就業規則とは?作成方法や注意点について社労士が解説!

「就業規則」と聞くと、「なんだか難しそう」「校則のようで堅苦しい」と感じる方も多いかもしれません。

しかし実際には、法律や校則のように社員を縛るだけのルールではありません。就業規則は、会社と社員の考えを共有し、信頼関係を築くための「土台」になるものです。

会社として大切にしたい考え方や、社員に守ってほしいルールを明文化しておくことで、トラブルの予防や、組織としての一体感づくりにもつながります。

「まだうちには早いかな」と感じている方も、「そろそろ必要かも」と思っている方も、まずは就業規則の基本から確認してみましょう。

GOALグループは、社会保険労務士法人と行政書士法人を含む総合士業事務所です。
就業規則に関するご相談を承っております。

お気軽にお問い合わせください。

今回は、就業規則作成のポイントや注意点、専門家に依頼するメリットについて解説します。

社会保険労務士法人GOALでは、就業規則関与実績200件を超える経験を活かし、就業規則の作成と導入をサポートしていますのでお気軽にお問い合わせください。

目次

就業規則とは

就業規則は、会社にとってのルールブックともいえる存在です。

スポーツにルールがあるように、会社にも秩序を保つための決まりが必要です。就業規則はその役割を果たします。

就業規則には二つの側面があります。

  • 会社を問題社員から守るための仕組み
  • 社員が安心して働ける環境を整えるための仕組み

労働基準法では、常時10人以上の労働者を雇っている事業所には、就業規則の作成と労働基準監督署への届け出が義務付けられています。

この「労働者」には、正社員に限らず、パートやアルバイトなども含まれます。雇用形態を問わず10人以上いれば届け出の対象になります。

一方で、常時10人未満の事業所には、法律上の作成義務はありません。

しかし、会社の方針を明確に伝えたり、後々のトラブルを防止したりする意味でも、社員を雇用する際には就業規則を作っておくことが強く推奨されます。

就業規則を作成する際に最も重要なのは、「なぜこの就業規則を作るのか」という目的意識を持つことです。

目的のないまま作られた就業規則では、内容が形骸化し、実際の運用で十分に機能しないおそれがあります。ルールの背景にある会社の考え方をしっかりと反映させることが、実効性のある就業規則を作る第一歩です。

まずは、就業規則の側面について、それぞれ詳しく見ていきましょう。

会社を問題社員から守るための仕組み

会社には、さまざまな考え方や価値観を持つ社員が集まっています。そうした多様な人たちが同じ方向を向いて働くためには、会社としての方針や考えを共有することが欠かせません。その指針となるのが就業規則です。

就業規則は、会社運営を円滑に進めるためのルールであると同時に、まれに現れる“問題社員”への対策としても効果を発揮します。

多くの社員が真面目に勤務していても、一部にはトラブルを起こすような社員が出てくることもあります。

そのような場合でも、就業規則がしっかり整備されていれば、懲戒処分や解雇といった適切な対応が可能です。逆に言えば、就業規則が無ければ、会社としての正当な対処が難しくなってしまうのです。

こうした理由からも、就業規則は労使間のトラブルを未然に防ぎ、会社と社員が安心して働ける環境を整えるために欠かせない存在といえます。

社員が安心して働ける環境を整えるための仕組み

会社のルールがあいまいだったり、経営者や上司が場当たり的な対応を繰り返していたりすると、社員のモチベーションは次第に低下していきます。

就業規則は、校則のように社員を縛るためのものではありません。会社と社員が互いにルールを守り、安心して気持ちよく働くための土台となるものです。

あらかじめ就業規則でルールを明確にしておけば、あいまいさからくる迷いや混乱を防ぐことができます。経営者も社員も本来の業務に集中できるでしょう。

また、対応に一貫性が生まれることで、社員が感じる不公平感や不満も解消されます。結果として離職率の低下や定着率の向上にもつながるでしょう。

就業規則作成の義務と目的

就業規則作成の義務と目的を理解しておきましょう。

就業規則作成の義務

常時10人以上の労働者を雇っている事業主には、就業規則を作成し、労働基準監督署へ届け出る義務があります。この義務を怠ると、30万円以下の罰金が科されることになります。

