【社員からの希望による遅刻早退欠勤は認められるか】労働者の権利と対応策について解説

社員が出社時刻や退社時刻を守ることは、労働契約上の義務であり、遅刻・早退・欠勤は原則的に認められていません。しかし、家庭の事情や病気、通勤時の予期せぬトラブルなど、やむを得ない事情によって発生することがあり、こうした場合には特別な対応が必要になることもあります。

会社としては、遅刻・早退・欠勤が業務や職場環境に与える影響を最小限に抑えるため、就業規則で明確なルールを設け、繰り返し発生した場合には適切な対応を行うことが求められます。繰り返しの遅刻・早退・欠勤は業務に支障をきたし、他社員の負担や士気の低下につながるリスクがあるため、適切な対応が必要です。

今回は、労働契約上の遅刻・早退・欠勤に関する基本的な考え方と労働者の権利、遅刻・早退・欠勤を繰り返す社員への対応策について解説していきます。

目次

┃社員の遅刻・早退・欠勤が認められるケースとその根拠

○労働基準法に基づく労働者の権利

労働基準法を始めとする労働基準関係法令に基づいて労働契約を締結する場合、事業主は賃金を支払い、社員(労働者)は労務提供することを契約の内容とします。そのため、労働契約上、社員には原則として遅刻・早退・欠勤をする「権利」は認められていません。労働契約を締結することで、社員は就業規則に定められた始業・終業時刻に従って勤務する義務を負い、それが守られることを前提として賃金が支払われるのです。

ただし、労働基準法や労働安全衛生法では、会社側に「健康で安全な就業環境を提供する義務」が課せられているため、社員が病気や怪我で出勤が難しい場合、無理に出勤させることは望ましくありません。この義務は、あくまで健康状態に基づく配慮(安全配慮義務)を求めるものであり、遅刻・早退・欠勤そのものが社員の権利として認められているわけではありません。

○病気や家庭の事情、不可抗力の理由による遅刻早退欠勤の取り扱い

社員には遅刻・欠勤の権利はありませんが、病気や急な家庭の事情、不測の事態による遅刻・早退・欠勤が発生することがあります。こうした事情があるときは、年次有給休暇を取得することが原則ですが年次有給休暇の権利が発生していない場合には、会社としても「やむを得ない事情」として特例的に遅刻・早退・欠勤を認めることもあります。福利厚生制度の一つとして、慶弔休暇や病気休暇制度を設けている会社もあります。

また、台風や交通機関の大幅な遅延といった不可抗力による遅刻・早退・欠勤についても、多くの会社は柔軟に対応する姿勢を取ることが多いです。これらは、社員の「権利」ではなく、あくまで「やむを得ない事情」による対応であり、会社側の判断に基づくものです。

その他、育児介護休業法など別の法律で認められた労働者の権利として休業が認められる場合もあります。こうした法律は、育児や介護といった特別な事情に対する配慮を会社側に求めるものであり、任意の遅刻・欠勤が無制限に認められるわけではありません。

→育児介護休業法について詳しくはこちら

┃やむを得ない事情による遅刻早退欠勤に対処するための制度設計

○労働契約や就業規則で定めるべきポイント

原則として「遅刻・早退・欠勤は認めない」と就業規則で明記しておくことが重要です。その上で、怪我や病気などやむを得ない場合には会社に届け出て「承認を得たときのみ認める」とするべきです。無断での遅刻・早退・欠勤には懲戒処分を科すなど厳しい対応が必要です。他の法律で認められている場合は別として、怪我や病気等に関しては一定のルールをあらかじめ就業規則で定めておきましょう。

育児や介護を理由とする休暇等を除いて労働基準関係法令で社員に認めている休暇等は年次有給休暇のみです。社員本人に業務に就けない理由があるならばまずは年次有給休暇から消化することが原則です。年次有給休暇をすべて消化してもなお休暇休業を余儀なくされるされる場合は、会社が用意した慶弔休暇や病気休暇、休職制度等を適用する余地がないか検討します。

社員の希望により慶弔休暇や病気休暇、休職制度等を利用し、欠勤をする場合、申請方法や連絡方法など手続きを就業規則で定めることが必要不可欠です。怪我や病気の場合には医師の診断書を提出させることを忘れないようにしましょう。緊急の場合を除き、事前申請による計画的な遅刻・早退・欠勤を義務付けることで、会社側も対応がしやすくなります。

→就業規則作成の基礎知識や作り方のポイントについて詳しくはこちら

┃フレックスタイム制や裁量労働制の活用した柔軟な働き方

○労働者・求職者が求める働きやすさ

今、労働市場は人手不足の状態で売り手市場(求職者有利)になっています。ワークライフバランスということばも浸透し、「働きやすさ」が就職先を探す重要なポイントになっています。新型コロナウイルス感染症の流行でテレワークやフレックスタイム制など柔軟な働き方も広がりました。一切の遅刻・早退・欠勤を認めず週に5日出社して朝から夜まで働くという働き方から変化を求める求職者も増えています。

人材獲得競争を生き残るためには、そのような柔軟な働き方の導入を検討することも重要な経営課題です。

○フレックスタイム制の導入による柔軟な勤務

フレックスタイム制は、社員が一日のうち「コアタイム」(必ず出勤すべき時間帯)以外の勤務時間を自由に設定できる制度です。この制度を導入することで、社員が予定に合わせて始業や終業時間を調整しやすくなり、結果として遅刻や早退の回数も減少する効果が期待できます。特に通院や家庭の事情がある社員にとっては、この制度は大きなメリットとなります。

