賃金台帳の記載事項のチェックと労務トラブル防止

賃金台帳は、労働者を雇い入れた際に事業主が整備する必要がある帳簿として労働基準法に義務付けられています。

賃金台帳は給与計算ソフト等を使用していれば自動的に作成することもできますが、記載項目や記載内容が法令に即しているかは、チェックが必要です。

目次

┃法定三帳簿

法定三帳簿とは、労働基準法において定められた三つの帳簿のことで労働者を雇い入れた時には作成が義務付けられています。

労働基準法では、「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿等」の三点を法定三帳簿といいます。

この法定三帳簿+労働条件通知書(労働契約書)は、労働者を雇い入れる時には必須です。

さらに労働者数によっては、就業規則の整備も必要になります。

┃賃金台帳の記載事項

賃金台帳は、労働基準法第108条に定められた帳簿で、事業主に作成が義務付けられているもので、給与明細とは異なります。

記載事項として義務付けられているものは、以下の通りです。

賃金台帳の記載事項

  • ①労働者氏名
  • ②性別、③賃金の計算期間
  • ④労働日数、 ⑤労働時間数、
  • ⑥時間外労働時間数、
  • ⑦深夜労働時間数、
  • ⑧休日労働時間数、
  • ⑨基本給や手当等の種類と額、
  • ⑩控除項目と額

性別が表記されていないケースがありますが、労働者名簿等の他の書類と合わせて確認できれば問題にはなりません。

賃金計算期間についても「○月支給分」等と明記されていて、賃金規程と照らし合わせて賃金計算期間が把握できればよいでしょう。

多くの事業所で問題になるのは、勤怠管理がされていなかったり、勤怠情報が賃金台帳に記録されていなかったりするケースです。

┃賃金台帳の整備で問題になるケース

次のようなケースでは、労働基準法違反として労働基準監督署の臨検監督の際に指導を受けたり、適切に記録されていないことが労務トラブルの原因になったりします。

○賃金台帳に勤怠情報が記録されていない

出勤簿やタイムカードと照合して勤怠情報が確認できれば大きな問題にはなりませんが是正指導の対象になると考えられます。

○勤怠管理がされておらず賃金台帳に記録されていない

賃金台帳に勤怠情報が記録されていないだけであれば大きな問題には発展しにくいですが、そもそも勤怠管理が適切にされていないのは大問題です。

未払い賃金、未払い残業代が発生している可能性があります。

○みなし残業代(固定残業代、定額残業代)

賃金台帳上、みなし残業手当等の記載があるにもかかわらず労働契約書や就業規則(賃金規程)にみなし残業手当の規定がないことがあります。

そのような適切な手続きを踏んでいないみなし残業制は、無効と判断される可能性が高いです。

○残業代(割増賃金)の計算方法

残業代(時間外手当、深夜手当、休日出勤手当等)の計算方法は、法律で定められています。

残業代を計算する際に諸手当や歩合給等はすべて省いて、基本給だけを計算単価として計算しているケースがありますがこれは誤りです。

○通勤手当の取り扱いの誤り

通勤手当は本来、諸手当の一つとして賃金台帳に計上され、雇用保険料や社会保険料の計算対象とする必要があります。

事業所によってはこの通勤手当を経費清算のように諸手当と別に支払っているケースがありますがこれは誤りです。

○法定福利費以外の控除

社会保険料や源泉所得税等、法定福利費以外のものを賃金から控除する際には、労働基準法で定められた手続きを踏む必要があります。

また、遅刻早退欠勤に対して控除をする場合と年末調整等の過不足清算で控除する場合とでは、控除の仕方や考え方が異なるので注意が必要です。

○社会保険料や源泉所得税の計算

社会保険料や源泉所得税の計算方法や金額の決定、変動の仕組みにはルールがあります。

例えば、残業代や歩合給等で毎月支給額が変動する場合、雇用保険料は支給額に連動して控除額も変動しますが厚生年金保険料や健康保険料は変動しません。

┃給与計算と賃金台帳の整備はルールに沿って

給与計算を行った結果が賃金台帳ですから、給与計算が誤っていれば賃金台帳も誤っていることになります。

賃金台帳の整備は法律で定められているから行う、ということ以上に労務トラブルが起きた時の有力な証拠にもなり得ます。

日ごろから、適切に労務管理を行うことが労務トラブルの防止にもつながっていきます。

*関連記事
・賃金台帳の作成は事業主の義務
・労働者を雇用した時に必要な帳簿類の整備

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