【最低賃金の引き上げ】2024(令和6)年の改定額と計算方法
地域別最低賃金は、毎年9月頃に各都道府県労働局から公表され、10月以降に順次施行されていきます。
会社によっては、賃金テーブルの見直しや賃金改定が必要になるなど人事労務管理に与える影響は少なくありません。
今回は、最低賃金制度の概要と2024(令和6)年10月からの改定額、最低賃金をクリアしているかの計算(算出)方法について解説していきます。
┃最低賃金とは
○最低賃金とは
最低賃金とは、国が最低賃金法に基づき賃金の最低額を定め、使用者は雇用する労働者に対してその最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない、とする制度です。
仮に個別の労働契約書で最低賃金額よりも低い金額で労働契約を締結したとしても、その部分は無効となり最低賃金額で労働契約を締結したものとみなされます。
会社が社員に対して、故意または過失(最低賃金の改定を知らなかった等)により、最低賃金額に満たない金額の賃金しか支払っていなかった場合、社員はその差額を請求する権利があります。
○地域別最低賃金と特定最低賃金
最低賃金は2種類あります。それが「地域別最低賃金」と「特定(産業別)最低賃金」です。地域別最低賃金とは、都道府県単位で定められた最低賃金のことです。特定(産業別)最低賃金とは、特定の産業ごとに定められた最低賃金のことです。
今回は、主に地域別最低賃金のことについて解説していきます。
○最低賃金はいつ、どのように決められるのか
最低賃金は、中央最低賃金審議会と地方最低賃金審議会の調査・審議・議論等の手続きを経た後、都道府県労働局長が決定します。最低賃金審議会は、公益代表、労働者代表、使用者代表で構成されています。
都道府県労働局長によるその年度の最低賃金額の決定は、例年9月初旬から中旬頃までに行われ、各都道府県労働局のホームページや厚生労働省の最低賃金特設サイト上で公表されます。
○最低賃金が一番高いのは・・・
最低賃金が一番高いのは「東京都」で、10月以降の最低賃金額は「1,163円」になります。
○最低賃金が一番低いのは・・・
最低賃金が一番低いのは「秋田県」で、10月以降の最低賃金額は「951円」になります。
※岩手、山形、島根、徳島、愛媛、佐賀、長崎に関しては令和6年9月9日現在未決定です。
○最低賃金と罰則
地域別最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、最低賃金法違反によるに罰則(50万円以下の罰金)が定められています。また、特定(産業別)最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、労働基準法違反による罰則(30万円以下の罰金)が定められています。
┃地域ごとの最低賃金改定額
○最低賃金改定額の全国トップ3
今年度、地域別最低賃金額の全国トップ3は以下の通りです。
都道府県 | 最低賃金額 |
東京都 | 1,163円 |
神奈川県 | 1,162円 |
大阪府 | 1,114円 |
○最低賃金改定額の全国ワースト3
最低賃金額が低い地域(ワースト3)は、以下の通りです。
都道府県 | 最低賃金額 |
秋田県 | 951円 |
沖縄県 宮崎県 熊本県 高知県 | 952円 |
※岩手、山形、島根、徳島、愛媛、佐賀、長崎に関しては令和6年9月9日現在未決定です。
以上の他、各地域の最低賃金については、厚生労働省の最低賃金特設サイトや各都道府県労働局のホームページをご覧ください。
┃最低賃金の計算方法
○最低賃金をクリアしているかの計算方法
最低賃金額は、時間単価で表示されますが最低賃金が影響するのは時給制のパートタイマーやアルバイトだけではありません。月給制や年俸制、日給制で賃金が支払われる社員にも影響が及びます。
・時間給制の場合
時間給≧最低賃金額(時間額)
・日給制の場合
日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
ただし、日額が定められている特定(産業別)最低賃金が適用される場合には、
日給≧最低賃金額(日額)
・月給制の場合
月給÷1箇月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
・フルコミッション制の場合など
フルコミッションの賃金÷賃金計算期間の総労働時間≧最低賃金額(時間額)
○最低賃金と手当の関係
最低賃金をクリアしているかどうかを確認するとき、次の賃金(手当)は参入しません。
- (1) 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
- (2) 1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
- (3) 時間外割増賃金
- (4) 法定休日割増賃金
- (5) 深夜割増賃金
- (6) 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当
○最低賃金はパートタイマーやアルバイトの他、正社員にも影響する
最低賃金額の改定に伴い、時給制で賃金が支払われるパートタイマーやアルバイトの時間単価を見直す会社は多いです。しかし、そこで最低賃金額をクリアしなくなる社員だけ賃金の見直しをすると社内全体で不均衡が起こってしまうことがあります。
例えば、月給制の正社員について基本給を最低賃金とほぼ同額としているような場合は、月額基本給の見直しも必要になるでしょう。それと合わせて、固定残業手当を支給している場合には、基本給の見直しと同時に固定残業手当の金額の改定も必要になります。
さらに、今まで時間単価を経験や年数、職能などにより昇給させてきた場合でも最低賃金額の引き上げによりその昇給分が追い付かれることも想定されます。そうなっては不公平ですから、最低賃金に満たない社員だけを昇給させるのではなく、会社全体の賃金テーブル全体を改定するベースアップが必要になることもあります。
パートタイマーやアルバイトと社員の逆転現象、ベテランスタッフと新人スタッフの不均衡が起こらないようにするためには、向こう数年間の最低賃金額改定推移を予想して、賃金テーブルや賃金制度を設計することが重要です。
┃最低賃金の今後の見通し
2023年8月31日に開催された第21回「新しい資本主義実現会議」の中で政府は「最低賃金については2030年代半ばまでに全国加重平均1,500円を目指す」と強調しました。仮に2035年に全国平均1,500円を目指すとすれば、来年以降の約10年間で一年あたり平均33円から35円程度の引き上げが見込まれます。
2023(令和5)年度の最低賃金引き上げ額43円(全国平均)は、全国の事業主に大きな衝撃を与えましたが、2024(令和6)年度の引き上げ額はそれを超えるものとなり、今後も全国平均50円程度の上昇が見込まれます。また、地域別最低賃金の地域間の格差是正のために首都圏よりも地方の方が上昇率が高くなる傾向もあります。
【2035年度までの最低賃金上昇予想】
┃まとめ
今回は、最低賃金制度の概要と2024(令和6)年10月からの改定額、最低賃金をクリアしているかの計算(算出)方法について解説しました。
弊社独自の予想として「2035年度までの最低賃金上昇予想」も示しましたがこれは、非現実的なものではないと考えます。
今回の最低賃金額引き上げに対応するだけでなく、長期的な視点を持って賃金制度の見直しに着手していく、また、賃金上昇に負けないよう生産性向上を図るなどの対応が必要になっていくでしょう。