【休職制度の運用方法とは】休職トラブルを防止するための運用方法とリスク管理
休職制度は、労働基準関係法令等の法律で導入が義務付けられているものではありません。法律で義務付けられていないため、休職制度の内容は各会社が自社の状況に合わせて就業規則に規定を設けるなどして決める必要があります。
休職制度は任意の制度であるため制度自体がない場合もありますが、制度を導入したことにより労務トラブルを回避することができるケースもあります。反対に休職制度があったとしても適切に運用していなかったり、誤った運用をしていたりした場合に休職制度そのものが労務トラブルの原因になってしまうこともあるので注意が必要です。
今回は、休職制度の運用方法と、休職トラブルを防止するための運用方法とリスク管理についてお伝えします。
┃休職制度が引き起こすトラブルとは
○休職トラブルが発生するタイミング
休職制度によるトラブルが発生するタイミングとして多いのは復職時です。社員本人は復職を希望しているが復職できる状態ではなかったり、復職に伴い時短勤務や配置転換を希望されたが会社としてそれに応じるのが難しかったりして、復職を許可するのか、休職期間を延長するのか、休職期間満了による退職とするのか、会社と社員の考えに不一致が生じることがあります。
このような会社と社員の考えの不一致が休職制度を原因とした労務トラブルに発展していくことになります。
○休職トラブルは●●が曖昧だから起こる
休職制度による労務トラブルの原因は様々ですが、その多くは会社と社員の考えの不一致が原因で起こります。会社と社員の考えの不一致は、始めから不一致が起きそうなことについてルールとして明記しておくこと、その都度書面で形に残して相互に確認をすることで回避することができる場合があります。
「休職の開始時期が曖昧だからトラブルになる」
社員から休職希望があったので特に休職命令を出すこともなく、流れのままに休み始めてしまったため「●月●日が休職期間満了日なのかがわからない」ため、いつ復職命令を出せばよいのかわからない、というケースがあります。
これでは、休職期間満了で退職としようとしてもいつを退職日とすればいいのか判断ができません。
「休職制度のルールが曖昧だからトラブルになる」
就業規則を作成していなかったり、休職規程を整備していなかったりするにも関わらず、社員からの希望に応じて休職を認めてしまうと復職を巡ってトラブルになるケースがあります。正社員であればその間も社会保険料が発生していることもあり会社としての負担も発生しています。
また、本人からは復職希望があり医師の診断書も提出されたがそこには「短時間勤務で復職可能」「軽微な業務であれば復職可能」などと記載されており、会社が考える復職(完全復帰)とは程遠いということもあり得ます。
このようなことも就業規則や休職規程に復職基準が明記されており、休職命令発令時に書面で復職の条件を明示していれば防げた可能性があります。
┃休職制度のトラブルを防止する方法
○就業規則・休職規程を必ず作成する
休職制度を導入・運用していくのであれば就業規則(休職規程)の作成は必須です。就業規則もなく曖昧なままなし崩し的に運用してしまうのは非常にリスクが高いといえます。
就業規則には、休職が認められる条件や休職開始から復職までのプロセス、復職(治癒)基準などを明記して普段から社内に周知するとともに休職希望があったときには、改めて就業規則の規定に基づいて会社の判断で休職辞令(休職命令)を発して、休職開始の時期を明確にしておくべきです。
○休職命令発令から復職までの各段階で必ず書面を残す
休職制度によるトラブルを回避するためには、就業規則の作成と合わせて休職命令発令から復職までの各段階で必ず書面を交付することが重要です。休職命令書や復職願い、復職命令書はもちろん、就業規則から休職規程の重要部分を抜粋した説明書面もあるとよいでしょう。
メンタルヘルス不調を始めとした私傷病休職の場合には、復職時に主治医の診断書を求めることが一般的ですが、主治医は会社や社員本人の業務内容の詳細は把握できていないことが考えられるため、事前に情報提供をしておくことが重要です。
会社が主治医に情報提供をしないと社員本人からの申し出のみを参考にして診断書を作成されてしまうことになり会社にとって不都合が生じることがあります。
○会社だけで判断せず専門家の判断を仰ぐ
メンタルヘルス不調を始めとした私傷病休職からの復職については、主治医の診断書だけではなく産業医など会社や社員本人の業務内容を理解している医師の意見を聞くことも重要です。主治医は基本的には患者である社員本人の希望を尊重し、社員本人が復職を希望するのであれば「復職可能」と診断書を作成することが多いです。
しかし、明らかに復職が難しいと思われるケースや「時短勤務での復職なら可能」などと注釈が付くケースもあります。会社としては「時短勤務での復職では困る」ということもあるでしょう。
そのような意見の食い違いが起きないよう、会社としても産業医など会社指定医の意見を聞いたり、あらかじめ会社の業務内容などを主治医にも産業医などにも共有したりしておくことが休職トラブル防止につながります。
○休職者の不安を取り除くことが重要
休職トラブルの原因は、社員本人の金銭的な不安からくるものも多いと思われます。これは、復職できずに退職となってしまうと収入が途絶えてしまう不安、休職期間が長引くことへの不安などが考えられます。
その不安を払拭するために不完全な状態でも復職を申し出たり、休職期間を延長してもらうためにメンタルヘルス不調の原因は会社にあると申告してきたりすることもあります。実際にハラスメント行為があったとすれば対処するする必要がありますが、休職事由の間に因果関係があるかどうかは慎重に判断するべきでしょう。
休職者のそのような不安を取り除くためにも休職期間を明確にして、傷病手当金や退職後の保険給付のことなども必要に応じて情報提供をすることが効果的です。復職を焦ることが回復の妨げになることも考えられるため一度退職して治療に専念することも考えられます。
そのような一時的に治療専念のために退職した社員に対して治癒後に復職できるような制度を設ける(カムバック制度)ことも検討するとよいでしょう。
┃休職制度を運用するための実務対応
○休職期間中の給与
休職期間の給与について、多くの中小企業では支払いがないことが一般的です。社会保険被保険者であれば傷病手当金の申請ができる場合があります。
○休職期間中の賞与・ボーナス
休職期間中の賞与・ボーナスも給与と同様、多くの中小企業では支給対象外となります。ただし、評価期間の一部は通常通り勤務していた場合にはその期間分については支払われるケースもあります。
○休職期間中の社会保険料
休職期間中でも社会保険料は発生します。社会保険料は通常、毎月の給与から控除しますが給与が発生せず、控除ができない場合には社員本人から会社へ振り込んでもらう必要があります。
休職期間開始時には社会保険料の取り扱いについてもしっかりと取り決めをしておくようにします。
┃まとめ
今回は、休職制度の運用方法と、休職トラブルを防止するための運用方法とリスク管理についてお伝えしました。
休職制度は導入が法律上義務付けられておらず自由で会社独自の制度だからこそ、様々なリスクも想定した上で慎重に導入を検討し、適切に運用する必要があります。