【建設業界の2024年問題とは】働き方改革関連法と労働時間の問題をわかりやすく解説

建設業界では、いわゆる“2024年問題”への対応が急務となっていますが、それに先駆けて2023年4月からは月60時間超残業の割増賃金率引き上げも行われ、会社の利益を大きく圧迫する懸念があります。

今回は、建設業界の2024年問題と働き方改革関連法、労働時間の問題について課題と解決策を考えていきます。

目次

┃建設業界の2024年問題とは

建設業界の2024年問題とは、働き方改革関連法に伴う時間外労働の上限規制に伴い建設業界の労働時間がこれまで以上に厳しく制限されることを主な課題としています。

労働基準法の改正により罰則付きで時間外労働の上限が設定されることに対して、長時間労働が常態化している建設業界としては、対応が急務になっています。

働き方改革関連法による時間外労働の上限規制は、長時間労働を無くし、建設業界をホワイトな業界にしようという目的がありますが一方で、人材不足や社員(職人)の高齢化という課題が残されたままでもあります。

国土交通省によると2030年頃、団塊の世代の離職が見込まれておりそれ以降、さらに人材不足が進み事業の継続が困難になる事業者が増えると考えられています。そこで団塊の世代が抜けずに継続雇用されたとしても社員(職人)の高齢化は免れません。

さらに、2023年4月からは月60時間超残業の割増賃金率が引き上げになるため、現在と同じままの労働時間を維持したとすれば、人件費が増加し、建設会社の利益を圧迫することになるでしょう。

建設業の場合は今でも日給月給制の賃金体系が多く、労働時間を減らせば社員(職人)の賃金の減少に直結し、そうするとさらに離職率が上がり、人材が流出してしまう懸念があります。

建設業界の2024年問題は、残業時間を減らすためにはどうするか、という問題に留まらず、働き方そのものや人事労務管理のあり方そのものを考え直す必要があると言えます。

→「月60時間超の法定時間外労働の割増賃金率アップ」について詳しくはこちら

┃建設業界の2024年問題と働き方改革関連法

○時間外労働の上限規制

建設業界の2024年問題を取り巻く問題として強いインパクトを与えたことの一つとして「時間外労働の上限規制」の問題があります。

2019年4月に施行された改正労働基準法を中心とした働き方改革関連法では、それまで法律上は明記されていなかった時間外労働の上限について、罰則付きで明記されることになりました。

この法改正によって、それまでの「守るべき目安」のようなものから「明確に守らないといけないもの=守らないと違法」になったのです。

・働き方改革関連法のポイント(原則)

時間外労働(休日労働は含まず)の上限は、原則として、月45時間・年360時間

臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合
→時間外労働・・・年720時間以内
→時間外労働+休日労働・・・月100時間未満、2〜6か月平均80時間以内
→原則の月45時間を超えることができるのは年6箇月まで

建設業に関しては、2024年3月までは、以上の上限規制が猶予されています。

猶予期間が終わる2024年4月以降、「災害の復旧・復興の事業」を除き、全ての建設事業者に対して、以上の時間外労働の上限規制が適用されます。

・時間外労働の上限規制(建設事業(災害の復旧・復興の事業)/2024年4月~)
特別条項に関することについて、

→「時間外労働+休日労働=月100時間未満、2〜6か月平均80時間以内」の規制は適用せず

多くの中小建設事業者では、完全週休2日制も実施できておらず、他の業種と比較して総労働時間が長くなりがちな状況を踏まえると対応に苦労することが予想されます。

○月60時間超残業の割増賃金率引き上げ

2023年4月からは、月60時間超残業の割増賃金率引き上げが実施されます。月60時間超残業の割増賃金率の引き上げは、既に大企業は実施されており中小企業に対しては適用が猶予されていましたが、その猶予期間は2023年3月をもって終了します。

他の業種と比較して1割から2割程度、総労働時間が長くなっている建設業にとってこの制度変更は、ダイレクトに人件費を圧迫する可能性があります。

→「月60時間超残業の割増賃金率引き上げ」について詳しくはこちら

○同一労働同一賃金

同一労働同一賃金とは、正規雇用労働者(正社員/無期雇用フルタイム労働者) と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差を解消することを指します。

労働条件や責任度合いなどに明確な違いが無いにも関わらず、「契約社員にすれば給与が低くて済む」といった認識でいることは、非常にリスクが高いです。“見習い”や“契約社員“という呼び方に関わらず、正社員と有期契約社員がいる場合には、「なぜそのような差があるのか」を説明できるようにする必要があります。

ただ単に「契約社員だから」という理由は認められません。

*厚生労働省
・同一労働同一賃金特集ページ

○年5日以上の年次有給休暇の時季指定義務

年5日以上の年次有給休暇の時季指定義務も建設業にとっては、非常に頭が痛い課題です。完全週休二日制の達成もままならない中小建設業が多い中で、年間5日以上、年次有給休暇を取得させることが事業主に義務付けられました。

この年5日の年次有給休暇の確実な取得には、特段の猶予期間はありませんので現時点でも実施ができていなければ法令違反ということになります。

年5日以上の年次有給休暇の時季指定義務の対象となるのは、1回の基準日(付与日)につき、年次有給休暇が10日以上付与される社員です。対象となる社員には、その付与した日から1年以内に5日間、年次有給休暇を取得させる必要があります。

