と認められるための要件として対価性の要件と明確区分性の要件がありました。この2つに関しては、数々の裁判例を見ても共通して判断基準とされており争いはないと考えられています。
その中でもう一つ、差額精算の要件も必要だという意見も一部にあります。これに関しては、要件の一つとして考えるかどうかは意見が分かれているようですが、要件の一つとして考えるかどうかに関わらず、固定残業代として支払った金額を超えた残業が発生したらその差額を支払うのは会社として当然のことです。
固定残業代と実際の残業代の差額を支払っていない(清算していない)のであればそれは残業代の未払いということになります。
○差額精算をしないからブラック企業と言われる
固定残業代制度=ブラック企業というイメージを持たれる原因は、この差額精算が確実に行われていない現状も影響している考えられます。
固定残業代として支払った時間分に満たなくても定額の手当を支払う、固定残業代相当分を超えた残業が発生したらさらにそこに上乗せして残業代を支払う(差額精算をする)というようにしていれば、社員にとってはなにも不利益は生じないはずです。
固定残業代制度を導入するのであれば、実際の残業代と固定残業代に差額が発生したら差額を清算する、というのは会社として当たり前のこととして、就業規則(賃金規程)に差額精算のことも明記しておくとよいでしょう。
┃固定残業代制度と労働時間・支給の計算
○固定残業代制度を導入した場合でもタイムカードは必要
固定残業代制度を導入したいという経営者が導入理由として挙げることの一つとして「労働時間管理が面倒(大変)だから」というものがありますが、この導入理由もはっきり言って間違いです。
固定残業代としてあらかじめ支払った時間数を超えた残業が発生した場合、会社は実際の残業に応じた残業代を支払う必要があります(差額精算)。そうしないと残業代の未払いが発生することになります。
差額精算を確実に実施するためには、実際の残業時間が何時間かわからないといけませんから、固定残業代制度を導入したとしてもタイムカード等を利用した労働時間管理は必須なのです。
○固定残業代制度で労務管理はラクになるのか
固定残業代制度を導入したとしても差額精算が必要になるケースもあるため労働時間管理が必要なことは既にお伝えしました。
そうすると、固定残業代制度を導入して人件費の変動を抑える、というメリットはあったとしても決して労働時間管理がラクになる、労働時間管理をラクにするための制度ではないということがおわかりいただけるのではないでしょうか。
労働基準法で定められた時間外労働の上限規制を順守するという意味でも労働時間管理は必要です。
このように考えると、固定残業代制度を導入すれば労働時間管理を行わなくてもいい、固定残業代制度を導入すれば労務管理がラクになる、という認識が間違っていることに気付くことができるはずです。
┃まとめ
今回は、固定残業代制度を適切に運用していくための方法について解説しました。
固定残業代制度について、「今までの考え方やイメージ通りだった」という方は、正しく運用されてきたのだと思いますのでこのまま、適切な運用を続けてください。
もし、「自分の考えていた固定残業代制度と違った」という場合には、制度の導入や運用方法を見直す必要があるかもしれません。