パワハラとは?会社がすべき防止義務について社労士が解説!

企業にとって、パワハラやセクハラなどに代表されるハラスメント防止対策が重要な課題になっています。2025年現在は、パワーハラスメント(いわゆるパワハラ)の防止対策が法律で新たに会社に義務付けられています。

社内全体で、パワハラの有無や職場環境を見直すきっかけをつくといいでしょう。特に、昨今はパワハラを苦に従業員が退職代行の利用をするケースもあります。パワハラが横行する会社では、退職者が増えてしまうため、事業活動において大きなマイナスとなってしまいます。

具体的などんな言動がパワハラに該当するのかを知っておく必要があります。また、法律が規定するパワハラの防止義務についても把握しておきましょう。

例えば、事業主として次のことをすぐに実施する必要があります。

  • パワハラ防止措置を明記した就業規則の改定
  • パワハラ防止のための従業員研修(定期的に実施)

法律上、義務化された対応をとらずに社内でパワハラが発生した場合には、被害者からの損害賠償請求や行政指導等を受ける労務リスクが発生します。

今回は、社内の環境整備をサポートする社会保険労務士法人GOALがパワハラについて解説します。パワハラ対策の方法についてお悩みの事業者様はお気軽にご相談ください。

目次

パワハラ行為の定義

パワハラ防止法の指針(ガイドライン)では、パワハラを次の6つの類型に分けて説明がされています。

パワハラの行為類型具体例
身体的攻撃・殴打、足蹴りを行う
・相手に物を投げつける
精神的攻撃・人格を否定するような言動
・必要以上に長時間の厳しい叱責
・他の労働者がいる前で大声で威圧的な𠮟責
・能力を否定し罵倒する内容のメールを他の労働者も含めて送る
人間関係からの切り離し・仕事から外し長時間にわたり別室に隔離する
・無視をして孤立させる
過大な要求・長時間、過酷な環境下で勤務に直接関係ない業務を命じる
・新入社員に十分な研修をせず、到底対応不可能な業務を目標を課し、業務目標を達成できなかったことについて厳しく𠮟責する
・業務とは直接関係のない私的な雑用を強制的に行わせる
過小な要求・管理職に対して退職させる目的で誰でもできる業務を行わせる
・嫌がらせのために仕事を与えない
個の侵害・職場外でも監視したり、私的に写真撮影をしたりする
・プライベートなことを本人の了承を得ずに暴露する

また、職場において行われる行為のうち、下記の3つを全て満たすものがパワハラに該当する可能性があります。

  • 優越的な関係を背景とした言動であって
  • 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
  • 労働者の就業環境が害されるもの

パワハラと判断される具体的内容

上記の3つの類型にもとづいて、パワハラと判断される具体的な内容は、次のようなものがあります。

優越的な関係を背景とした言動上司と部下等、その言動を受ける側の者が抵抗や拒絶をすることができない関係性において行われるもの。
業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動通常、考えられる範囲を超えて過度な要求や細かい要求をする等、明らかに一般的に考えられる範囲を超える言動。
労働者の就業環境が害されるその言動により、労働者が身体的または、精神的に苦痛を与えられたために就業環境が害され、通常の仕事ができないような状態にされること。

以上のようなものがパワハラと判断されることになりますが、実際にパワハラに該当するかの判断は、個別の事案ごとに判断されることになります。

パワハラ防止対策の義務化

2022年4月に改正労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)が全面施行されました。

中小企業を含めたすべての事業主に対してパワハラ防止措置が義務付けられることになりました。大企業は2020年6月に施行済みです。

パワハラ防止法とは

パワハラ防止法とは、改正労働施策総合推進法のことで、パワハラ防止措置を事業主に義務付けるとともにパワハラの定義が明記されています。

第三十条の二 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

パワハラ防止法

ここで明記されている「①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動」であって「②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」によりその「③雇用する労働者の就業環境が害されること」をパワハラと言います。

さらにパワハラ防止法の指針(ガイドライン)では、具体的にどのようなことがパワハラに当たるかが示されています。

職場において行われる優越的な関係を背景とした言動

代表的なものは上司から部下に対するものですが、これに限られません。同僚や部下からの言動であっても業務上の経験や知識が豊富な人からそうでないもう一方への言動はパワハラになり得ます。

例えば、パソコン操作が苦手な上司から教えて欲しいと言われたにもかかわらず、部下がパソコン操作を教えないというケースもあります。

業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの

多少厳しかったとしても業務上必要な注意・指導が禁止されるものではありませんが、注意や指導の範囲を超えて人格を否定するような言動は、パワハラになり得ます。

雇用する労働者の就業環境が害されること

身体的または精神的苦痛を与えられ正常な業務に支障を及ぼすことを言います。

例えば、パワハラが原因でメンタルヘルス不調に陥り、休業を余儀なくされたりパフォーマンスが落ちたりすることなどが考えられます。

パワハラ防止措置の義務化に伴う事業主の責務

パワハラで訴えられないためには、普段からの取り組みが大切です。研修をしたり就業規則に明記したりということももちろんですが、社内のコミュニケーションを円滑にすることも重要です。

