【就業規則の周知義務とは】周知の方法やタイミングについて解説

就業規則の作成や変更を行ったとき、労働者代表を選び意見書を添えて労働基準監督署へ届け出をします。

しかし、就業規則の効力を発生させるためには、届け出だけではなく社員に周知させなくてはなりません。

そして、この周知の方法が不適切だと就業規則が無効と判断される恐れがあるので注意が必要です。

今回は、就業規則の周知義務と周知の方法、周知のタイミングなどについて解説します。

目次

┃就業規則の周知が必要な理由とは

就業規則の周知が必要な理由は、「就業規則の効力がいつ発生するか」にかかわります。就業規則は、労働基準監督署に届出をしたときではなく、社員に周知をしたときに効力が発生するのです。

就業規則は、社員の労働条件や会社内の守るべきルールなどを定めたものですから社員全員がその内容を理解していないと意味がありません。

就業規則を作成した後は、社員に周知し、いつでも自由に閲覧できる状態にすることが必要です。

○就業規則の周知義務(労働基準法第106条)

「常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、労働基準監督署へ届け出をすること(労働基準法第89条)」とされていますが、届け出は就業規則の効力発生要件ではありません。

就業規則が会社のルールとして効力を発生するためには、社員への周知が要件となっています。

仮に常時10人以上の労働者を使用する会社が労働基準監督署へ就業規則の届け出を怠っていた場合、届け出義務違反ではありますが、周知をしていれば就業規則は有効です。

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労働基準法第106条(法令等の周知義務)
使用者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨、就業規則・・・を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない。
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労働基準法第120条(罰則)
次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
一 第八十九条、第百六条(一部抜粋)
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○社員が閲覧できない就業規則は無効

経営者の中には、せっかく作成した就業規則を「社員には見せたくない」と自分のデスクの引き出しに大事にしまっているケースもあります。

「社員に言われれば見せる」と言っていたとしても、そのような対応では、社員がいつでも自由に閲覧できる状態とは言えません。

いざ、懲戒処分が必要になった場合でも就業規則の周知義務を果たしていないため有効に懲戒処分が行えないということも考えられます。

→そもそも就業規則とは?

┃就業規則の周知方法

就業規則の周知義務に関しては、「常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない。」と規定されています。

具体的には次のような方法が考えられます。

○印刷して配布する

就業規則の作成時や変更時、あるいは入社時などに紙に印刷したものを配布する方法です。

労務トラブル発生時に就業規則を「見ていない・知らない」と言われたとしても渡してある事実があれば会社にとっては有利に働く可能性があります。

退職時に回収するか、会社外への持ち出しを制限するかどうかなどは、会社ごとの判断によります。

○会社内の見やすい場所に掲示・備え付ける

会社内の見やすい場所、例えば休憩室や更衣室などに備え付けておく方法です。ファイリングして壁にぶら下げているような会社もあります。

本社と支店、営業所など複数拠点ある場合には、拠点ごとに掲示・備え付けの対応が必要です。

○共有サーバなどでいつでも見られるようにする

就業規則は必ずしも紙で配布するのではなく、データで共有しても問題ありません。

会社内の共有サーバに常に最新の就業規則を保管しておき、誰でもいつでもアクセスできる状態にしておく方法も有効です。

紙で配布する方法と同じく、容易に印刷して複製したり社外に持ち出したりできてしまうことも考えられるので、ダウンロードや印刷ができないような制限をかけておくことも考えられます。

○就業規則説明会を実施する

以上のような方法に加えて、就業規則説明会を実施して重要な部分を解説するとより、理解が深まります。

実際には、時間的制約もあり全文を解説するのは難しいことが多いです。そのときは、就業規則を配布した上で説明を実施し、1週間くらいを目途に意見や質問を集約し、それらに回答した後、正式に施行する方法がよいでしょう。

就業規則説明会は、それまで就業規則が整備されていなかったり、ルールがあいまいだったりした会社でも「今後はホワイト企業を目指してやっていく」という宣言をする場にもできます。

社会保険労務士法人GOALが就業規則説明会を実施する場合は、説明するのが難しい就業規則の条文解説は、社会保険労務士が行い、経営者の方には、就業規則説明会の冒頭で「就業規則作成にいたった想い」や「これからの会社のビジョン」などをお話いただくようにしています。