年次有給休暇は社員が希望する日に付与するのが原則ですから、時季指定に関しても社員から希望を聞くことが原則です。ただし、本人の希望により年間5日を付与することができる場合や計画的付与を実施するときは、時季指定は不要です。

なお、事業主は、年次有給休暇の基準日や付与日数、消化日数、使用した日などを管理する管理簿を作成し保管(3年間)する義務もありますので注意が必要です。

┃建設業界の2024年問題による具体的影響

○建設会社の売上や利益が減少する

月60時間超残業の割増賃金率引き上げによる残業代増加、年次有給休暇の消化日数増加による人件費増加、時間外労働の上限規制による稼働時間の減少、これらの制度変更は、経費の増大と利益の減少に直結する問題です。

これまでと同じように経営していては、経費増加と利益減少は誰が見ても明らかであると言えます。こうした中で利益を確保していくためには、労務管理の在り方そのものを見直す必要があるでしょう。

○休日増加による工期の延伸

働き方改革関連法の中で改正労働基準法により、年5日以上の年次有給休暇の時季指定が義務付けられ他、国土交通省では「建設業働き方改革加速化プログラム」を策定し、長時間労働の是正のために週休二日制の導入を推進しています。

「建設業働き方改革加速化プログラム」の元、公共工事における週休2日工事を大幅に拡大することとされていますが、民間工事に関しても発注者や元請け事業主との調整の上、無理のない工期を設定することが求められています。

しかし、工期が延びればその分、人材の確保という課題は無視できません。

○社員(職人)の給与が減る

会社の経費増加と利益減少は、そこで働く社員にも影響を及ぼします。建設業の給与形態は日給月給制が多く、働いた日数だけ給与がもらえる、という仕組みが一般的です。工期が延びて働く日数は増える一方で、出勤日数が増えると時間外労働(残業)が増えてしまうという懸念があります。

これまで「休みよりも給与が欲しい」といった希望に応えてきた建設会社もあったかもしれませんが、今後はそのようなことは難しくなるでしょう。

しかし、建設業の場合、1日の労働時間そのものはそこまで長くないケースもありますので、適正な給与と適正な労働時間を両立させるための適切な労働時間管理が重要になっていくと考えられます。

○人材不足・採用難

長時間労働と少ない休み、これらは建設業の採用の大きな課題です。さらに、低い給与水準と社会保険未加入が加わると応募率はもっと下がります。昔はそれでも「手に職をつけたい」と応募してくれる人もいたかもしれません。しかし、今は時代が違います。

長時間労働と休日の確保という課題を解決するためには採用力を強化するしかありません。それも欠員補充ではなく、会社の将来を見据えた採用活動をしていく必要があります。

とにかく人材が足りないから応募してくれた人を採用する、そしてすぐ辞める、といった負の連鎖を止める必要があります。

┃建設業界の2024年問題の課題と対応策

○長時間労働の削減と休日の確保

建設業の場合、全産業の平均値と比較すると労働時間は長いものの、1日ごとに見るとそこまで残業が多くない会社もあります。それでも全体的な労働時間が長くなってしまう原因としては休日の確保が難しいことが挙げられます。

人材確保のためにも週休二日制実現は急務と考えられますので、会社が率先して発注者や元請け事業主と調整することが重要になるでしょう。

○労働時間・賃金など「労働条件・労働環境」の改善

日給月給制が一般的な建設業において、休日日数の増加は同時に給与金額の減少につながってしまいます。休日日数が増えたとしても給与金額が減ってしまっては人材確保には結びつきません。

また、「仕事がきつい」といった力仕事のイメージが強い建設業ですが、現場によってはそこまで力作業が無かったり、重機などの使用により女性でも十分活躍できたりするケースも増えて来ています。

解決するべき課題と気づいていないアピールポイントに気付き、労働条件・労働環境の改善を実行し、人材確保の取り組みを進めることが長時間労働削減や休日日数増加につながっていきます。

○中高齢者・女性・若手など幅広い層の活用

建設業の人材不足問題解決には幅広い層の人材確保が欠かせません。中高齢者が働き続けられる環境の整備、女性が活躍できるように重機などの設備投資をする、若者が働きたいと思えるような労働条件と労働環境の整備などできることはまだまだあります。

長時間労働削減と休日の確保には業務効率化が必須でそのためにはICT機器の導入は避けて通れないところです。このような課題に対して中高齢者層にはやや受けれにくいものの、若手社員であれば比較的抵抗なく導入が進むでしょう。その一方で、中高齢者のベテラン社員から若手社員への技能の承継も進めたいところです。

これからの建設業界発展のためには、幅広い層の社員に活躍の場を提供していくことが大切になるでしょう。

┃まとめ

今回は、建設業界の2024年問題と働き方改革関連法、労働時間の問題について課題と解決策を考えてきました。

これらの問題に特効薬はありません。一つ一つの課題としっかりと向き合い、自社だけではなく業界全体として、発注者や元請け事業主など建設業に関わる全ての人と解決に向けて取り組んでいく必要があります。

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この記事を書いた人

社会保険労務士法人GOALの代表。中小企業を中心に人事労務管理・就業規則の作成・助成金の申請サポートに対応しています。

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