ここでいう「労働者」とは、正社員はもちろん、パートやアルバイトなど雇用形態を問わず、会社に雇われているすべての人を指します。

一方、労働者が常時10人未満の会社には、法的に就業規則の作成や届け出の義務はありません。

しかし、社員との関係をスムーズに保ち、労務トラブルを未然に防ぐためにも、たとえ義務がなくても就業規則は整備しておくことが望ましいと言えます。

就業規則は、会社と社員との間の約束ごとを明文化するものであり、いわば契約書のような役割を果たします。大切な取引に契約書が欠かせないのと同様に、社員が1人でもいるなら就業規則は作っておくべきでしょう。

就業規則作成の目的

就業規則を作成する際に、まず考えるべきなのは「何のために作るのか」という目的です。この視点が欠けていると、就業規則を形だけ作っても意味がありません。

特によくないのは、「助成金を申請するために、ひな型の就業規則をとりあえず作った」というケースです。

一時的に助成金が受け取れたとしても、会社の実態に合っていない就業規則は、後々トラブルの原因となります。結果的に会社の首を絞めてしまうことになるでしょう。

インターネット上には、無料でダウンロードできるひな型の就業規則もありますが、それらが最新の法改正に対応しているとは限りません。

とくに近年の働き方改革や業界ごとの労働法令、社会的課題に十分対応できていないケースも多く見られます。

就業規則を単なる書類としてではなく、会社のルールを明確にし、事業の成長につなげるためのツールと考えるなら、法令の知識や作成ノウハウが欠かせません。

さらに、就業規則は一度作って終わりではありません。

法律や社会情勢の変化に応じて見直していく必要があります。社内に専門的な知識を持つ人材がいない場合は、外部の専門家と連携することも重要な選択肢です。

就業規則がない場合のリスクやデメリット

会社に就業規則がないと、どのようなリスクやデメリットがあるのでしょうか。リスク面から考えていくと雇用する労働者数に関わらず整備することが大切なことがわかります。

就業規則は、会社にとってのルールブックです。秩序を守るためには、明確なルールが欠かせません。就業規則を定めることで、会社は社員に対して社内のルールや規律を正式に示すことができ、組織としての秩序を維持しやすくなります。

もちろん、社員の自主性を重視する方針の会社もあるでしょう。しかし、複数の人が集まって働く組織である以上、最低限のルールは必要です。

もしルールが存在せず、経営者や一部の幹部の判断やその場の雰囲気で対応が変わるような状態が続けば、社員の間には不公平感が生まれます。

就業規則の不在は、こうした社内トラブルの温床になりかねないのです。

具体的に、就業規則がない場合のリスクやデメリットについて見ていきましょう。

  • 会社の秩序を守れなくなる
  • 情報漏えいリスク
  • 社員の健康リスク
  • 残業代未払いなどの労務リスク
  • 「就業規則がない=ブラック企業」と思われることも
  • 助成金の申請ができないこともある

会社の秩序を守れなくなる

どれだけ慎重に面接を重ねたり、適性検査を行ったりしても、問題行動を起こす社員が入社してしまう可能性を完全にゼロにすることはできません。

そうした社員に適切に対応し、必要であれば会社から退職してもらうには、就業規則の存在が欠かせません。

社員を辞めさせたり、ルール違反に対して処分を下したりする行為は「懲戒処分」と呼ばれます。これを正当に行うためには、就業規則に懲戒の理由や処分の内容が明記されていなければなりません。

就業規則が整備されていない状態は、会社が懲戒処分の権利を放棄しているのと同じです。

また、社員に対して転勤や配置転換などの業務命令を出す際も、これらが就業規則に定められていないと、適法に命令を出すことができないリスクがあります。就業規則がないことで、会社の秩序を守る手段を失ってしまう恐れがあります。

情報漏えいリスク

情報漏えいリスクを防ぐことも就業規則の重要なポイントです。

マイナンバーをはじめとする個人情報を適切に取り扱うことは、会社に課せられた重要な責任です。

そのためには、個人情報保護規程を整備するだけでなく、就業規則にも情報漏えいに関する規定を設けます。特に、懲戒規定の中に「情報漏えいは懲戒の対象になる」と明記しておくことで、社員への強い抑止力となるでしょう。