パワハラにより訴訟トラブルに発展した場合、加害者となった社員が責任を問われることになりますが、会社としても事業主の責任を問われることになります。

責任の内容としては、民事上の責任や刑事上の責任、社会的な責任が考えられます。

次の事項に努めることが事業主の責務として、労働施策総合推進法の改正により明確化されました。

事業主の責務具体例
ハラスメント問題に対する労働者の関心と理解を深める職場におけるパワーハラスメントを行ってはならないこと等これに起因する問題(以下「ハラスメント問題」という。)に対する労働者の関心と理解を深めること
研修の実施等の配慮その雇用する労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう研修を実施する等、必要な配慮を行うこと
労働者に対する注意等事業主自身(法人の場合はその役員)がハラスメント問題に関する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うこと。なお、ここでいう労働者とは、取引先等の他の事業主が雇用する労働者や、求職者も含まれます。

パワハラ防止のために講じるべき措置

事業主は、パワハラ防止のために次の事項を必ず講じる義務があります。

講じるべき措置具体例
事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発パワハラ防止に関する方針を明確化するために就業規則等にその旨を明記し、労働者に周知・啓発する。
相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備相談窓口を設置し、労働者に周知する。
職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応パワハラに関する事実関係の報告・連絡や行為者に対する措置、再発防止等の体制を構築する。
その他相談者や行為者等のプライバシーに配慮した対応を講じられるような体制を構築し、労働者に周知する。

また、相談したこと等を理由として、解雇その他不利益取り扱いをされない旨を就業規則等に定め、労働者に周知・啓発しなければなりません。

パワハラ防止には就業規則の改定と社内研修が重要

万が一、社内でパワハラが発生した場合には、迅速に社内調査を実施して加害者と加害行為が特定できた場合には就業規則に基づいて処分を実施することになります。

こうした懲戒処分を適切に実施するためにもパワハラ防止対策の一環として、就業規則の改定が必要になるでしょう。

さらに、パワハラの定義やパワハラと指導の境界線などについては、日ごろから繰り返し社内研修などを実施して意識を高めていく必要があります。

パワハラを巡る職場のトラブルは増加している

各都道府県労働局に設けられている総合労働相談センターへの相談件数を見てみると「いじめ・嫌がらせ」というハラスメントに関する相談が約8万件もあり、9年連続トップになっています。

厚生労働省から公表されている令和2年度の結果では、下記のように「いじめ・嫌がらせ」が2位以下を大きく引き離しての1位になっています。

  • いじめ・嫌がらせ(79,190件)
  • 自己都合退職に関すること(39,498件)
  • 解雇に関すること(37,826件)

行政機関への相談は、労働者本人の他、その家族からも寄せられるケースもあります。

パワハラが職場に及ぼす影響

パワハラが会社に及ぼす影響は、その被害者の社員が退職したり休業したりということだけにとどまりません。

パワハラ防止対策を怠ったり、万が一パワハラが発生してしまった後の対応を間違えたりするとその影響は、会社全体に広がります。

離職率の増加

パワハラ上司がいたり、社員がパワハラ被害を訴えているにも関わらず会社の対応が悪かったりすると会社に対する信頼が失われ、離職率の増加につながります。

また、訴訟トラブルにまで発展し、マスコミに報道されるようなことになれば、ブラック企業の烙印を押されその後の採用活動にも悪影響を及ぼす可能性があります。

生産性の低下

パワハラ被害を受けた社員が身体的・精神的に不調に陥ればその社員のモチベーションや生産性が落ちることが予想されます。

さらに、そうしたモチベーションの低下は周囲の社員に伝わってしまうこともあるでしょう。

パワハラと指導の境界線

パワハラ防止対策を検討していく上で一番の課題となるのがハラスメントと指導の境界線です。

さらに、その基準は絶対的なものではなく社員同士の関係性や周囲の環境によってもそれがパワハラになったりならなかったりすることもあり得ます。

しごき?根性?昔のやり方は通用しない

比較的年配の上司で「自分は大丈夫」、「自分たちの時代はこうだった」ということを言うような人がパワハラの加害者になる可能性があります。

このような人達に対してパワハラ防止研修などを行ったとしても「自分には関係ない」と考えており研修を聞いていないことも少なくありません。

こうした人が管理職になっていたりすると会社にとってはリスクになり得るので、個別に注意・指導をするなどの対策をした方が良いでしょう。

なにを言うかより誰が言うか

人格を否定するような言動や直接的な暴力、暴言で誰の目からの見てもパワハラになることが明らかなものもあります。

例えば次のようなケースはどうでしょう。

取引先のアポイント時間を間違えて部下が遅刻したときに、同行した上司が、「何やってんだ!」と叱った。

この程度であれば、指導の範囲内と考えることができますが普段からこの上司がことあるごとに強い叱責や大きな声で罵倒するような言動があったとしたら、パワハラにもなり得ます。

このケースでも普段からの上司と部下の信頼関係やコミュニケーションがとれているかで判断が異なってきます。

疑われるようなことはしない

職場の業務を円滑に進めるために管理職には一定の権限が与えられています。その中で、業務上の指示や注意なども認められた権限の一つです。

厳しい指導であったとしてもそれが「業務上の適正な範囲」と認められる限り、パワハラには当たりません。

ハラスメントがテーマになっている裁判事例などを見ていると、下記のような背景があるように感じます。

  • 厳しい指導の末に辞めさせたい
  • 業務上の指導ではなく個人的な感情で当たる
  • いじめ、嫌がらせをする

裁判になれば公の場で自分の言動が公開されることになります。

公の場で公開されたとき、それに対して「こういう理由と意図をもってやった」と自信を持って言えるかどうかも判断基準として持っておくと良いでしょう。

この記事を書いた人

社会保険労務士法人GOALの代表。中小企業を中心に人事労務管理・就業規則の作成支援を行っております。働きやすい職場環境づくりのサポートをします。

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