*厚生労働省「労働基準法に関するQ&A:フレックスタイム制とは何ですか。」

○裁量労働制による自己管理の促進

裁量労働制は、特定の業務において、社員が働く時間よりも成果を重視する働き方です。特に、専門業務や企画業務を対象とした場合、社員自身がスケジュールを立てやすくなり、勤務時間に対する自由度が増します。これにより、急な予定や家庭の事情に対応しやすく、結果として希望による遅刻や欠勤が発生するケースが減ると考えられます。

*厚生労働省「労働基準法に関するQ&A:裁量労働制とは何ですか。」

○在宅勤務との併用で柔軟な働き方を実現

最近では、フレックスタイム制や裁量労働制と在宅勤務を組み合わせる事例も増えています。在宅勤務を併用することで、急な家庭の事情に合わせて勤務開始時間を遅らせたり、仕事の合間に所用を済ませたりするなど、さらに柔軟な勤務形態が可能になります。こうした制度の活用によって、希望による遅刻・欠勤の必要性を減らし、社員の満足度向上や生産性の維持が図られています。

在宅勤務を導入することで通勤の負担も軽減されることから求職者に人気のある働き方の一つでもあります。

01_いろいろな働き方

┃遅刻・早退・欠勤が会社に与える影響と対策

○遅刻・早退・欠勤が会社に与える影響

遅刻・早退・欠勤は、会社の業務や職場全体に少なからず影響を与えることがあります。まず、社員が遅刻・早退・欠勤をすると、その社員が担うべき業務が一時的に滞り、他の社員に負担がかかる可能性が高まります。特にチームで進める業務の場合、一人の欠勤等が原因でプロジェクト全体のスケジュールに影響が出るケースもあります。

また、特定の社員が遅刻・早退・欠勤が頻繁に繰り返すと、職場の士気にも悪影響を及ぼします。社員同士の信頼関係や協力が求められる職場では、他の社員が不公平感を抱き、不満を感じる原因になることもあります。そのため、遅刻・早退・欠勤に対して会社として毅然とした対応が求められます。

○遅刻・早退・欠勤に対する対策

遅刻・早退・欠勤に関するルールを就業規則に明確に記載し、全社員に周知徹底することが基本です。原則として認めないという姿勢を明確にした上で例えば、遅刻・早退・欠勤に対するペナルティ(減給制裁)や人事評価への影響などを示すことで、社員にルールの重要性を理解してもらいます。

繰り返し遅刻・早退・欠勤をする社員に対しては、定期的な面談や指導を実施し、状況を把握することが大切です。例えば、生活環境や健康状態が影響している場合もあるため、状況に応じたフォローを行いながら、改善を促すことが効果的です。

場合によっては、家庭環境と労働環境が合わないという理由で退職を促すことも検討する必要があるでしょう。

就業規則で遅刻・早退・欠勤を原則禁止し、懲戒処分の対象としているにもかかわらず繰り返し遅刻・早退・欠勤をする社員に対しては厳しく対応する必要があります。なお、就業規則を整備していなかったり、必要な条文が抜けていたりすると適切な指導を行うことができません。

○遅刻・早退・欠勤は必ず「許可制」にすること

遅刻・早退・欠勤を「届け出制」とするか「許可制」とするかは就業規則の定めによります。届け出制であれば社員からの一方的な届け出でも認めざるを得ないと考えることができます。許可制であれば社員からの申請と会社の承認というプロセスを踏むことが通常であり、承認が得られなければ無断欠勤として扱うことができます。そのように会社の権利を維持するためにも「許可制」として運用するべきでしょう。

○遅刻・早退・欠勤は必ず「賃金控除」を行うこと

遅刻・早退・欠勤は認めないといっても年次有給休暇の権利が発生する前などでやむを得ない場合もあります。そのようなときは事情を聴いた上で「原則として遅刻・早退・欠勤は認められない」ことを伝えて特例的に認めるしかないでしょう。特例的に認めたとしても会社の規律を守り他の社員との公平性を維持する観点からもノーワークノーペイの原則により賃金控除をするべきです。

まれに就業規則がなかったり曖昧な運用をしていたりして賃金控除も行っていない会社もあります。そうすると特定の社員だけではなく会社全体の秩序が乱れ遅刻・早退・欠勤が頻発するようになることがあります。そうなってから就業規則の規定を持ち出しても手遅れです。

┃まとめ

今回は、労働契約上の遅刻・早退・欠勤に関する基本的な考え方と労働者の権利、遅刻・早退・欠勤を繰り返す社員への対応策について解説しました。

社員の遅刻・早退・欠勤は、労働契約上、原則的に認められるものではありませんが、やむを得ない事情や柔軟な働き方のニーズが増える中で、会社も対応を求められる場面が増えています。社員の遅刻・早退・欠勤が業務に及ぼす影響を最小限に抑えるためには、就業規則で基準を明確にし、社員に理解を促すことが重要です。

また、社員の事情に応じてフレックスタイムや在宅勤務といった柔軟な制度を導入することは、予期せぬ遅刻・早退・欠勤の減少にもつながります。これにより、社員が無理なく業務に集中できる環境が整い、会社全体の生産性向上も期待できます。

会社がこうしたルールや制度を整え、労使双方が安心して働ける職場環境をつくることが、人材確保・離職防止対策にも影響し、持続的な成長にも寄与するでしょう。

この記事を書いた人

社会保険労務士法人GOALの代表。中小企業を中心に人事労務管理・就業規則の作成・助成金の申請サポートに対応しています。

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