不慮の事故による情報漏えいは完全には防げない面もありますが、転職や独立の際に顧客情報を持ち出すような行為や、社内の秘密事項を外部に漏らす行為は、事前にしっかりと防止策を講じるべきです。

情報漏えいから会社の利益を守るためには、秘密情報の定義や漏えいに対する罰則などを就業規則に明確に定めておくことが不可欠です。

万が一、情報が持ち出された場合でも、不正を行った相手に法的に対応できるよう備えておきましょう

社員の健康リスク

社員の心身の健康を守る点においても、就業規則は大切な役割を担っています。特に、労働時間や休日・休暇について、長時間労働を防ぐためのルールを明確に定めておくことがポイントです。

近年では、メンタルヘルスに関する問題も増えており、就業規則の整備がその対策としても注目されています。

たとえば、心の不調を抱えた社員に対しては、休職制度を活用することで離職を防ぐことができます。また、メンタルヘルス不調の原因になりやすいハラスメント行為を未然に防ぐためにも、就業規則によるルールづくりが効果的です。

社員の健康を守るためにも、就業規則を整備しておくことは欠かせません。

残業代未払いなどの労務リスク

残業代の未払いなど、労務に関する問題は会社にとって大きなリスクとなります。

確信犯的に未払いを続けていれば訴訟を起こされても仕方ありませんが、実際には「時間外労働のルールを知らなかった」「割増賃金の計算方法がわからなかった」といった理由で、知らず知らずのうちに未払いが蓄積してしまうケースも少なくありません。

こうしたトラブルを防ぐには、就業規則を整備し、正しいルールを会社に根付かせることが重要です。

現在、未払い残業代の請求時効は3年(将来的には5年)に延長されています。過去3年分を請求されれば、1人あたりで数百万円にのぼることもあります。

さらに、複数の社員から同時に請求されれば、会社の存続に関わる深刻な事態に発展する恐れもあるでしょう。

「就業規則がない=ブラック企業」と思われることも

最近では、従業員が10人未満の会社でも就業規則を作成するのが当たり前になりつつあります。

社労士法人GOALにも、3〜5人ほどの小規模な企業から就業規則の作成依頼をいただくことがあります。「会社をきちんと整えるためには、まず就業規則が必要だ」と考える経営者が増えていると感じます。

一方で、就業規則がないだけでなく、入社時に労働条件通知書(労働契約書)すら渡さない企業も存在します。そのような会社では離職率が高く、人材の確保も今後ますます難しくなっていくでしょう。

労働者の立場から見れば、「就業規則がない会社=ブラック企業」という印象を持たれやすくなっています。求人や採用においてもネガティブに働いてしまうでしょう。

企業として信頼を得るためにも、就業規則の整備は欠かせません。

助成金の申請ができないこともある

雇用関係助成金を申請する際には、従業員が10人未満であっても就業規則の作成が要件とされることがあります。

このとき、助成金を受け取りたい一心で、実態に合わない就業規則を形だけで作成してしまうと、かえって会社にとってリスクとなります。

一方で、助成金というインセンティブをきっかけに、労働環境の整備に前向きに取り組む企業も少なくありません。こうした取り組みが、会社の健全な成長につながることがあるでしょう。

就業規則に規定する内容

就業規則の記載事項

【絶対的必要記載事項と相対的必要記載事項】

就業規則には、必ず記載しなければならない「絶対的必要記載事項」、定めた場合には記載が必要となる「相対的必要記載事項」、そして会社の判断で自由に記載できる「任意的記載事項」の3つの分類があります。