そうすることにより会社と社員の信頼関係を強くすることも期待できます。

また、専門家の立場から説明をすることで説得力が上がったり、就業規則への納得感も得られたりします。

さらに、経営者の立場からだと言いにくいことも第三者を介すことで伝えられることもあります。

逆に社員としても会社には直接言いにくいことでも第三者にだから言えることもあるので、率直な意見交換の場としても期待できます。

○就業規則の周知方法についての注意点

就業規則周知のポイントは、社員がいつでも自由に見られる、ということです。

正社員だけ、管理職だけが見ることができるものや普段は保管されており申し出た社員だけが見られるという方法は不適切です。

就業規則説明会を実施する方法もお伝えしましたが、そこでプロジェクターに映し出し口頭だけで説明したような場合も周知したことにはなりません。

┃就業規則を周知するタイミングとは

「就業規則をいつ周知するか」について、具体的に明示されたものはありませんが「就業規則の周知=効力発生」ということを考えると次の2つのタイミングが考えられます。

○就業規則を作成したとき

新規に就業規則を作成したときは、周知をしないと効果が発生しません。労働基準監督署へ届け出をする前に確実に周知しておくことが必要です。

○就業規則を変更したとき

就業規則を変更したときも変更後の就業規則を有効にするためには、周知が必要です。

なお、施行日(いつから効果を発生させるか)は、任意に設定することができるので、周知するタイミングと施行するタイミングが離れている場合には、付則などで施行日を明らかにしておくとよいでしょう。

┃周知しないといけない「就業規則」とは

就業規則とは、会社と社員との約束事をまとめたものすべての総称であると考えられます。

就業規則、賃金規程(給与規程)、育児介護休業規程、退職金規程、慶弔見舞金規程、出張旅費規程など複数の規程がある場合、「就業規則というタイトルのものだけを周知し、届け出をすればいい」と勘違いしている人がいますがそうではありません。

○就業規則とはどの範囲を指すか

就業規則、賃金規程(給与規程)、育児介護休業規程、退職金規程、慶弔見舞金規程、出張旅費規程など、ここで挙げたものはすべて「会社と社員との約束事」と言えます。

そうするとこれらの規程を作成し、変更したときにはすべて、周知したり労働基準監督署へ届け出たりする必要があるのです。

便宜上、タイトルで分けているだけでこれらはすべて「就業規則の一部」であると考えます。ここで挙げた規程以外も同様です。

○内規や社内規程・マニュアルなどは?

会社によっては、就業規則の他に運用面のことをまとめた内規やマニュアルなどを作成しているケースもあります。

どこまでを就業規則と一体として考えるかは難しいところではありますが、タイトルよりも実態で考えて、そうした内規などで社員を拘束したり制限したりするのであれば就業規則の一部と考えることもできます。

そうではなくて、運用上の注意点などがまとめられているだけであれば周知や届け出までは不要と考えてよいでしょう。

周知をしない場合は、「内規に書いてある」といっても、それを理由に懲戒処分はできないということになりますので注意が必要です。

┃労働者10人未満の会社でも周知は必要か

労働基準法上は、常時10人未満の会社については就業規則の作成と届け出を義務付けていません。

しかし、会社のルールや考え方を明確にしたり、労務トラブルを防止したりするためにも社員を雇い入れるときには作成しておいた方がいいでしょう。

作成した就業規則の効果を発生させるためには、労働者数にかかわらず周知することが必要です。

┃就業規則の周知とトラブル事例

就業規則の周知が適切にされていなかった場合、それが原因で労務トラブルに発展するケースがあります。

○フジ興産事件

この事件では、懲戒解雇をされた社員が「懲戒解雇は無効」だと主張して会社を訴えました。この社員が勤務していた事業場では、就業規則を備え付けるなどの周知がされていなかったということです。

この事件で最高裁判所は、「就業規則が法的規範としての性質を有するものとして拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要する。」と述べています。

○中部カラー事件

この事件では、就業規則の変更により退職金を大幅に減額された元社員が変更前の方法で計算した退職金との差額を支払うよう会社を訴えました。

結果として、会社が変更後の就業規則の一部しか周知をしていなかったり、退職金が大幅に減額される可能性についても説明が不十分だったりなど、十分な周知がされていなかったとみなされ就業規則の変更が無効と判断されました。

この判決により会社は、変更前の退職金規程に基づいて約700万円の支払いを命じられています。

この事件で裁判所は、「就業規則の変更が、経営会議、全体朝礼などにおける従業員への説明は不十分であること、休憩室の壁に掛けられた就業規則には前記変更の一部しか記載されていないことなどから、実質的に周知されたとはいえないとして無効である」と述べています。

→その他の就業規則をめぐるトラブル事例

┃まとめ

今回は、就業規則の周知義務と周知の方法、周知のタイミングなどについて解説しました。

周知の重要性と周知方法が適切でなかった場合のリスクについてご理解いただけたと思います。

就業規則を作成したり、変更したりした後、周知がしっかりとされていない可能性がある場合は、改めて説明会の実施や就業規則の配布などの対応をとることをおすすめします。

社会保険労務士法人GOALでは、就業規則の作成・変更や就業規則説明会の実施もサポートしておりますので、お困りの際には、ぜひ一度、お問い合わせください。

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