社会保険料逃れ┃偽装自営業
事業主であれば「社会保険料の負担を軽くしたい」「税金を安くしたい」ということを考える人も少なくはありません。
社会保険料の負担を逃れることを目的に「偽装自営業」「偽装業務委託」という方法をとる事業主もいます。
偽装自営業とは
本来であれば雇用しているのとほとんど変わらない時間を拘束し、自身の指揮命令の下で業務にあたっているにもかかわらず、労働関係法令や社会保険法令その他の規制から逃れるために業務委託契約に偽装して雇用契約を締結するようなケースを言います。
ビクターサービスエンジニアリング事件
この事件では、「偽装自営業」「偽装業務委託」が問題になりました。
■事件の概要
【会社側】
音響製品等の設置、修理等を業とする会社。業務委託契約に基づいて「個人代行店(代理店のようなもの)」を募り、個人代行店に顧客先へ訪問させて製品修理を委託していた。
【労働者(個人代行店)側】
個人事業主として会社と業務委託契約を締結し、出張修理にあたっていた。
会社側に待遇改善を目的として団体交渉を申し出るも「個人代行店は労働者にあたらない」として団体交渉を拒否されたために訴えを起こした事件。
■裁判所の判断
<会社側は、自ら選抜し、研修を終了した個人代行店に出張修理業務の多くを担当させていた>
<出張修理業務については、1日当たりの受注可能件数を原則8件と定め、業務量を調整して割り振っていた>
→これらの事実から、必要な労働力として、恒常的な労働力確保のために組織に組み入れられているものとみることができる。
<個人代行店に支払われる委託料は、形式的には出来高払に類する方式が採られていた>
<個人代行店は1日当たり通常5件から8件の出張修理業務を行い、、修理工料等が修理内容等に応じて著しく異なることはない>
<仕事完成に対する対価とみざるを得ないといった事情もない>
→形式上は「業務委託費」として仕事の完成に対して支払われているように見せているが実際には会社側に業務を割り振られている状態だった。
<特別な事情のない限り割り振られた出張修理業務を全て受注しなくてはいけない>
<契約更新は一年ごと、会社側からの申出により契約解除できる>
<仕事を割り振ってもらうためには、会社側の依頼を断ることは実質できない>
<個人代行店は、原則として営業日には毎朝業務開始前に会社のサービスセンターに出向いて出張訪問のスケジュールを受け取る>
<出張訪問の際には、会社のロゴマーク入りの制服、名札の着用、名刺の携行をする>
<業務終了後も原則としてサービスセンターに戻り、当日の修理進捗状況等の入力作業を行う必要がある>
→このことからも個人代行店は、会社の指定する業務遂行方法に従い、その指揮監督の下に労務の提供を行い、業務について場所的にも時間的にも拘束を受けているということができる。
まとめ
以上の事情を考えると個人代行店は「労働組合法上の労働者に当たる」と判断されました。
このような「業務委託契約」の体裁を取る業種としては、「美容業界」「治療院(整骨院など)」「運送業」などで多くみられます。
細かく話を聞いていくと「偽装自営業」「偽装業務委託」と考えられる内容も少なくありません。
「偽装自営業」「偽装業務委託」のリスク
「偽装自営業」「偽装業務委託」の状態を放置しておくとトラブルになった時に大きな問題へ発展します。
何も起こらないうちはそれでも良いのですが、
>ケガをした
>病気をした
>長時間労働になった
>失業した
>行政機関の調査が入った
このような場面で働く側が「十分な補償がない」ことに気づき訴えを起こすのです。
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社会保険料逃れ┃法人格を2つに分ける
※参照事例
「ビクターサービスエンジニアリング事件(東京高裁 平成25年1月23日判決)」
→最高裁第三小法廷 平成24年2月21日判決の差し戻し審