  • 絶対的必要記載事項
  • 相対的必要記載事項
  • 任意的記載事項

特に、「絶対的必要記載事項」と「相対的必要記載事項」については、労働基準法第89条で定められており、就業規則を作成するうえでの基本的な項目とされています。

絶対的必要記載事項

絶対的必要記載事項とは、就業規則に必ず記載しなければならない項目のことです。

内容としては、労働時間や賃金の決定・計算・支払いの方法(締め日や支払日)、賃金の改定、退職に関する事項(解雇事由を含む)などが含まれます。

特に解雇事由については、就業規則に明記されていない理由での解雇は認められていません。具体的かつ明確に記載しましょう。

相対的必要記載事項

相対的必要記載事項とは、就業規則に定める内容のうち、会社がそれらを制度として設ける場合には必ず記載しなければならない項目のことです。

具体的には、賞与(臨時の賃金)や退職金、職業訓練、表彰制度などの福利厚生に関する内容が含まれます。

なかでも特に注意が必要なのが「制裁」に関する事項です。

制裁とは懲戒処分のことで、解雇と同様に、就業規則に明記されていない理由での懲戒処分は無効とされる可能性があります。必ず明文化しておくようにしましょう。

任意的記載事項

任意的記載事項とは、法令や労働協約に反しない範囲で、会社が自由に就業規則に盛り込むことができる内容です。

たとえば、経営理念や企業の行動指針、職場のマナー、服装のルールなどを明記するケースもあります。会社の方針や価値観を共有するために、有効な項目です。

3つの必要規程

就業規則の作成とポイントをより具体的に解説します。最低限必要な規程について、条文ごとの考え方も含めてお伝えします。

まず、会社を設立したとき、社員を採用するとき、あるいは社員数が10人に達して初めて就業規則を作成する場合などに、最低限整備しておきたい下記の3つの規程があります。

  • 就業規則
  • 賃金規程(給与規程)
  • 育児介護休業規程

この他にも慶弔見舞金規程や出張旅費規程など、作成できる規程はいろいろありますが、まずはこの3つから始めることをおすすめします。

他にも、下記の規定も状況に応じて定めておきましょう。

  • 雇用形態ごとの就業規則
  • 慶弔見舞金規程
  • 出張旅費規程
  • ソーシャルメディア利用規程
  • 在宅勤務(テレワーク)規程
  • 車両管理規程

就業規則に規定する項目

適用範囲

まずは、就業規則が誰に適用されるのかを明確にます。

すべての社員に同じ規則を適用するのか、それとも正社員とパート・アルバイトで分けて別々に作成するのかを検討します。

正社員用の就業規則だけを作成し、非正規社員向けに整備されていない場合、後に労務トラブルの原因になることがあるでしょう。

服務規定

社内で守るべき基本的なルールを定めます。

近年ではSNSの利用ルールや反社会的勢力との関係を禁止する条項、ハラスメント防止、副業・兼業に関する規定を設けるケースが多くなっています。

出勤・退勤、遅刻・早退・欠勤に対する会社の基本的な考え方もここで明文化しておきましょう。

労働時間・休日

法定労働時間の範囲内で所定労働時間や始業終業時刻を設定し、通常の労働時間制で運用するか、変形労働時間制を導入するかも記載します。

休憩時間についても、労働時間が6時間を超えるときは45分、8時間を超えるときは60分の休憩が途中で必要です。

休憩の一斉付与が困難な場合は労使協定の締結が必要です。休日は所定休日と法定休日を明確に区別しておかないと給与計算に支障が出る恐れがあります。

年次有給休暇

雇用形態に関係なく、入社から6か月継続勤務した全社員に年次有給休暇が付与されます。

10日以上付与される社員については、そのうち5日は1年以内に取得させる義務があります。

時季指定義務への対応や、半日・時間単位の取得可否、計画的付与、やむを得ない場合の時季変更権などについても規定しておくと安心です。

特別休暇

結婚、出産、忌引きなどの特別な事情に対する休暇(慶弔休暇)について、取得要件や日数を明確にしておきます。規定が曖昧なまま運用すると、社員間で不公平感が生まれやすくなります。

休職

私傷病などにより就業できなくなった社員が籍を残したまま療養できる制度です。

休職期間や復職に関するルールを具体的に決めておくことが重要です。とくに、メンタルヘルス不調による繰り返しの休復職ケースも想定しておきましょう。なお、休職制度の導入は義務ではなく任意です。

