労働条件の不利益変更と注意点

会社の業績悪化や賃金体系の見直し、あるいは労働者の能力不足等によって、従来の労働条件を切り下げることがあります。

これを労働条件の不利益変更と言います。

労働者は、労働基準法を始めとした労働関係法令により強く保護されており、事業主の都合で労働条件の不利益変更を行う場合には大きな注意が必要です。

目次

┃労働条件の不利益変更と労働契約法

労働条件の変更については、過去にも様々な労務トラブルがあり多くの裁判が行われています。

そうした裁判事例の積み重ねによって労働契約法に次のように定められ、原則的に事業主と労働者の合意が無いと労働条件の変更はできないことになっています。

===============
労働契約法
(労働契約の内容の変更)
第八条 労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。
===============

特に労働者にとって不利益となる労働条件の変更については、事業主側が一方的に行うことや賛成多数等で就業規則に修正を加えることも原則認められません。

===============
(就業規則による労働契約の内容の変更)
第九条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
===============

┃労働契約法第10条で認められる場合とは

労働契約法第9条の最後に「ただし、次条の場合は、この限りでない。」と規定されていました。

これは次のようなケースであれば例外的に就業規則の変更により労働条件の不利益変更が行えることになっています。

①変更後の就業規則を労働者に周知させている
②就業規則の変更について次の点を考慮した上で合理性があること
・労働者の受ける不利益の程度
・労働条件の変更の必要性
・変更後の就業規則の内容の相当性
・労働組合等との交渉の状況
・その他

┃就業規則変更についての合理性とは

就業規則変更についての合理性について、裁判例などを参考にした上で嚙み砕いてみると次のように考えることができます。

□労働者の受ける不利益の程度

・給与の減額であれば総支給額(月額)の10%~20%程度に留めるのが無難
 →減額幅が大きいほどリスク大
・代償措置や経過措置を設けている(数年かけて減額していく等)

□労働条件の変更の必要性

・労働条件の不利益変更を行わないと倒産する等の経営上の事情がある

□変更後の就業規則の内容の相当性

・就業規則全体を見て「有利な変更」と「不利益変更」とでバランスが取れている

□労働組合等との交渉の状況

・労働者や労働者代表者との話し合いの場を設けている
 →複数回実施して丁寧に説明し考える時間を与えている

┃同意書をとっても不利益変更が認めらなかった事案もある

説明会を実施して同意書を取ったらそれで問題がないかというとそういうわけにはいきません。

説明会や配布資料の内容から労働者自身が現在、そして将来に向かってどの程度の不利益を受けるのかがわかるようにしておく必要があります。

説明や配布資料の内容が不十分な場合、同意書の効力は否定されることとなります。

*参考:山梨県民信用組合事件(東京高裁 平成28年11月24日判決)

┃労働条件の不利益変更が認められないとどうなるか

就業規則(賃金規程)等の変更を行い労働条件の不利益変更を行ったにもかかわらず、後の裁判でそれが認められないと判断された場合どうなるでしょうか。

賃金を減額した場合には労働者から「労働条件の変更をする前の金額との差額を支払ってほしい」という要求がなされます。

その要求が認められたとしたら、事業主はその差額を支払わなければなりません。

さらにそのような要求は、一人の労働者に留まらず複数人から、あるいは同時に裁判を起こされることもあり得ます。

以上のような労務リスクを考えると労働条件の不利益変更は、慎重に慎重を重ね、専門家の指導の元、時間をかけて丁寧に実施することが重要です。

*厚生労働省
労働契約法の改正について

この記事を書いた人

社会保険労務士法人GOALの代表。中小企業を中心に人事労務管理・就業規則の作成・助成金の申請サポートに対応しています。

目次