懲戒処分

問題行動を起こした社員に対して懲戒処分を行うには、就業規則に懲戒に関する規定と懲戒事由を明記しておく必要があります。

「ふさわしくない行動」というような抽象的な表現ではなく、「○○をしてはならない」と具体的な行動を例示しましょう。

また、「しばしば」や「著しく」など曖昧な表現は、後のトラブルの原因になることがあるため注意が必要です。

退職・解雇・労働契約の終了

社員が自主的に退職する場合(退職)、会社から通告する場合(解雇)、有期契約の満了などによる契約終了について定めます。

退職の際は、退職届の提出期限や引き継ぎ方法を規定し、定年退職日はいつなのかを明確にしておきましょう。

懲戒解雇と区別される普通解雇についても、理由や手続きなどを具体的に定めておくことが重要です。

賃金規程に規定する項目

各種手当

各種手当については、具体的な金額までは記載しなくても構いませんが、それぞれの手当を支給する条件(支給要件)は明確に定めておく必要があります。

たとえば、「○○を行った場合には△△手当を支給する」といった形で定めておくことで、支給しない場合の明確な理由にもなり、不必要なトラブルを避けることができます。

また、みなし残業制(固定残業制)を導入する場合は、下記の2点を明確に記載しましょう。

  • 固定残業代として支給する金額
  • その金額が何時間分の残業に相当するか

遅刻・早退・欠勤の控除

遅刻・早退・欠勤に伴う給与の控除については、法律で明確な基準が設けられているわけではありません。

そのため、会社ごとに決定する必要がありますが、社員にとって過度に不利益にならない範囲で設定しましょう。

控除対象となる賃金の種類(例:基本給、手当など)や、時間の端数処理の方法(15分未満切り捨て/切り上げ等)なども、具体的に定めておかないと、給与計算時に混乱が生じる原因になります。

割増賃金の計算

時間外労働・深夜労働・法定休日労働に対する割増賃金は、労働基準法で定められた計算方法で支払う必要があります。

  • 割増賃金の計算方法
  • 時間単価の算出対象となる賃金項目(例:基本給、通勤手当は含めるかなど)
  • 割増率(例:時間外1.25倍、深夜1.25倍、休日1.35倍 など)

不適切の場合、未払い残業代のリスクにつながります。

賞与(ボーナス)

賞与は法律上、必ず支給しなければならないものではありません。実際に支給する場合には、そのルールを明確にしてます。

たとえば、いつ支給するのかという「支給時期」や、どの期間の業績や評価をもとに支給額を決定するのかという「評価期間」などを賃金規程に明記しておくことで、社員との間での誤解やトラブルを防ぐことができます。

また、賞与の支給条件として、「支給日に在籍していること」を要件とする、いわゆる「支給日在籍要件」を設ける企業も少なくありません。

この要件を設けることで、たとえば賞与直前に退職する社員に対して支給義務が生じることを避けられます。

雇用形態・働き方別の就業規則

正社員やパート、アルバイトなど、すべての雇用形態に共通して適用する就業規則を作成するのか、それとも雇用形態ごとに規則を分けて作成するのかは、会社の方針によって決めることになります。

もし、雇用形態による待遇の差がほとんどないのであれば、ひとつの就業規則で全社員を網羅しても問題ありません。

一方で、特別休暇や休職制度、賃金体系などで区別を設けたい場合は、それぞれ別の規則を作成しましょう。

なお、ひとつの就業規則内で「この条文は全社員に適用」「この条文はパートには適用しない」といった切り分けをしてしまうと、内容が複雑になり、非常に読みにくい規程になってしまいます。そのため、あまりおすすめできません。

同一労働同一賃金

働き方改革関連法の施行により、雇用形態の違いを理由にした不合理な待遇差は法律で禁止されました。

有期雇用・パート・派遣といった非正規雇用の労働者であっても、業務内容や責任の程度が正社員と同じであれば、同様の待遇とする必要があります。

この条文があるときは注意

「個別の労働契約においてこの規則と別の定めをした場合は、その事項については、各労働契約によるものとする。」
このような文言が就業規則に含まれている場合は、注意が必要です。

別の定めがない場合にはこの規則が適用される、と解釈することもできます。また、個別の労働契約がこの規則を下回る場合には、社員にとって有利な方が適用されることになります。

就業規則の作成は社労士等の専門家がサポート

就業規則を作成する際に、「誰が作るのか」は非常に重要なポイントです。

自社でひな型をもとに作成する場合もあれば、社会保険労務士や弁護士といった外部の専門家に依頼するケースもあります。

コストを抑えて最低限の整備を目指すのか、それとも将来的な会社の成長を見据えてしっかりと投資するのかによって、選ぶ方法も変わってきます。

外部の専門家に依頼する場合でも、誰でも良いというわけではありません。社労士や弁護士にも得意分野があり、就業規則の作成にどれだけの経験があるかによって仕上がりは大きく異なります。

経験の浅い専門家に依頼すると、最終的に社内でひな型を使って作った場合と変わらない内容になるリスクもあるため、実績や専門性をしっかり確認したうえで依頼することが大切です。

作成者・依頼先によるそれぞれの特徴について見ていきましょう。

  • 自社で作成
  • 弁護士に依頼
  • 社会保険労務士に依頼

自社で作成

できるだけ費用を抑えたい場合は、自社で就業規則を作成することも可能です。

自社のことは自分たちが一番よく理解しており、労働関係の法令についても一定の知識があるという場合は、それでも問題ないでしょう。

ただし、専門知識や就業規則作成の経験が不十分な担当者(人事・総務など)が作成を行うと、労務トラブルへの備えが甘くなる恐れがあります。

さらに、不慣れな状態で作成を進めると想定以上に時間がかかり、結果として外部に依頼するよりも人件費などのコストがかさんでしまうケースもあります。

弁護士に依頼

弁護士も就業規則の作成サポートを行います。ただし、医師に専門分野があるように、弁護士にも得意分野があります。どの弁護士でも対応できるとは限りません。

依頼する際には、その弁護士が労働法に詳しいか、企業法務を専門にしているかをしっかり確認しましょう。

また、弁護士にも「企業側の立場」と「労働者側の立場」で活動しているケースがあります。会社のリスク管理を重視するのであれば、企業側での対応を専門としている弁護士を選ぶことが大切です。

社会保険労務士に依頼

中小企業では、就業規則の作成を社会保険労務士(社労士)に依頼するケースがもっとも多いと言えるでしょう。

社労士は、労働関係法令を専門とする国家資格者であり、就業規則の作成や見直しに関わります。

ただし、社労士にも得意分野があります。たとえば、障害年金など年金業務を中心に扱っている社労士よりも、人事労務管理を専門にしている社労士に依頼する方が適しています。

また、就業規則の作成は社労士業務の中でも代表的なものの一つです。そのため、開業間もない社労士でも「就業規則専門」とうたっていることがあります。

依頼を検討する際は、その社労士にどのくらいの経験と実績があるのか、どの業界に詳しいのかなどを、名刺やホームページなどでよく確認しましょう。

就業規則の作成と届出

社員を常時10人以上雇用している会社は、就業規則を作成または変更した場合に、労働基準監督署へ届け出る義務があります。

「常時10人以上」とは、一時的に社員数が10人を下回ることがあっても、通常の状態として10人以上の社員を雇っているかどうかが判断基準になります。

また、届け出が必要なのは「就業規則(本則)」だけではありません。賃金規程や育児・介護休業規程などの関連規程も含まれるため、これらの届出も忘れずに行いましょう。

作成費用

就業規則の作成には、一般的に20万円〜50万円、内容によってはそれ以上かかることもあります。費用は、作成する規程の数や内容の複雑さによって変わります。

もちろん、自社で作成すれば費用はかかりませんし、安価な業者であれば5万円程度で対応してもらえることもあります。

しかし、就業規則は会社の土台となる重要なルールブックです。安価に済ませた結果、内容が不十分で会社の成長を妨げるようなリスクを生む可能性もあります。

本気で会社の成長を目指す経営者であれば、数万円で済ませようとは考えないでしょう。内容の充実した就業規則を整備することが、結果的に企業の安定と発展につながるはずです。

届出先は労働基準監督署

就業規則の届出先は労働基準監督署です。

事業所や支店、営業所が複数ある場合は、それぞれの拠点で「常時10人以上の社員がいるか」を基準に判断します。

常時10人以上の社員がいる拠点については、その拠点を管轄する労働基準監督署へ、個別に届出を行うのが原則です。

届出方法

就業規則を初めて届け出る場合は「就業規則届」を、既に届出済みの就業規則に変更を加えた場合には「就業規則変更届」を労働基準監督署に提出します。

届出様式は法律で統一されていないため、提出先の労働基準監督署や労働局が公開している書式を使用すれば問題ありません。

就業規則を届け出る際に必要となる書類は以下の3点です。

  • 就業規則一式
  • 就業規則(変更)届
  • 就業規則意見書

これらは、提出用と会社保管用の2部を用意し、郵送または窓口で提出します。

郵送の場合は、返信用封筒(切手貼付)を同封すれば、受付印が押された控えが返送されます。窓口の場合は、その場で受付印を押してもらえます。

届出後は、受付印のある就業規則を社内で共有できるようにファイルで保管したり、PDFなどのデータにして共有フォルダに保管するなどし、社員に周知しましょう。

なお、就業規則の届出時には、あらかじめ労働者代表へ説明を行い、意見書に署名・捺印をもらう必要があります。

まれに、意見書に「反対」と記載されることがありますが、その場合でも届出自体は可能であり、労働基準監督署も受理してくれます。

ただし、労働者代表の選出方法が不適切な場合は届出が無効となり、罰則の対象になる可能性があるため注意が必要です。

代表者は、会社が一方的に「指名」するのではなく、労働者の中で挙手・投票・話し合いなどの方法により、労働者側で選出されなければなりません。

就業規則の変更届

就業規則を変更するタイミングは様々ですが主に次のようなケースが考えられます。

  • 会社の体制が変わったとき
  • 会社のルールが変わったとき
  • 会社内で問題が発生したとき
  • 法改正があったとき

就業規則を新たに作成する場合や、既存の規則を変更する場合には、以下のような流れで進めるのが一般的です。

  • 内容(変更内容)の検討
  • 変更案の作成
  • 従業員への説明
  • 労働者代表の選出と意見書への記名押印
  • 就業規則の周知
  • 労働基準監督署への届出

就業規則(変更)届や意見書を労働基準監督署へ届け出ることも会社の義務として重要ですが、それ以上に内容の検討や社員への十分な説明、適切な周知が大切です。

就業規則の届出義務と罰則

常時10人以上の社員を雇用する事業場では、就業規則の作成および変更の際、労働基準監督署への届出が法律で義務付けられています。

この義務を怠った場合、労働基準法により30万円以下の罰金が科される可能性があります。

ただし、実務上でより重大なのは、就業規則の未整備や内容不備によって発生する労務トラブルです。適切な就業規則がないことによって、会社にとって大きなリスクや損失につながるケースも少なくありません。

そのため、形式的な届出だけでなく、内容の充実や社員への丁寧な説明を重視することが、円滑な組織運営につながります。

就業規則の作成における注意点

モデル就業規則・テンプレートの利用

モデル就業規則やテンプレートは、そのまま使わないようにしましょう。

まず確認すべきは、それが最新の法令に対応しているかどうかです。たとえば、厚生労働省が公開しているモデル就業規則を利用する場合は、必ず作成日を確認し、最新版であることを確かめましょう。

特に、インターネット上で見つけたテンプレートを使うときは、どの時点の法改正に基づいて作られているかを確認してください。

もしダウンロード後に法改正があった場合は、内容を修正したうえで社員に周知し、適切に施行する必要があります。

また、厚労省のモデル就業規則には、一部が空欄のままになっている箇所(労働時間など)があります。これは各社が自社の実情にあわせて埋めるためのものなので、空欄のまま施行してはいけません。

カスタマイズは自由にできますが、労働基準法に反しない範囲で行い、絶対的必要記載事項や相対的必要記載事項に抜けや漏れがないように注意が必要です。

また、会社独自のルールに合わせて修正してよい部分と、絶対に変更や削除してはいけない条文もあります。

たとえば、下記の規定は自社に合わせて変更しましょう。

確認すべき規定
  • 労働時間
  • 休日
  • 休暇(特別休暇)
  • 服務規程
  • 懲戒規定

作成時にはその違いをきちんと理解した上で、適切に対応しましょう。

就業規則は会社の成長に合わせて作る

就業規則は、今の会社の規模だけでなく、将来の成長も見据えて作成することが大切です。

中小企業の場合、大企業のような手厚い福利厚生や手当を設けるのは難しいこともあるため、自社に合った内容にする必要があります。

よくある失敗として、インターネットでダウンロードした「ひな型」をそのまま使ってしまい、大企業向けの制度を中小企業に導入してしまうケースがあります。

社員が10人ほどの会社と、将来的に100人規模を目指す会社では、求められる制度やルールも異なります。

就業規則は会社のルールの土台です。後から簡単に変更できるものではないため、最初の段階で安易に済ませず、将来を見据えて慎重に整備しましょう。

就業規則と労働契約法の優先順位(最低基準効)

【就業規則と優先順位】

就業規則の最低基準効とは、就業規則に記載されている労働条件が、その会社で働く社員にとっての「最低ライン」になるという意味です。

たとえば、個別の労働契約で就業規則よりも不利な条件が記載されていた場合、その契約内容は無効となり、就業規則に定められた条件が自動的に適用されます。

つまり、就業規則は労働契約よりも優先されるルールとして機能します。

労働契約法第12条(就業規則違反の労働契約)
就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。

引用:労働契約法第12条

労働基準法第93条(労働契約との関係)
労働契約と就業規則との関係については、労働契約法(平成十九年法律第百二十八号)第十二条の定めるところによる。

引用:労働基準法第93条

ただし、就業規則の内容が法律(労働基準法など)に違反している場合には、法律が優先されます。

また、会社と労働組合が結んだ「労働協約」の内容に違反する就業規則がある場合には、その労働協約の方が優先されます。

医療法人稲門会事件

たとえ就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出て社員に周知していたとしても、その内容が法令に反している部分については無効とされてしまいます。

就業規則の内容が有効と認められるためには、法令を遵守していることが前提です。

自社で就業規則の作成や修正を行う場合は、労働基準法や関連法令に違反していないかをしっかりと確認することが大切です。

実際に「医療法人稲門会事件」では、事業主が作成した育児介護休業規程の一部が、育児・介護休業法に違反していたために、その条項が無効と判断されました。

就業規則をめぐるトラブル事例

就業規則に関するトラブルでよくあるのは、実際の運用と就業規則の内容が一致していなかったり、労働契約書と就業規則の内容に違いがあったりするケースです。

さらに、就業規則を変更する際に、以前よりも労働条件が悪くなってしまう場合も問題になります。

特に注意すべきなのが「労働条件の不利益変更」です。これについては過去にも多くの労務トラブルが発生しており、裁判に発展した事例も多数あります。

そのような裁判例をふまえ、現在の労働契約法では「労働条件を変更する際は、原則として事業主と労働者の合意が必要」と明確に定められています。

就業規則に関するよくある質問

最後に、就業規則に関してよくある質問について回答します。

就業規則は社外持ち出し禁止にできますか?

就業規則を社外持ち出し禁止にすることもできます。

社員がいつでも閲覧できるようにしておけばよいので社内でのみ閲覧可としておくこともできます。複製・コピー禁止とすることもできます。

就業規則は事業場ごとに分けて作ることはできますか?

就業規則を事業場ごとに作成することも可能です。

各地域や拠点ごとに特別なルールがある場合には、分けて作成することも考えられます。

就業規則と36協定との違いはなんですか?

就業規則は働き方に関するルールを定めたものです。

社員に時間外労働を命じる場合には就業規則にその旨を定めた上で36協定を締結し、労働基準監督署へ届け出る必要があります。

36協定とは「時間外労働・休日労働に関する協定届」の通称で、事業主が労働者に対して時間外労働や休日労働を命じるときに必要になる手続きです。

英語(外国語)で表記する必要はありますか?

就業規則を外国語対応するかどうかは会社の任意です。

ある程度の日本語能力を求めるという意味でも日本語の就業規則を適用させるという考え方もあります。

その場合には、漢字にふりがなをふったり平易な言い回しにしたりなど一定の配慮は必要でしょう。

一方で、外国人労働者用に外国語対応の就業規則を作成する会社もありますが、その場合には、厚生労働省が公表している外国語のモデル就業規則を活用することをおすすめします。

就業規則以外にも外国語の労働条件ハンドブックも用意されています。

この記事を書いた人

社会保険労務士法人GOALの代表。中小企業を中心に人事労務管理・就業規則の作成支援を行っております。働きやすい職場環境づくりのサポートをします。

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